Help
死体に驚いたレイヨは急いで起き上がると、尻餅をつきながら後退った。しかし直ぐに背中が何かに当たってそれ以上後ろに下がれなくなった。そこには細長い筒のようなものがあり、周りから水蒸気が出てきていた。部屋の中央には筒状の物体が3個平行に並べられ、両端の2つは筒の上部が60度ぐらいの角度で開いていて中は空だった。真ん中の筒は閉まっており、水蒸気はここから吹き出していた。
レイヨはそばに落ちていた毛布を掴むと、死体を見ないようにしながら、投げるようにその上に毛布をかけた。上半身しかかかってはいなかったが、彼女は安堵のため息をついた。そして、ゆっくりと真ん中の筒に近づいた。
「何が入っているのかしら」
筒の横には四角い箱があり、真ん中にはモニターが設置され、周囲には沢山のボタンやレバーなどが並んでいた。今、これらのボタンの多くが赤く点滅していた。筒は長さは2.5メートル、円筒の直径は1メートルぐらいの楕円形をしていた。上部は一面透明なガラスの様だが、埃が厚く積もっていて中は覗けなかった。レイヨはスカートの端で筒の埃を拭い去ると、屈んで顔を近づけた。中は水で満たされていて、何かが沈んでいるようだ。
「バン!」
突然、レイヨの目の前の透明な壁が何かに叩かれ、埃がまった。驚いた彼女は、
「キャッ!」
と悲鳴を上げて仰け反りながら壁際まで一瞬で逃げると、ファイティングポーズをとって身構えた。心臓が早鐘を打った。だか何かが出てくるような気配はなかった。
「ドン、ドン」
間の空いた音が中から発せられ、その都度上部の埃が踊った。
中に何かがいて、出たがっている。人に違いない。中は水だらけだった。
「早く出さないと窒息しちゃう!」
レイヨは筒に駆け寄ると周囲を観察した。筒の横には四角い箱があり、モニターに漢字で何かが書いてある。周囲には、
Caution
Damage
などと書かれたボタンが赤く光り、画面には日本語で何かが書いてあった。
○急○○○生
生命○○に○命○な○○があります。
速やかに○生プロトコールを○○してください
「読めないよ、こんな言葉。偉い人達の言葉じゃない」
ふと見ると、画面の右上に、
English
と描かれたボタンがあった。
「英語!」
レイヨは直ぐに押した。モニターの文字が英語に切り変わった。
An emergency has arisen.
Life support has fatal danger.
Start a resusciation protocol immediately.
「緊急?危険?うーん、何と無くしか分からないよー」
だが、どうも中の人に危機が迫っており、回避する方法が書いてあるらしい。
右下には
Help
と書かれたボタンが画面にあった。これはわかった。『助けて!』だ。確かに自分のことに違いがないと思い、迷わず押してみた。するとモニターにはこの筒の模式図が描かれ、筒の前下部の蓋を開け、レバーを引くように描いてある。文字は殆ど読めないが。
レイヨは筒の前部に周り、床にしゃがみ込んだ。取手の付いた紅白の縞模様に囲まれた蓋は、床に近い低い位置にあった。
「これだ!」
彼女は小さな取っ手に手をかけ、蓋を開けようと思いっきり引っ張ったが開かなかった。
「あれ?」
足を筒にかけて力一杯引っ張ったが、僅にガタガタ動くだけでビクともしなかった。
「なんでー?」
モニターを再確認すると、取手を90度回してから引っ張るらしい。やってみると簡単に蓋は開き、中には黄色と黒に彩られた禍々しレバーが出てきた。彼女は直ぐに引いた。
「プシューッ」
音を立てて水蒸気を噴き出しながら、ゆっくりと筒が上に開き始めた。




