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第9話 エキシビションマッチ①

「やばいやばい、もう始まってるって!」


「急げ急げ!」


 校内戦も残すところ決勝戦のみとなっていた。

 会場内のボルテージも今日イチの盛り上がりを見せ、隣で話していた京子の声でさえ聞こえないほどの声援が包んでいる。


 こうして威力偵察がてら決勝に残ったチームの戦い方を見に来ているのだが、どうやら残ったのは例のJクラスのチームと、同じく優勝候補に上がっていたAクラスのチームの二つらしい。

 去年俺達の時も同じ組み合わせだったな、と思わず思い出してしまう。


『さぁお待たせしました! パイロットの準備が整ったようなので、早速決勝戦を始めましょう! 両チームとも準備はいいかなー?』


 アナウンスとともに更に歓声の勢いは増し、同時にスタジアムの中心にモニターが表示される。

 情報通りJクラスは四人、Aクラスは六人での参加だ。

 四人と言えどもここまで来たのはもちろん実力あっての事で、それを観客も既に理解していた。

 だからこそのこの声援であり、俺達も見に来る価値があると判断したのだ。


『さぁ、皆さんカウントの用意はいいかなー? せーの!』


「3」


『2』


「1」


『校内戦決勝戦スタート!!!』


 モニター内のタイマーが数字を減らし始める。

 VR空間にいくつも仕掛けられたカメラが、中の状況を忠実に映し出す。

 Jクラスの四人が一斉に動き出すのと対照的に、Aクラスチームの六人は全くその場を動こうとしない。

 モジュール内にはマイクも備え付けられているため、音声もすべて観客へと筒抜けになる。


『お前らはいつも通りに動け。一秒も遅れをとるな』


「Jクラスは随分上下が厳しいんだねぇ〜」


「あぁそうみたいだな」


 モニターに釘付けになり、話半分に聞いてしまっているためか、京子が横で頬を膨らませてブツブツ言っている。

 が、そんなことさえ今はどうでもいい。

 加瀬(かせ) (ほたる)か……

 まだAクラスとは鉢合わせていないものの、建物を上手く使った立ち回りと、機動力を最大限に生かした移動からその実力が分かる。


「……退屈しなさそうだな」


「え? ごめん聞こえなかった〜」


「なんでもない。それより京子はこの勝負どっちが勝つと思う?」


「う〜ん……去年のかずくん達のこともあるから何とも言えないけど、やっぱりAクラスが勝つのかな〜? かずくんはどっちが勝つと思ってるの?」


「分からん」


「えぇ〜!」


 事実、この勝負はどっちに軍配が上がってもおかしくなさそうだ。

 Jクラスは四人とかなり少ないと思うが、加瀬の実力を考えれば六人相手でもそこそこ戦えるだろう。

 けれど、Aクラスは流石の安定性があるようで、ただその場に(たたず)んでいるように見えて陣形を完成させていた。


 防御力の高い全装甲(ガーディアン)三人と狙撃手(スナイパー)三人。

 ガーディアンが体を丸めて防御力を上げた状態で三機前に立ち、その後から砲身の長いスナイパーライフルが顔を覗かせている。


 どっちも戦闘準備は完了してるな……もうすぐスナイパー達の有効攻撃範囲内か。


『構え……3、2、1、撃て……!』


 刹那、三つの銃口から激しい音とともに弾丸が放たれる。

 三つの弾丸は一直線に空を切る。


『おい! 避けろ!』


『う、うぁわぁぁぁ!』


 三弾全て直撃。

 右肩、左脇腹、右膝と順に撃ち抜かれたガーディアンの装甲は()がれ落ち、その場に(ひざまづ)いてしまう。


『この役立たずが……!』


『ご、ごめん!』


 その間にも上手く隠れながら加瀬は接近する。

 Aクラスのスナイパー隊が空になった薬莢(やっきょう)を飛ばし、素早く次弾(じだん)装填(そうてん)している。

 流石はAクラス。一連の流れが板についている。

 俺の目から見ても彼らは凄い。

 この大会が終われば、間違いなく軍からスカウトが来るだろう。


『あいつらは餌だ。ここからが狩りだ』


 低く響く声が聞こえ、会場内がざわめき、思わず鳥肌が立ってしまう。


『右だ! ガーディアン部隊全員右を向け!』


『了解!』


『的は一人だけだ! 確実に仕留めていくぞ!』


 左右に激しく揺さぶりながら近づく加瀬の機体を、追うようにスナイパー達が砲身を揺らす。


 加瀬の機体は機動力を重視しているため、装甲は全くと言っていいほど付けておらず、武器も(ソード)二本と数個のグレネードのみという超軽装備だ。

 機動力と戦闘に相当の自信が無ければ出来ない芸当で、茅山隊で言えば奈々美さんがやっていた事があるくらいのもの。


 けれど、加瀬はそれを完璧にやってのけている。

 全ての弾丸を(かわ)すか、全てソードで(さば)ききっているのだ。


『遅い』


 加瀬が右腰に携えた二本目のソードを抜き、ビルの壁を激しく蹴りつけ加速する。

 Aクラスと言えどもイレギュラーの存在には手を焼かざるを得ない。


『くっ……ガーディアン前に出ろ! 俺達も近接戦闘に切り替えるぞ!』


 スナイパーライフルを背中に収め、腰からアサルトライフルを取り出し、戦闘スタイルを切り替える。

 作戦通りとは行かなかったようだが、まるでお手本のような戦闘だ。

 けれど、だからこそ……


『俺には勝てない』


「オーバードライブ……もうそこまで来ているのか」


 加瀬の機体が赤くぼんやりと光り輝き出す。

 次々と繰り出される剣の嵐に、ガーディアンの装甲はいとも簡単に剥がれてゆく。


『まずはお前からだ』

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