第24話 死闘④
『ミッションアボートだ! これより我々は敵の戦力を削れるだけ削った後に、最終防衛ラインまで後退する』
完全に隙をついたつもりだったが、敵が報告をするまでの時間が早かった。
敵の状況を把握しきれなかった。
『私も近接行動に移りますか?』
そう提案するのは狙撃手でありながら、近接戦闘を得意とする白石。
腰に差した刀の柄に手をかけながら指示を待つ。
『……いや、狙撃で撤退を援護してくれ。田村も先に撤退してくれ』
『そんな……! 嫌です! 私を隊長の横で戦わせてください!』
田村は聞き分けのない子供のように、その場を動こうともしない。
『駄目だ! 隊長の命令が聞けないと言うのか!!』
『そんな時だけ隊長命令なんてずるいです……』
それでもその場を動けない田村に、白石が直接通信をつなぐ。
『久美ちゃん隊長の、勝家さんの言う通りにしてあげて……今勝家さんの横にいたいのはあなただけじゃあないわ……』
どんな気持ちで隊員のみんなが命令を聞いていたか、どんな気持ちで隊長が命令をしたのか。
それを受け止めるには入隊一年目の田村には重すぎた。
ちらりと角田の機体の背中を見て、海の中へと入ってゆく。
角田は一度も振り向くことなく、コンテナの間を通り街の方へと進んでゆく。
その背中に向かって一同が心からの敬礼を送る。
◇◆◇◆◇◆
『作戦が失敗しました! こちらで逃走ルートを指示します今すぐそこから撤退してください!』
突如入った榊原さんからの指令に、全員が戸惑いを隠し切れていない。
それもそのはず、たった今作戦を成功させたはずなのにも関わらず、作戦失敗と告げられたのだから。
『茅山くん七時の方角に銃弾の反応があります!』
「もちろん分かってますよ」
反応の大きさからして対戦闘機兵用砲弾だろう。
反応の数は三つ。
ギリギリまで砲弾を引き付け、着弾直前に思い切り後ろへ跳ぶ。
直後足元のコンクリートに砲弾が三発順に着弾し、周辺のコンクリートが粉々に砕けるほど大きな爆発を引き起こす。
「直径七ミリ対戦闘機兵用貫通弾か。当たる可能性が低い敵にもぶっぱなすとは、よほど最新鋭の装備に余裕があるのか……」
『かずくんも早く撤退しなきゃ!』
さて……
敵を表す赤色のマーカーがレーダー内に大量に入ってくる。
その数は十、二十、三十……あっという間に数えられないほどまで増えてゆく。
「お前らは先に撤退しろ。ここは俺が食い止める」
腰に携えた刀を引き抜き、空を一振り。
これより先には進ませないぞ、と言わんばかりに刀を地面と平行になるように持ってくる。
『よーし私も頑張るぞ〜!』
『結構いますね……これは骨が折れそうです』
「おい、何をしてるんだ! 撤退しろと言ったはずだろう!」
逃げろと言われたはずの京子と二ノ宮の機兵が横に並び立っている。
本当に俺が隊長ということを忘れていないだろうか。
『かずくんこそ何をしてるの? いくらかずくんの機体が強いからって、あの数を一人で相手にするのは無理があるよ〜』
こうなった京子は聞く耳を持たない。
二ノ宮に関しては、女性が闘っているのに自分が撤退するのは嫌だ、なんて言ってここに残ったのだろう。
『ミス真宮が闘っているのに撤退するなんて出来ないですね!』
全く人の気も知らずに……
「無理だと思ったらすぐに離脱しろ。それと二人とも俺の半径二百メートルから出るな。いいなこれは絶対だ」
『りょーかい!』
見なくてもわかる。
京子は今絶対に敬礼のポーズをしているだろう。
とそんな無駄話をしているうちに敵がチラチラと見えてきた。
『あなた達ねぇ! 管制塔からの指示にはちゃんと従ってください! 撤退だと言って──』
右手の近くにある通信制御盤の、管制塔と下にネームタグのように書かれた丸いボタンを押し、強制的に通信を絶つ。
「さぁ始めようぜ!」




