第23話 死闘③
『我々W14小隊の任務は大分空港の占拠から始まる。その後神奈川基地の小隊一つと合流しながら九州を占領しているWesCAの一部を切り崩すことだ。我々の失敗はイコールで全滅と直結するだろう。皆気合を入れて任務に臨め』
任務を前にして隊員に喝を入れるこの男、和歌山基地第十四小隊の隊長、角田 勝家。
太刀をメイン武器に戦う前衛で、第三次世界大戦終戦後に自衛のために徴兵された若者の一人だ。
三十代前半ではあるが、戦闘機兵の操縦者としてはベテランになる。
『隊長、準備が整いました。いつでも出れます』
和歌山基地に配属されてからの八年、副隊長として隊長を支え続けた彼女の名前は白石 市。
狙撃手としての腕は戦闘機兵の操縦者の中ではトップクラスであるが、彼女の強さはその近接戦闘能力にある。
通常狙撃手は近接戦闘を得意としない者が多いとされるが、それは仕方の無い。
各々が自分の役割を完璧にこなすことでチームとなるのだから、それが当たり前なのだ。
だが彼女は違う。
和歌山基地では人員の不足が続き、とても隊とは言えなかったのだ。
そこで彼女は元々得意としていた狙撃手の訓練を今まで通り続けると共に、さらに近接戦闘の訓練も加えて行った。
そして彼女は遠近両刀のハイブリット戦術を得意とするベテラン操縦者となった。
『よし、角田隊出るぞ!』
基本戦術は海からの奇襲攻撃だが、W17小隊の真骨頂は制度の高い狙撃にある。
七人の隊員のうち、五人が狙撃手という異様な隊構成だ。
『新宮から隊長へ。こちらから確認できる敵影は三機、うち二機は隊長の進行方向にいます』
『了解。二機はこちらでも視認している。新宮と田村は足を奪え、タイミングはこちらで指示する』
新宮 透、田村 久美。
入隊五年目の狙撃手、新宮は角田から直接スカウトを受け、戦闘機兵操縦者に転身することになった。
彼は元自衛官であり、第三次世界大戦を乗り越えて以降は引退していた。
角田の強い熱意によって戦場へと戻った新宮は、角田に絶対の忠誠を誓うとともに引き金を引き続けている。
田村は今年入隊したばかりの新兵だ。
第三次世界大戦で家族を失い、自身の命も危うくなった所を角田の操縦する戦闘機兵に救われた。
それから戦闘機兵の操縦者を目指し、二十歳になる年に入隊した。
角田の戦闘を支援するため、憧れの人の隣に立つため、近接戦闘武器である刀と中遠距離武器であるサブマシンガンを使用する訓練を嫌という程こなしてきた。
『新宮準備はいいか?』
『はい、いつでもいけます』
その場にしゃがみ、スナイパーライフルを構える。
コンテナの上に固定しスコープを覗く。
倍率を上げその目には敵機の足を映す。
『新宮は田村が陸上に上がったタイミングに合わせて射撃せよ』
ドバッという音を立てて田村が水面から飛び出でる。
新宮の指が引き金にかかる。
『はぁぁぁ!』
田村の刀が敵機の右足に食い込む。
右腕に力を込めて振り切る。
敵の機体が右足を失ったことによってバランスを失い、その場に倒れ込む。
同時に新宮も引き金を引く。
もう片方の敵の機体が田村を撃とうかというその瞬間に、敵の左足に銃弾が命中、炸裂した。
中型炸裂弾。
威力はそこそこだが、相手の機動力を奪うには十分の火力を備えている銃弾で、命中すると同時に破裂する。
『よくやった。後は俺に任せろ』
水面から機体がもう一つ出てくる。
水中用のジェット噴射機を使いジャンプ力を強化し、空中で機体をスピンする。
背中から太刀を抜き、二機の頭を切り落とし華麗に着地した。
しかし。
『ピピッ……敵襲』
少し離れたコンテナの上からもう一機の敵機がこちらを見ていた。
『くそっ……! 白石ぃ!』
『はい!』
ズドンと体に響く音を響かせて白石が狙撃する。
敵の機体の胸に着弾すると同時に炸裂し、上半身を吹き飛ばす。
彼女が使用する銃弾は大型炸裂弾。
銃弾自体の質量が大きいため、着弾までの時間が長く大きくぶれるためかなり難易度が高い。
『くそっ! 援軍を呼ばれた……!』