第21話 死闘①
太陽が傾き始めた昼下がり。
まだ日差しは刺すような暑さが残っているが、吹く風は涼しさを感じる。
旧福岡県と山口県の県境、WesCAによって橋は落とされ、海上では常にお互いの動向を監視するべく巡洋艦がウロウロしている。
「今回の任務は旧福岡県の港を確保することだ。奇襲作戦を成功させるために君達には海に潜ってもらおう」
そう、今回の任務はこれから起こるWesCAとの戦争を有利に進めるために必要不可欠な事だ。
さらに今回は四国側との同時攻撃を仕掛けることになっている。
どちらかが失敗するということは、敵の警戒を高め今後の作戦の難化を意味する。
榊原さんから作戦の概要を聞き、隊員の配置を決める。
隊長の役割だ。
「海からの奇襲か……」
「今の機体で海に入っても大丈夫なのか?」
まず問題はそこだ。
広人が珍しく意味のある質問をした。
戦闘機兵は陸戦用の兵器なのだから、海中でその能力を発揮することは難しいだろう。
「そこに関しては心配いらないわ。いつも通りの感覚で配置決めをして構わないわよ」
榊原さんが自信満々そうな顔でウインクしてきた。
恐らく信じても大丈夫なのだろう。
誰に前衛を張ってもらうかが今一番の問題だ。
今のところ前線を支えられるのは、俺、桃咲、水無、それに二ノ宮と京子の五人。
奇襲が失敗した時に応戦することを考えると、奇襲を仕掛ける役はかなりの危険を伴うことになる。
「私でいいよかずくん。奈々美ちゃんがいない分は私が頑張るから、他のみんなは退路の確保をお願い。それでいいよね、かずくん」
奈々美さんの分まで頑張る、か。
「僕も行きますよミスター茅山」
今度は二ノ宮。
二ノ宮は何をやらせてもそつなくこなすが、逆に言えば何かに秀でている訳でもない。
良く言えば万能型、悪く言えば器用貧乏だ。
だが状況判断能力に関しては悪くないため、敵との実力差もしっかりと把握した上で逃げる決断が出来る。
負けず嫌いの広人とは真逆な冷静な操縦士だな。
「……分かった。詳細は追って伝える。狙撃手組は指示に従って敵戦力を排除していってくれ」
◇◆◇◆◇◆
「それで榊原さん、海中でも地上以上に動くことが出来る秘策ってのを教えて貰っていいですか?」
「そこまでは言ってない気がするけど……まぁ、いいわついて来なさい」
連れて行かれたのは、いつも機兵の整備や修理を行っている倉庫。
そこにはいつもより一回り大きな機兵がいくつも並んでいた。
「これが水陸両用を実現した新しい量産型戦闘機兵、『Mercury』よ!」
マーキュリーと榊原さんに呼ばれた機体は、丸っこいフォルムをしている。
関節部分は浸水を防ぐために隙間を減らし、かつ機動性に問題が出ないように人間の肘や膝のような丸い部品がついている。
あらゆる接続部分には伸縮性の高いゴムを使っているため、浸水の心配はなさそうだ。
その青色の機体の背中には、タンクのような四角い箱が背負わされている。
水中でも推進力を得るためのものだろう。
足の裏と手のひらにも小型のジェット噴射機構が備えられており、バランスの制御に使うらしい。
「この機体は乗りこなすのが難しそうだね〜」
「京子ちゃんの言う通りだね。今から訓練行こっか!」
新しい機体の性能を試したくて仕方が無いのか、水無さんはソワソワしている。
「みんなは先にバーチャル訓練で機体の性能を試していてくれ。俺はオーディーンの方を見てくるよ」
「よっしゃ! じゃあ先行くぞ!」
「あ、待って広人くん〜」
走ってバーチャル訓練室へと向かうみんなを見送った後、榊原さんと一緒にオーディーンを見に行った。
「へぇ……思ったより見た目に変化はないんですね」
「えぇ、オリジナル機は謎が多過ぎるもの。この基地の技術者ではここまでが限界よ。予定通り一樹くんだけは単独で行動してもらいます」
「分かってますよ……」




