第11話 エキシビジョンマッチ③
操作モジュールに乗り込み、素早く準備を整え、電源を入れる。
もう慣れたものだ。
画面に光が灯り、視界が開けてゆく。
ステージは旧市街地。
高い建物も多く、立体的に戦うことが出来る。
何より狙撃手にとって、高いところから見渡せるというのはかなりのメリットだ。
人間用のスナイパーライフルが人を殺す威力になっているように、戦闘機兵用のスナイパーライフルも同じく戦闘機兵を破壊するための威力になっている。
崩れかけた旧市街地ステージの壁の二枚や三枚など、余裕で貫くことが出来る。
「最初から飛ばしていくぞ」
「作戦はいつも通りでいいわよね」
「あぁ、全員後輩に恥ずかしい姿は見せるなよ」
『エキシビジョンマッチ、スタートまで……』
『3』
腰に差した刀に手を掛ける。
『2』
刀を抜き、右手でしっかりと握る。
『1』
腰を落とし、下半身に力を込める。
『スタート!』
地面を強く蹴り、走り出す。
普段乗っているオーディーンより、同調率が低いためかなんとなく体が重く感じる。
腕をいつもより強く振り、前への推進力を得ることで、なんとか一定のスピードを保てている。
「広人、桐島は三時と九時に分かれて、各自得意なスナイプポジションへ移動。移動後は指示を出すまで待機せよ。奈々美、水無、桃咲は俺について来い。十秒後に水無は援護射撃の出来るポジションへ移動。迷ったら俺を信じろ……作戦開始!」
「「了解」」
全員が自分に出来る最大限のことをする。
簡単なことのように思えて、実はこれが一番難しい。
バーチャルでの訓練ならまだしも、死と隣り合わせの戦場での殺し合いの中で、常に自分の限界を見極め、その最大値を出し続ける。
そんなことが出来ていれば、誰も死んでいないだろう。
「こちらK01敵を目視」
「今はコードネームじゃあなくても大丈夫だぞ、広人」
「了解……中央の大通りを北から南へ隠れながら接近中。数は二、うち一機が刀を所持、残る一機は全装甲」
「恐らく敵も同じような作戦だろう……相手の決め手は加瀬かな」
敢えて見える位置を進み、敵の注意を引き付ける。
そして餌に釣られてやって来た敵を、隠れていた味方が倒す。
戦場ではその役割は盾役の仕事だが、人数の少なく死ぬこともない訓練では誰かが請け負うことで凌いでいる。
よってよく使われているため、こうして作戦が被る時もあるのだ。
「桃咲行けるか?」
「……加瀬くん……以外なら……」
「十分だ」
敢えて相手の作戦に乗る。
その上で相手の決定打を探る。
唯一にして、最高の対抗手段。
盾役に攻撃を集中させ、敵の主力や狙撃手の力量を測り、場所を見つけるのだ。
「いいか、敵で警戒すべきなのは加瀬一人だ……だが安心するな。不安要素は全て叩いておきたいからな、相手の狙撃手は見つけ次第……やれ」
「ほいほい、了解!」
「了解だよ〜」
人間性については何も言わないが、狙撃の能力において、広人や桐島さんは間違いなく軍でもトップクラスだろう。
つくづく仲間に恵まれていると思う。
「……っ!」
桃咲が交戦状態に入る。
敵のソードを全て装甲で弾き返す。
敵がよろめいた所を、少しとった距離を利用してタックルで追い打ちをかける。
『くそっ!』
『一旦距離を取れ! 俺があいつの足止めをする。そしたらあいつが撃ってくれる。仕留められなくても加瀬くんが何とかしてくれる!』
『分かった!』
『うぉらぁぁぁ!』
背中からサブマシンガンをもう一丁取り出し、両手で桃咲へと撃ち続ける。
「一樹くん……もう……やばい……かも……」
「もう少しだ……!」
『やれ!』
遠くで響いたスナイパーライフルの銃声。
味方のものではない。
「奈々美さん!」
「分かってるわ!」
俺が言うよりも早く、奈々美さんの機体が走り出し、桃咲の元へ向かう。
最後の一歩で飛躍し、飛んできた弾丸を一寸の狂いもなく的確に両断する。
「広人、桐島さん!」
「大丈夫、予想通りの場所だった。……距離約七百、風速、風向き計算。修正。いつでも撃てるぞ」
「……撃て!!」
今度は激しい銃声が二つ。
広人の弾丸は、ターゲットとのあいだにあった廃ビルの壁をもろともせず、一直線で進んでいく。
先に着弾したのは桐島さんの撃った弾。
敵の左肩に直撃した。
続いて広人の撃った弾が、機体のど真ん中に直撃。
機体は動きを止めた。
『くそっ! すまん!』
『ドンマイ、後は俺達が──』
「よそ見は関心しないわね」
『なっ……!』
焦りながら振るわれた刀を、奈々美さんは空へと飛ばし、左手の刀で機体を真っ二つにする。
「あなたもよ」
機体の右足を軸に、左足を素早く引いて回転し、その遠心力を使って残る一機を仕留める。
「よし、みんな──」
『この役立たず共が……』
桃咲のすぐ横の廃ビルの壁を破壊し、機体が飛び出してくる。
「くっ……!」
「桃咲!」
刀を斬る、というよりも叩きつけるような動きで桃咲を吹き飛ばす。
「加瀬……!」
『茅山先輩……』
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