雨の日と魔獣
朝から雨が降っている。
二人は雨用のコートを身に纏い、ぬかるんだ道を歩いていた。
「やっぱり、雨の中の移動は一苦労ですね。」
「ああ、でも、もうすぐ着くから頑張るんだ。」
そんな話をしていると、少し離れた所から、
「きゃぁーーー!!!」
「だ、誰かーー!!誰かいませんかー!!」
と、二つの悲鳴が聞こえてきた。
「アレン!」
「はい!」
悲鳴が聞こえ、最小限の会話で互いの意図を察し、その声のする方へと向かった。
わずか数ヶ月でこれだけスムーズに意思疎通出来るのは、それだけ互いを信頼し合っているという事に他ならない。
それを可能にしたのは、アレンの必死さだった。
朝早くから自主練に励み、日中は厳しい稽古、夜には、新たに加わった魔法操作の鍛錬、それらを凄まじいまでの飲み込みの早さで着々とこなしていく。
強くなりたい、その一心で。
それに応えようとグランもまた、アレンに正面から向き合い、己の全てを教えようと決断できた。
そんな師弟だからこその信頼関係だ。
本当のグランを知る事ができたのも大きい。 あの一件以来、二人の関係はより強固なものになった。
彼らは、共に過ごしてきた時間はそれほど長くはないが、その時間は、とても深く、濃いものなのであった。
二人が悲鳴の元へとたどり着くとそこには、巨大な猪に似た鋭い牙を持った魔獣が、泣き崩れる三つ編みの少女と、それを抱きしめて守ろうとするショートヘアの姉らしき人物に、襲いかかろうとしていた。
グランとアイコンタクトをとったアレンが、すかさず両者の間に入り込み、剣で魔獣の牙を受け止めた。
「二人とも、大丈夫ですか⁉︎」
アレンの問いかけに呆気にとられる姉妹。
それもそのはず、普通の人から見ればアレンは、ただの子供にしか見えないのだから。
「心配することはない。ああ見えても、あいつそこそこやるからな。」
「で、でも……」
背後からの男の声に一瞬ビクッとした姉妹は、今、目の前で起こっている出来事をミラは、未だに信じられずにいた。
自分と同じどころか、少し年下にも思える少年が、その小さな身体で、巨大な魔獣に全く力負けしていない。
それどころか、ぐんっ、と、押し返し、魔獣の体勢を崩す。
アレンは、魔獣の喉元に剣を突き刺した。
ブヒュィーーーー
苦しそうに叫び、もがく魔獣。
「水槍!」
放った水魔法が、横っ腹に突き刺さり、魔獣が倒れた。
「す、すごい……ジャイアントボアを一瞬で……あなた達何者なんですか?」
思わず感謝の言葉よりも疑問が先に出てしまった。
「俺たちは、ただの冒険者さ。それ以外の何者でもない。それより、お前達こそどうしてこんなところにいるんだ。」
「私達は、サモットから、薬草の採取に来たんです。それで、帰る途中にジャイアントボアに襲われて……危ないところを助けていただき、ありがとうございました。」
「ありがとうございました。」
姉妹は二人して、頭を深々と下げ感謝するのだった。
「それと、申し訳ないんですが、もし、サモットに向かうのでしたら、同行させていただけませんか?」
「別に構わんぞ。」
「本当ですか⁉︎ありがとうございます。私、ミラと申します。よろしくお願いします。こっちは、妹のユラです。」
「よろしくお願いします。」
「俺は、グラン。こっちはアレンだ。」
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
こうして、四人はサモットへと向かうのだった。
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