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共生世界  作者: 舞平 旭
浄化
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小隊との接触

 

 約30名の小隊は、村の外周を南下して炎を避けながら進み、御宮に続く森に辿り着くと東に進路を取った。村は、さながら炎の壁に囲まれていて、途中で村人に会うことなどなかった。しかし御宮の周囲には炎は回っておらず、近くにつれ、嘘のような静けさが増していった。

 ルキソは年配の上級兵士と共に斥候に着いていた。彼は周囲に注意しながら、顔面を硬直させて進んで行った。手は剣の柄にかけたままだった。


「おい、新人。そんなに硬くなってたらもたないぞ」


 傍を歩く上級兵士が話しかけてきた。彼は無防備な状態で、まるで近所を散歩しているような気軽さで歩いていた。


「任務中は私語厳禁です」


「ははは。かてぇなぁ。おら、総兵士長だって、俺達が無駄話してるのに気がついているのに何も言わないだろ?大丈夫だよ。今回は剣でキンキンってのは無しだ。だって、相手は農民だぜ?武器も無いしよ。お前、一体誰と戦う気なんだ?」


 上級兵士はルキソの肩を叩くと高笑いをしていたが、ルキソは顔を引きつらせながら笑うのが精一杯だったり



 菊池とキネリは御宮に戻り、村民を誘導していた。


「もう少しだ、頑張れ。こっちだ」


 傷ついた人々の長い列は、寡黙に俯いたまま川へ向かっていた。多くの人々がすすにまみれ、火傷を負い、火に追われて逃げ続けたため、精も根も尽き果ててしまったようだった。菊池は傷ついた人に応急処置をし、励まし、元気な者には手助けを命じたりと忙しく動いた。キネリは菊池に言われるまま、看護師のような慣れない仕事に四苦八苦していた。その時、キネリは住民達が逃げてくるのとは異なる西の方角から、兵士達がやって来るのを発見した。


「菊池、兵がくる」


「もう来たか。まだみんなの避難が終わっていないのに」


 菊池は負傷者の手当てを他の村民に代わらせると、予定通りキネリと共に御宮の床下の陣地まで移動した。ここでなんとか食い止めなければならない。


「運が良いことに、こちらが先に敵を見つけた。運が悪い事に、敵は30人はいる。小隊を送り込んできたようだ」


 斥候を二人出し、その後ろをやや縦長に陣形を組みながらこちらに向かってくるのが菊池にも分かった。間もなく村民の列が発見されるだろう。


「だが私達はやはり運がいい」


 とキネリは口元に笑みをたたえながら言った。


「奴らの位置、覚えているか?」


「ああ。そばには油壺がある」


 そう、菊池にもわかった。油壺は菊池たちが移動し、低木の間に隠しておいた。そう簡単にはわからないはずだ。しかし斥候があのまま進めば、こちらに伸びている導火線が見つかるかもしれない。点火すればなおさらだ。キネリは菊池の肩を叩くと、


「私が斥候を倒したら、油壺を点火して。いい?向こうには渦動師はいないみたいだけど、冷静にして。殺意や怯えは相手に探知されやすいから。わかった?」


 と言うと、菊池の返答も待たずに斥候に向かって突進した。


「攻性変換!」


 彼女の右肩から発したオレンジ色の光は、右手のひらに向かって帯を形成した。



 ルキソは向こうの方に渦動師の気配を感じた様な気がした。


「何だ?」


 彼は腰の剣を握る手に力をこめた。傍を歩いていた上級兵士はルキソの態度を見ると、


「どうした?」


 と言って彼の見つめる方角に眼を凝らした。その途端、何かオレンジの光がこちらに向かって来るのが見えた。しかし彼らには、この場に相応しくない光を渦動光だと認知することはできなかった。


「それ!」


 キネリは斥候の一人に向かって渦動波を発射すると、突進していった。彼は腰の剣を半ば抜いた所で右肩が消失した。腕が剣を掴んだまま下に落ち、兵は横向きに倒れた。隣にいた斥候は、いきなり正面に渦動師の女が現れ攻撃してきたことに反応できずにいた。キネリは腰から剣を抜くと、硬直している兵士の首を狙って横に払ったが、首には赤い筋を作っただけだった。


「このアマ!」


 我に帰った兵士は、反撃のために自分の剣を抜こうとした。すると彼の首の赤い線が広がり、血液が、まるで怪物の涎のように垂れ始め、首はゆっくりと横に落ちていった。直後に切り口から多量の血液が噴水の様にほとばしった。彼女はその場で姿勢を低く取ると、傍の低木の茂みの後ろに隠れた。



 御宮の床下にいた菊池は、急いで目的の油壺の導火線に火を付けた。導火線は黒色火薬を紙で巻いて紐状にしたものであり、火は黒色火薬に引火し、バチバチと火花を作りながら、ゆっくりと油壺に向かって走り出した。

 斥候が倒されたのを目撃した小隊は、その場で散開して身を隠し、倒れた仲間の様子を伺っていた。


「よし、良いぞ」


 キネリは自分の方に向かってくる導火線の火花を見つめながら思った。数分で爆発する。丁度散開している小隊のど真ん中で。これ以上近づくとこちらも危ない。キネリが菊池の元に戻ろうとした時、いきなり導火線の火が消えた。その事実に、菊池もキネリも我が目を疑った。

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