表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/78

第7話 後輩②

「遅いぞ広人!」


「お前が、早過ぎるんだっ!」


 素早く切りつけた(ソード)を、広人の乗っている機体が体を回して受け流す。

 ソードが(こす)り合わされ、甲高い悲鳴を上げる。

 同時に火花が散り一瞬眩しく感じたが、瞬きをすることはなく敵の動きを一時(いっとき)でも長く見ようと(つと)める。


 もちろん実際に機体に乗っているのではなく、バーチャル世界(ワールド)を使った模擬戦闘だ。

 校内戦の盛り上げ役としてこうして日々努力している。

 ……もちろん軍人としての責務でもあるのだが、今は校内戦と(めい)打った方が皆のやる気も出るだろう、という少しばかりの心遣いだ。


「ほらほら! これくらい全て(さば)ききらないと校内戦で恥をかくぞ!」


 右腰に付けたままだったもう一本のソードを抜き、広人に休む暇を与えまいと次々に振り下ろす。

 右左右右左。

 今日の広人の装備は盾とソードを持った盾持ち剣士(ナイト)

 いつも狙撃手(スナイパー)ばかりしている広人にとって、この近距離戦闘は最も苦手な分野だ。

 だからこそこうして訓練しているのだが……


「ちょ、()っ、無理だって!」


「簡単に諦めるな! これが戦場なら死んでるぞ!」


 徐々に反応が鈍くなる広人の防御に、俺は容赦なくソードを叩きつける。

 すぐに捌ききれなかったソードが広人の装甲を()がす。

 体にソードが当たる度に機体が左右に動き、バランスを失ったために逆側からの攻撃に当たる。

 ここに悪循環が生まれ、結局その後広人が立て直すことは出来なかった。


「ほんとに一樹は手加減を知らないよな」


「手加減して死ぬのときつくても生きられるのと、広人はどっちがいいんだ?」


「ほんとにブレないなお前は」


 広人は乾いた息を()らしながら微笑(びしょう)する。

 休憩スペースでタオルを肩にかけ、自動販売機で買ったスポーツドリンクを(のど)()わせた。

 基地内の全ての自動販売機は、全て無料で買える。……と言っても、軍隊に入った時に貰った通行許可証としての役割を含む、ICチップ入りのカードを使わなければ買えない。


「あ〜ここにいたんだ〜」


「二人ともお疲れ様」


 ゆるゆるした落ち着いた……と言えばいいように聞こえるが、実際はかなりのマイペースの桐島(きりしま) (ゆい)と、そんな彼女が数少ない友人の奈々美(ななみ)さんが、同じく自動販売機を求めてやって来た。


「奈々美さん最近大分頑張っているようだけど、無理のし過ぎはあまり良くはないと思うよ。奈々美さんも本当は分かっているでしょ? 何かあったなら聞くけど……」


「……別に何でもないわ。一樹くんの気にすることではないわよ、ただ私も隊に貢献したかっただけ」


 本人が大丈夫と言っているのなら、これ以上俺にとやかく言う権利は無いのだろう。

 やけに青白く見えた奈々美さんの顔も、今は薄暗いライトのせいだと思うしかない。


「それよりさ〜学校裏サイトの校内戦での優勝予想見た〜?」


「桐島さん、学校裏サイトって?」


「ん〜なんかね、学校の都市伝説とか〜今回の校内戦優勝予想とか〜色々書いてあるサイトだよ〜」


「へぇ……そんなのあったのか」


「そういえば一樹くん達が優勝した時凄いコメントが荒れてたな〜」


「……なんかそれはそれで複雑な気持ちになるな」


 流石の学校裏サイトでも、最底辺クラスから優勝チームが出るとは思っていなかったのだろう。

 携帯端末をポケットから出し、学校裏サイトを検索してみる。

 黒い背景におどろおどろしい文字で、学校裏サイトと表示されていて、学校の穴場スポットなど意外と役に立ちそうな内容のものもあった。


 その中に、校内戦優勝チーム予想と書かれたコーナーがあったので、早速そこを押す。

 既に登録を済ませてあるチームのうち、クラス分けテストの成績や過去の結果などを踏まえた上で、一人一票ずつ投票したランキングが付けられていた。


「確かに校内戦を観戦する一つの観点にはなりそうだな」


「違うよ〜今年の一年生ランキング一位のチームをちゃんと見て〜」


 言われるがままに画面をスライドさせて、一位のチーム名などの情報を確認する。


「チーム名『SEVENTEARS(セブンティアーズ)』、チーム人数四人、クラス……J」


「J……!?」


「一樹くん見間違いじゃないのかしら? いくら私達が優勝したとは言っても、Jクラスが優勝するなんてそうないわよ」


「いや、確かにJクラスになってる……チームリーダーは……加瀬(かせ) (ほたる)?」


 俺の携帯端末に奈々美さんだけでなく、広人や桐島さんまでもが覗き込んでくる。


「桐島さんはこの人知らないの〜?」


「う〜ん分からないかな〜ごめんね飯島くん」


「い、いや、大丈夫だよ!」


 こいつ何か他のことを考えているな……ってそうじゃない。

 1年J組の加瀬 蛍。見たことはもちろんのこと、聞いたことさえない。

 そんな奴がリーダーの、それに四人しかいないチームが優勝予想されているのだから、きっと何か仕掛けがあるのだろう。


 意識してか無意識なのかは分からないが、一瞬去年の一件を思い出してしまい、思わず(まゆ)に力が入った。


「一樹くん、大丈夫。それこそあんなことはそうあることではないわ」


 何もかも見透かされてしまう。

 特にマイナス方面の感情は顔に出やすいのだろうか……

 何にせよ校内戦がもっと楽しみになってきたことは間違いない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ