第7話 クラスメイト②
授業終了の鐘の音と共に教室はざわめき始める。
高校での最初の授業があっさりと終了して10分間の休憩時間になった。
チラチラと俺の方を見る奴はいるが、誰も話しかけには来ない。
まぁこんなもんか……次の授業の用意をしよう。
俺は次の数学の授業の教科書を取るためにロッカーに向かった。
教室の後ろのドアを開け外に出た、その時──
「────っ」
「うわっ!」
激しい音を踏み鳴らしながら走ってきたそいつは、急に止まれるわけもなくその勢いのまま俺に突っ込んできた。
俺は持っていた教科書類をその場に撒き散らし、後ろに尻もちをつく形で倒れた。
「……ったた」
全く何なんだ。
「ごめんごめん!」
謝りながら俺に手を差し伸べてくる。
俺はその手を掴んで起き上がる。
「ちょっと今急いでるからまた後でな!」
「お、おい──」
俺が言いかけた時にはそいつはロッカーに荷物を置き、また走り出していた。走っていった方向へ少し伸びた俺の手が寂しげに視界に映る。
廊下は走るなと言われたはずだろうが。
このロッカーに荷物を置いたということは同じクラスのやつか。
俺は自分のロッカーから数学の教科書を取り出し、机に戻る。
──とそこで2限目の授業開始のチャイムが鳴った。
数学の授業が始まり、少したった時、静まり返った教室の前のドアを開けて誰かが入って来た。
「……あ」
入って来たのはさっき俺にぶつかってきた奴だった。
「また遅刻か飯島!」
「すいませんっ」
数学の教師は体育教師のようなガタイでかなりイカツイ顔をしていて、背も高い。
飯島とやらが小さく見えるぞ。
「早く席に座れ!」
飯島は少し早歩きで自分の席に行き、座った。
数学教師は授業を再開した。
3限の物理、4限の英語表現と特に問題なく終えることが出来た。
昼休みになったので、ロッカーに入れた鞄から弁当を取り出そうと思い手を入れた。
……あれ?
朝からの自分の行動を振り返ってみる。
7時に病院を出て、7時半に家に着き、15分でシャワーを浴び、10分で支度を済ませ、5分で朝ご飯を食べ終えた。
やっぱり弁当作ってない……
まだこの学校の購買がどこにあるかも知らないので、どうすることも出来ない。
誰かに聞こうにも、奈々美さんは既に友達とどこかへ行ってしまった。
「えーと、茅山くん……だっけ?ご飯まだなら一緒に食べる?」
おぉ、このタイミングで来るなんて神様だろうか。
身長は俺より低くて、170ないくらい。
明らかに筋肉がなさそうでヒョロっとしていて、髪の毛は短く、やんちゃそうな顔をしている。
「何だ……飯島か」
「なんか言ったか?」
しまった口に出てた。
「いや、すまん何でもない」
「そか、それでどうする?」
こんなチャンスを逃す訳にはいかない。
「あぁ、そうさせてもらうよ」
これで何とかなるだろう。
「今日弁当を忘れたから購買に行きたいんだがどこにあるか分からなくてな教えてくれないか?」
「おー今から購買行くつもりだったから行き方覚えとけよ」
今日はついてる気がする。
教室を出て、真っ直ぐ東館の方へ行き、階段を1階まで降りると購買はあった。
あったのだが、昼飯時なので、人でごった返している。
俺達は後ろから無理やり入り、人をかき分けて前へと進んでいく。
何とか最前列へと辿り着いた俺はそこにあったパンを適当に2つ取り、お金をカウンターのところにいた担当の人に渡す。
どのパンでも1つ100円統一は払いやすくていい。
戻るのは楽だった。前に進みたい人が後ろに押しのけてくれるからな。
「茅山くん買えたか?」
「何とかな」
こんなにすぐに買えるなんてやっぱりついてるな。
「よし、んじゃ屋上行くか」
今度は来た時と同じ道を通って帰り、階段を4階ではなく屋上まで登る。
耳に刺さる嫌な音を立てて扉を開ける。整備が行き届いていないのだろうか。
数人の生徒が屋上で昼ご飯食べていた。
飯島は真っ直ぐ男子1人、女子2人のグループの方へ向かう。
「お待たせ〜」
「随分遅かったな」
そう低すぎず高すぎない声で答えたのはメガネをかけた特に表しようのない、いたって普通な顔立ちのJクラスのクラス長、沖津 健二だ。
1番手前でタイツを履いて胡座をかいて座っていて、ショートヘアで顔のパーツもなかなか整っているスポーティな感じの女の子は桜井 春奈。
その真ん中で正座しているのが、桃咲 青葉。身長が高い桜井と沖津の間にいると小動物みたいだ。
しかも、桜井とは違い出る所が出ている。顔立ちもよくて可愛く、ショートボブの髪も似合う。
クラスメイトの顔と名前は病院で暇だった時に集合写真を見ながら覚えたので、すぐに出てくる。
だが、俺の隣にいるこの飯島 広人は写真にはいなかった気がする。
多分その日も今日のように遅刻したのだろう。
飯島がパンを8つも買っていたのはこいつらの分だったのか。
「茅山くんも早く座って座って」
桜井がポンポンと床を叩く。
俺は桜井の隣に座り、さっき適当に選んで買ったパンを袋から出し、名前を見てみる。
『春の新作:納豆ハムカツパン』
『春の新作:梅干しハンバーガー』
……やっぱりついてないな。