表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/78

第20話 姉妹②

 鳥肌の立つような耳障りな音とともに、屋上へ出る扉を開ける。

 今日は日曜日なので、平日の昼とは違って屋上には誰もいない。

 やけにだだっ広く感じる屋上の、フェンスの近くにいくつも並んだベンチの一つに二人で座る。


義姉(あね)遠山(とおやま)春美(はるみ)の所に行っていたということは、私の前線撤退(てったい)についてよね」


「それはそうなんだけど……」


 まさかその話を奈々美(ななみ)さんから提案されるとは思わなかった。

 少なくとも奈々美(ななみ)さんの中では決心がついているということなのだろうか。


春美(はるみ)さんが指示したんだろうけど、その目的が分からなくてさ。遠山(とおやま)家の問題だって言っていたけど」


「私が遠山(とおやま)家の苗字を借りてる、養子になったという話は以前したと思うけれど、遠山(とおやま)家は今は義姉(あね)と私の二人だけになってしまったの。だから義姉さんは私に自分の仕事を引き継がせようとしているのよ」


 しかし何故だろうか。

 春美(はるみ)さんはまだ若いにも関わらず、仕事を奈々美(ななみ)さんに(ゆず)る意味が分からない。

 奈々美(ななみ)さんはさらに続ける。


義姉(ねえ)さんはじっと座って指をくわえて戦況を見つめるより、自ら戦っていたい性格なのよ。もちろん私に校長なんて無理だろうから、遠山(とおやま)家としての全ての仕事の管理をして欲しいんでしょうけれどね」


春美(はるみ)さんが戦闘機兵に乗るってことか?」


「えぇ、元々遠山(とおやま)家は第三次世界大戦で戦闘機兵の研究をしていたから、今はそれなりに権力も持っているの。やりたいの一言でそれなりの自由がきくのよ」


 めちゃくちゃな話だ。

 まだ成人してもいない義妹(いもうと)に仕事を継がせ、自分は自己満足のために戦場に出るときた。

 確かに自分が何のために戦っているのかと聞かれれば、それは自己満足でしかない。

 だがそれは居場所がないからであり、既に一度全てを失っているからだ。

 家族がいて、帰る場所があり、やるべき仕事もある人間のやることではない。


「それで奈々美(ななみ)さんはどうしたいの? このままでいいの? それとも……」


「私は……私の意見なんて……」


 日頃強気の奈々美(ななみ)さんを見ているだけあって、頭をガクッと下げて思い切り落ち込んでいる姿を見るのは、いささか新鮮ではある。

 だがそうも言っていられない。


「今まで育ててもらった手前、わがままは言い難い?」


「……だって……」


 それはその通りだろう。

 もし自分が奈々美(ななみ)さんの立場なら、同じ道を選ぶはずだ。


茅山(かやま)隊の皆には悪いと思っているわ……」


 その声には力が入っておらず、未だ俯いたままだ。

 垂れた髪の毛の間から覗く顔には、まだ決心がついていない迷った顔をしている。


奈々美(ななみ)さんがそれでいいなら俺は止めはしない。けど、奈々美(ななみ)さんの目標はどうなるの? ここで奈々美(ななみ)さんが引けば、君の手で戦争を終わらせることは出来なくなるよ」


 その言葉に少しだけピクリと反応したが、何も言おうとはしない。


「確かに恩に(むく)いることは大切だと思うけど、それで奈々美(ななみ)さんの人生を他人に決められるのは違うと思う。奈々美(ななみ)さんの人生は奈々美(ななみ)さん自身のものであって、奈々美(ななみ)さんが道を決めていくものだよ」


「分からないよ……もうどうしていいのか自分でも分からないのよ!」


奈々美(ななみ)さん!」


 奈々美(ななみ)さんが走って屋上から下の階へと降りて行く。

 差し出した左手が(くう)(つか)む。

 追うべきか追わないべきか。

 迷った俺は追わないことを選んでしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ