ダンジョン3/卵
その後もアレンは順調にダンジョンを潜っていく。
そして終盤に差し掛かったころアレンは衝撃の光景を目の当たりにする。
トカゲのようなモンスターと大量の大きなハチのモンスターが争っていた。
トカゲ、ハチ、ともに大きさは50㎝程だ。
トカゲのモンスターは産卵中だったのだろう。
巣には卵がいくつかあり、巣を守っているため、ほとんど動けずにいるが、どこからか岩を空中に出して攻撃している。
(どうなってるんだろう?魔法ではなさそうだし……これがこのトカゲの能力なのかな?助けたいけどこのまま行っても僕もやられるし何か方法が無いかな。)
アレンが思案していると、ハチたちが次々と絶え間なく攻撃を続ける。
攻撃をしている間に次々と卵を運び出す。
すでにいくつかは取られてしまったように見える。
(マズイ!!もう行くしかない!一か八かだ。エリシア様どうか我に力を……)
神に祈りを捧げ、アレンは駆けだす。
「くらえ。燃焼炎‼」
その言葉とともに範囲系の火魔法が炸裂する。
意表を突かれたハチたちは少し混乱した様子を見せるが、すぐに標的をアレンに変え、攻撃を開始する。
鋭い針でアレンに迫るハチを回避し距離をとる。
しかしさらに続けて攻撃してくるハチの攻撃をわずかにかすめてしまう。
「くっ⁉」
思わず顔をしかめたくなるよう痛みがアレンを襲う。
よく見ると、針から小さなとげが無数に生えている。
(少しかすめただけなのに強い痛みが襲ってくる。しかも強力な毒を持っているようだな。僕は状態異常無効のおかげで、毒にはかからないがあのトカゲは毒が回っているはずだ。早くしないと僕の力では手に負えなくなる。)
しかし、絶え間ない攻撃に思うように動けずにいる。
(クソっこのままじゃだめだ。何か策を講じないと)
アレンはスッと剣を構え、考え始めた。
しかし、その間にも体は止めない。
というより、止めるわけにはいかない。
ハチの攻撃を回避し、隙は見逃さず反撃するも、ハチの外骨格は堅く、致命傷にはならない。
「なかなか刃が通らないな。でも、魔法は結構効いてたように見える。それなら、これだったらどうだ。」
(イメージを強く持って……)
「光輝刃‼」
魔法を展開し、剣の周りに光を這わせる。
そして、ハチを斬りつけると……ザシュッ‼
ボトッ……
「斬れた……よし‼でもこれ、長くは持ちそうにないな。一気に決めるぞ‼︎」
魔法の制御には自信があったアレンだが、これにはかなりの神経を使っている。
光の熱を利用し、相手を焼き切るのだが、それだと剣まで使い物にならなくなってしまう。
そのため、強力な光の熱を抑え込み、相手を斬るときに、熱を放出するようにするという仕組みのため、絶妙な調整が必要となる。
そこからのアレンは早かった。
その後も次々とハチを斬っていく。
その様子に他のハチたちも恐怖を感じたのだろうか、撤退し始めた。
「ふぅ、ハチたちが撤退してくれて良かった。流石にあの数を全部相手すると魔力がもたなかった。そんなことよりトカゲだ。」
アレンは急いでトカゲのもとに向かい、すぐさま解毒魔法をかける。
しかし……
「クソっ、思うように解毒ができない⁉︎どうしてだ?」
先のモンスターはキラーホーネットという名で様々な種類の毒を使い、解毒することは専門の医療魔術師でも困難であると言われている。
さらに、すでに毒は全身にまわっており、アレンが何とかできるような状態ではなかった。
せめて回復魔法で体力の回復を試みるも、毒の影響で体力は減る一方だ。
そんな中、トカゲが最後の力を振り絞り、卵を産もうと踏ん張り始めた。
他の卵は既に全て奪われてしまったようだ。
そして、自分の死期を悟り、何としてでも子孫を残そうと残っているわずかな力を振り絞る。
アレンもその姿を見て精一杯の力で回復魔法をかけ続ける。
そもそもアレンがこのトカゲを助けたいと思ったのは、自分の村が襲われた時のことを思い出したからだ。
当時は何も出来ず、ただ逃げることしかできなかった。
しかし、今なら、トカゲを助けることができるんじゃないか?そう思い、行動したが、最後の最後でトカゲの死を少しだけ遅らせることしか出来ない。
しかし、母は強しだ。トカゲは懸命に自らの命を賭して無事に卵を一つ産んだ。
そして……息絶えた……
「救えなかった……僕に知識があれば救えたかもしれないのに。自分が毒にかからないからといって甘く見てた部分がどこかにあったんだ。くそ……」
自分の不甲斐なさから涙が止まらない。
ふと、残された卵が目に入る。
(きっとこのままだと誰かに食べられてしまう。そうなったらこのトカゲの覚悟が無駄になってしまう。)
「この子は僕が責任を持って育てます。天国で見守っててあげてください。」
そう言って卵をそっとカバンの中に入れ、再びダンジョンの奥へと潜っていくのだった。
誤字、脱字等ありましたら教えてください。