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共生世界  作者: 舞平 旭
脱出
136/179

姉妹

 クナハの妹、シクラは彼女より2つ下だった。小さい頃から泣き虫で、クナハはいつも妹の世話をしてやらねばならなかった。友達に泣かされてはクナハが仕返しに行き、逆に男の子を泣かせていたため、村ではクナハは『男女おとこおんな』と呼ばれていた。


 ある時、何時ものようにシクラが泣かされて帰って来ると、クナハは何も聞かずに飛び出していった。そして、広場にたむろしていた少年達の背後から、


「あんた達、よくも、シクラをいじめたわね!」


 とどなった。


「なんだと?」


 少年達が一斉に彼女に向き直った。その顔を見て、クナハは自分の浅はかさを呪った。今回の相手は悪かった。少年のリーダーは、村の大地主の息子で、クナハの両親はこの地主の小作として雇われていたのだ。決して戦ってはならない相手だと知ったクナハは、それ以上何も言わずに、ただ相手を睨んでいるだけしかできなくなった。


「おい、男女。何しにきた?まさか、俺に何か文句でもあるのかよ?」


 リーダーの少年は彼女を突き倒した。彼女は少年を睨みながら、ゆっくりと立ち上がった。


「なんか文句あんのか?お前、生意気なんだよ」


 少年は彼女の腹に蹴りを放った。彼女は前のめりになって倒れた。そして倒れた彼女を、少年達は名々小突き回した。彼女は歯を食いしばって必死に耐えていた。しかし、


「おねぇちゃん!」


 と舌ったらずな声が聞こえると、クナハは少年達を突き飛ばして、声の方に走って行った。


「何しに来たの!早く逃げな!」


 だが、少年達の方が動きは早く、彼女達の退路は断たれてしまった。


「おー痛え。お前ら、立場わかってるのか?いいのか、俺たちに逆らって?」


 リーダーの少年は、クナハに突き飛ばされた肩をさすりながら近づいてきた。クナハはシクラを庇うように前に出た。


「妹に手を出したら許さない!」


「へー。どう許さないんだ?」


 リーダーの少年の目配せを合図に、他の少年達がシクラの髪を掴んで引き寄せた。


「シクラ!」


 クナハが妹に気を取られている間に、リーダーの少年はクナハの腹にパンチを叩き込んだ。うめき声をあげながら、彼女は膝から崩れ落ちた。


「おーし、裸にひんむくか!」


 リーダーの少年は、再び彼女の腹に蹴りを加えてきた。息が強制的に吐き出され、胃液が逆流した。涙が溢れ、クナハの視界はぼやけていた。


「おねぇちゃーん!」


 遠くで妹の泣き声が聞こえた。


「シ・・・クラ」


 クナハはシクラの方に手を伸ばしたが、その手は少年の一人に踏み潰された。


 その時、大きな声が辺りに響いた。


「おい!お前ら、何やってるんだ!」


 全員が声のする方に振り返った。声を発した少年は少し離れた高台に立っており、足元には白い犬が座っていた。


「なんだ、マシカ、文句あんのか?」


 リーダーの少年が威圧するようにマシカを睨んだが、彼は全く気にする様子もなく、犬と共にゆっくりと少年の前までやってきた。


「見てわからねぇのか?お前は関係ねえだろ?引っ込んでろよ!」


「そうはいかねえな。女の子に暴力を振るうクズはみのがせねえ」


 マシカは腕を組みながら、薄笑いを浮かべていた。


「なんだ、やるのか?お前みたいな弱っちい奴が、俺達にかなうのかよ!」


「そりゃかなわねえよ。でも心配しなくていいぜ!ハツ!やれ!」


 マシカの号令と共に、いきなり足元で大人しくしていた白い犬が飛び出してきた。ハツと呼ばれた犬は、リーダーの少年の腕に噛みつき、そのまま地面に押し倒した。


「いてー!」


 少年は叫び声を上げながら泣き出し、必死に犬を振り払おうとした。


「助けてくれ!痛い、痛いよ!」


 マシカは少年の傍に立ちながら、


「ハツ、やめ!」


 と命令した。ハツは直ぐに少年から離れると、マシカの足元まで下がった。少年達は泣きべそをかいているリーダーを担ぎながら、一目散に逃げて行った。


「大丈夫か?」


 マシカはクナハに声をかけた。クナハは涙を拭くと、ゆっくり立ち上がった。しかし、マシカに返答するよりも早く、シクラが泣きながら走り寄ってきた。


「おねぇちゃん、ゴメンね。ゴメンね。私のせいで。ゴメンね」


 シクラはクナハに抱きついた。


「シクラのせいじゃないよ。私が馬鹿だったんだ。それに、ほら、全然大丈夫。奴らのなんか、全然効いて・・・いてて」


 クナハは無理して急に動いたため、痛みに顔をしかめた。


「おいおい、無理するなよ。お前ら家どこだよ?送ってってやるよ」


「ありがとう。マシカ・・・だっけ?助かったよ」


「別にいいよ。奴らには借りもあったし。それに、お礼ならこいつに言ってやってくれよ。こいつがいなかったら助けなかったよ」


 そう言うと、足元の白い犬の頭を撫でた。


「ありがとう、ハツ」


 クナハがハツを抱きしめると、ハツはクナハの顔を舐めた。


「はははは」


 これがマシカとの出会いだった。マシカの家は裕福で、クナハの境遇とはかけ離れていたにも関わらず、3人はこれ以降、良くつるんで遊んだ。


 村が壊滅するまでは。

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