調書
神沼靖の供述調書より抜粋(ビデオ映像あり)
神沼「僕は姉が好きでした。とても綺麗で優しくて、勉強も僕の何十倍もできましたし、姉は僕を大切にしてくれました。そんな姉がおかしくなったのは、8月30日頃だったと思います。3週間ほど天草の辺りに行ってきて・・・細かい場所は知りません。ふらっといなくなるのはいつものことで・・・姉は両生類の研究をしていましたので、フィールドワークに出かけるのは年中でした」
係官「お姉さんは大学の先生だったんだよね?」
神沼「はい。姉は西九州大に勤めていました」
係官「えーと、君とお姉さんは血縁・・・あ、いや・・・」
神沼「いいえ、知ってますから大丈夫ですよ。僕と姉は実の兄弟ではありません。母が死ぬ前に教えてくれました。ほらあるでしょ?NPO法人の『絆』ってやつ。あそこかららしいです。どうしても男の子が欲しかったといってました」
係官「それで、お姉さんが天草から帰ってきてどうなったの?」
神沼「いつも急に帰ってきて、直ぐに研究室に向かいます。ただ今回はなんだが体調が悪いようで、そのまま部屋で寝てしまいました。翌日、姉は高熱を出しましたので病院に行きました。病院では風邪と診断されて薬が出され、それを飲むと少し落ち着いた雰囲気でした。ですが次の朝には姉は左太ももの辺りを盛んに痛痒がり、熱も前日ほどではありませんでしたが、続いていました。足をみると、何かに小さな瘤のようなものが3つ4つできていました。姉は痒がり、自分の爪で掻き毟ると中からは膿が沢山でてきました。姉に病院へ行くように勧めましたが、決して行こうとはしません。仕方が無いので、僕が傷の手当てをしました。僕は消毒薬とガーゼと包帯で治療の真似事をしましたが、あちこちから血液と膿がでてきました。そして、膿に混じって1ミリぐらいの白い虫が出てきました。瘤は日に日に身体中に拡がって、皮膚の下に虫が蠢いていました。姉は虫が身体を這いずり回ると痛がりますので、僕は身体中の虫を丁寧にピンセットを使って引き摺り出してあげました。大きな瘤はカッターで縦に割いて中身をかき出しました。ですが姉は不思議と僕がやることに痛いとは言いませんし、むしろ、虫を出して欲しいようでした」
係官「だけど、お姉さんは両手に縛られた跡があった。あれは君が縛ったのかい?」
神沼「あ・・・はい・・・。姉が・・・縛ってくれと頼むものですから。痒みで無意識に掻きむしってしまうのが嫌だったのではないでしょうか」
係官「それでは何故両脚も縛られていたのかね?」
神沼「それは・・・とにかく姉が望んだのです。僕は姉の望みを叶えたのです」
係官「亡くなったのいつ頃?」
神沼「亡くなった?姉は死んだのですか!いつですか?僕がこんなとこに入れられたから!」
係官「落ち着きなさい。司法解剖の結果では、お姉さんは10月初めには亡くなっている」
神沼「ええ?だって捕まる前は元気だったじゃないですか!だって、だって・・・」
係官「お姉さんの身体を傷付けたのは何故?」
神沼「傷付けた?僕はそんなこと・・・」
係官「ここに解剖記録がある。お姉さんの両側乳房、右殿部、両側大腿が切り取られていて、切り取られた部位は家からは見つからなかった。どこにやった?」
神沼「・・・僕は姉が大好きでした。姉にずっと面倒を見てもらってきましたが、姉が病気になってからは僕が姉の面倒をみてあけたのです。姉の身体を拭いてあげて、オシッコの面倒もみてあげました。治療もしてあげました。姉は僕に感謝していたんです。
『やすくん、ありがとう』って。
そして姉は僕に語りかけてくれたのです。
『やすくん、私を食べて』と」