魔法の無詠唱化 / 本当のグラン
二人は一先ずカラカルまでの途中にある街サモットへ向かうことに決めた。
二人が歩いていると、グランが、ふと何かを思い出したかの様に声をあげた。
「あ、そういえば、お前に魔法について詳しく話していなかったな。」
「確かに、そうでしたね。でも、まずは、魔法よりも身体を作るってことかと思ってましたけど。」
「それもあるんだが、ダンジョンに潜る前に覚えておいた方が良いことがいくつかあるんだ。」
「覚えておくべき事、ですか?」
「ああ。まず、魔法の発動についてだが、魔法は体内の魔力を消費し、具体的に起こしたい現象を強くイメージする事で発動するんだ。その時に、イメージしやすくするように詠唱があるんだが、それを頭の中で素早く明確にイメージする事で無詠唱化することができる。コツさえ掴めばこっちの方が断然楽だから、やってみると良い。」
「イメージですか……はい、わかりました。」
(うーん、そうだな、風斬撃は……竜巻とは、ちょっと違うよなー、風、風、斬る……何だろうな……)
「あ!そうだ!うん、これならわかりやすいな。」
そう言って、アレンは手をかざし、無詠唱で風斬撃を発動した。
すると、かざした手から風斬撃が放たれた。
「おお、まさか一発で出来るとは思わなかった。俺でも2週間はかかったんだぞ?一体何をイメージしたんだ?」
グランが、驚きを隠せずにアレンに問いかけた。
「はい、鎌鼬です。元いた世界で一番似てるのはこれかなって思いまして。」
それを聞いたグランは、それがあったかとでも言いたそうな顔のまま固まっていた。
「あのー、師匠?大丈夫ですか?」
アレンが問いかけると、
「ああ、大丈夫だ。ただ、俺の2週間の寝ても覚めてもイメージ、イメージの時間は何だったんだよ。って思ってな。そうか、元の世界で似たようなのがあったんだな。」
ふぅ、とため息混じりにそう答えた。
「そういえば、師匠は誰かから魔法を教わったんですか?」
アレンの質問にグランはピクリと身を震わせた。
「ん?あ、ああ、俺にも師匠がいてな。それはそれは、厳しい人だった。ま、そのおかげでここまで成長できたし、今では、感謝してるけどな。」
「で、今でも、その方には頭が上がらないって感じですか?」
「そ、そそ、そんな事はないぞ⁉︎めっちゃ頭上がるし、命令とかもしちゃったりなんかして……」
「あ、あの方じゃないですか?師匠の師匠って。」
「え?も、もも、申し訳ございませんでしたー!!……って、こんなところにあるわけないだろうが!……、あ……ゴホン、あー、今のはあれだ、忘れてくれ。」
グランが恥ずかしそうに咳払いで誤魔化そうとしたが全くもって誤魔化しきれていなかった。
「やっぱり、今のが"素"の師匠ですよね?」
アレンがニヤニヤしながら聞くと、グランは、
「今のとは何だ?さっぱりわからんな。」
と、わざとらしくしらばっくれる。
「実は、薄々気づいてたんですよね。師匠が本当は面白くて、優しい人だって。逆に、どうして今までそんな仏頂面だったんですか?名前も呼んでいただいたことありませんし。」
エヘヘ、と笑みを浮かべてアレンは尋ねた。
それにグランは、
「それはだな……あれだ……初めての弟子だったからどう接していいか分からなかったんだ。」
と、答えた。
それは、アレンが思っていたものとは全く違った。
アレンは、この厳しい世界で生き抜くためには、馴れ合いは不要だ。とでも言うのかと思っていた。
しかし、返ってきた答えは、初めての弟子にどう接していいかわからないということだった。
それを聞いたアレンは、
「アッハハハハ、なんだ、そんなことだったんですか。師匠もそういうこと気にするんですね。僕はてっきり、もっと深刻な理由かと思っていましたよ。」
笑い転げるアレンにグランが、
「そんなこととは何だ、そんなこととは!俺にとっては大事なことなんだぞ!初めての弟子だし、師匠らしく威厳を保たなければいけないと思っていたんだ。」
と、言った。
それを聞いたアレンは、グランが自分の事をそんなにも、真剣に考えてくれていた事を知り、喜ばしく思うと共に、尊敬に値する人物であると改めて感じるのであった。
グラン、やっと素直になりましたけど、彼の思っていた理想の師匠像は崩れ去ってしまいましたね。
これからもよろしくお願い致します。
誤字脱字等ありましたら教えてください。
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