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共生世界  作者: 舞平 旭
西暦世界
29/179

地虫

「レイヨー!」


「レイヨちゃーん!」


 村の捜索隊はレイヨが消えた辺りを懸命に探したが、周囲は瓦礫が多く危険で、あまり奥には踏み込めなかった。更に、一緒にいたササラ達の記憶が曖昧だったことも捜索を難航させていた。皆で必死に捜したが、時間は虚しく過ぎて行くのみだった。

 日が暮れ始めた。

 この辺りには化物がいる。

 塩土は決断せざるを得なかった。


「おい、みんな帰るぞ。明日出直すしかない」


「そんな!まだ捜します!レイヨ!レイヨ!」


 ササラは泣きながら声を張り上げた。後ろからナクラが彼女の肩を抱くと、彼女は彼の胸で泣き崩れた。


「レイヨー!」


 ササラの声が闇の帳の降り始めた森に響いた。

 この森で一晩過ごすのは容易ではない。ましてや女の子一人では。

 塩土は後ろに広がる闇を見た。闇は全てを公平に覆い隠してくれる。せめて闇が、この可哀想な少女の恐怖を少しでも覆い隠してくれるように祈るしかなかった。



 レイヨは階段を下に降りていった。コツコツとブーツの音が響いた。松明の照らし出す範囲は狭く、長く続く階段の先を見通すことはできなかった。一歩降りるごとに大気は徐々に冷えていき、彼女は身震いした。


「ぐうぐぐう」


 階下で地に響くような、くぐもった音がした。


「何?」


 そっと手すりの間から階下を覗くと、かろうじて巨大な芋虫が蠢いているのが見てとれた。地虫である。体長1メートル以上ある。


「やばいなぁ」


 地虫はこの辺りでは比較的目撃例が多い魔物だった。成虫で体長1~2メートルはある。食欲は旺盛で、主に地中に生息する虫や小動物を獲物にしている。肉食だがヒトを襲うことは少ない。元来は臆病な性質だが、身の危険を察知すると、驚くべき敏捷さを持って、その鋭い歯と濃緑色の毒液で攻撃してくる。


「どうしよう」


 地虫は階段の下に陣取っており、横には半開きの扉があった。向いの壁には大きな穴が空いているので、多分こいつの出てきた穴なのだろう。


「そうだ」


 彼女は昔、村のお婆さんから聞いた話を思い出した。


『地虫は火に怯える』


 確かそう言っていた。


「試してみるか」


 彼女は地虫に松明を投げつけた。松明はくるりと回転しながら、地虫の近くに落ちた。


「ぶしゅっ」


 奇妙な音を立てて、松明を避けるように身体をくねらせながら、横の巣穴に潜り込んだ。


「今だ!」


 彼女は階段を急いで降りると、松明を拾いながら、半ば開いた扉の中に体を滑り込ませ、あわてて扉を閉めた。ズシンという響きが辺りを揺らせたが、周囲からの反応は何もなかった。

 中は真っ暗だった。

 濃密な闇。

 明の灯りが闇霞を切り裂くが、瞬く間に闇が補填して行く。濃度、そう。闇に濃度を感じるのだった。彼女は闇の海を渡って行く。少し胸苦しい感じさえした。しかし正しい方向に自分が向かっていることに疑いはなかった。



 暫く歩くと、廊下の一番奥に大きな扉があった。扉は金属製の両開きで、表面には、かなり掠れていたが、三角形と4つの円を組み合わせたような赤いマークが描かれていた。なんだかわからないが、心に不安を駆り立てる象徴だ。その下には


『BSL-2』


 と大きめな文字で書かれ、更に下には何かの注意書きらしき英語が書かれていた。彼女は英語を多少理解できた。別に彼女が特別な訳ではない。村では村長の方針で、子供に英語を勉強させていたからだ。しかしこの扉の単語は難しく、理解できなかったが、どうも『入るなら注意しろ』と書いてあるようだ。


「『BSL-2』ってなんだろう?」

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