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共生世界  作者: 舞平 旭
西暦世界
31/179

発症

 沙耶が発症した。


 彼女は昨日パリから帰ってきたが、体調が優れずに直ぐに横になってしまった。いつもは旅から帰ると、旅先で体験したことなどを菊池に話してくれたのだが、相当調子が悪いのだろう。


「大丈夫かい?熱でもあるの?」


 腋窩で体温を測ると39.2度。菊池の顔は真剣になった。


「これは病院に行った方がいい。今からうちに行こう」


 彼女を連れて彼の勤める南横浜大学付属病院に向かった。当直医は幸い知り合いの内科医で、直ぐに診察をしてくれた。採血結果を見たが、軽度の炎症反応の上昇のみで、インフルエンザは陰性だった。風邪だろうと診断され、解熱剤をもらい家に連れて帰った。薬は著効し、熱は3日で下がり、彼女は体調を取り戻した。


「ああ。やっと仕事ができるわ。3日も休んじゃった。ヤバイなぁ」


 彼女はパンをくわえながら慌てて仕事に向かおうと玄関に行ったが、リビングの菊池の所に戻ると、パンを口から離してキスをした。


「いってくるね」


 彼女は再びパンをくわえなおすと玄関から出て行った。彼はその後ろ姿をみつめながら笑っていた。



 再び慌ただしい日常が始まったかに見えた。

 しかし一週間後に彼女は身体の怠さと夜間の微熱が出現し、持続するようになった。彼は彼女を再び病院に連れて行った。検査の結果、白血球数が異常に増加しており、分画から好酸球が全白血球細胞の50%を超えていた。通常は数%しかない好酸球の増多はアレルギー性やアトピー性、寄生虫が多い。彼女は『好酸球増多症』と診断され、精査のために入院となった。

 血液内科の医師は、


「確定診断には少しかかります。珍しい病気ですが最近は治療成績も上がってますから」


 と言ったが、菊池には妙な胸騒ぎがしていた。


 好酸球増多は臨床でしばしば目にするが、その原因はアレルギーやアトピー以外にも多岐に渡るため、多くは原因が特定できない。更に好酸球による臓器障害は珍しく、治療の必要がある症例は殆どいない。原因不明の好酸球増多が6ヶ月以上続くものは『特発性好酸球増多症候群』と診断される。脱力、食欲不振、発熱、咳などの非特異的症状があり、心不全、心筋症、血栓症などを起こす場合もある。


 沙耶は菊池を見ると、


「ごめん、たかちゃん。少し頑張り過ぎちゃったみたい」


 ベットの上に横になっていた彼女は、熱で火照った顔で舌を出した。


「なにが『頑張り過ぎた』だよ。まあ、いい機会だから、ゆっくりしろよ。こんなんじゃ、式は延期だぞ」


「えー、嫌よ。ドレスも頼んじゃったし。絶対やる!」


 彼女はまるで子供のように駄々をこねていた。


「ははは。わかったよ。何かあればすぐ連絡して」



 だが、彼女の発熱は良くならなかった。抗生物質の効果はなく、解熱剤は効果があったが、一時凌ぎで、服用後二時間解熱できればいい方だった。


 そして、彼女が入院して4日後、事態は急変した。

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