第6話 後輩①
「校内戦に出られない!?」
「あれ? 私また言ってなかったかしら?」
「言ってないです!」
「んふふ〜ごめんなさいね〜」
「っ……」
周りにいた職員が振り向くほど大きな声を出していたらしい。
職員室の前に呼び出された俺は、突然に告げられた校内戦出場不可の知らせに、内心……いや、口に出してしまうほど驚いている。
本当に何度も何度も、この和泉という人はは一年経っても全く変わらない。
別に二年生や三年生が参加出来ないわけではなく、既に軍に所属している者は、その身分故にそう簡単に戦闘機兵に乗ることは許されていない。
それはバーチャル世界でも適応される。
現実世界に法律があるように、いくらバーチャル世界と言っても法律はあるのだ。
去年の校内戦、五九条が連行されたのも、法律に引っかかる行為をしていたからで、簡単に言えばハッキングのようなもの。
設定された世界に製作者の許可なく干渉することは、他人のパソコンに勝手にアプリケーションを組み込むのに似た解釈でいい。
俺達は出場出来ないものの、校内戦は例年通り行われる。
目的を観戦に切り替え校内戦期間中の宿泊の準備のみをしていると、携帯電話の着信音が鳴った。
「──もしもし」
『──あ、第一訓練校の和泉と申しますが、一樹くんはいらっしゃいますでしょうか』
いつも大切なことを伝え忘れるポンコツ担任の、妙におどおどした声色が受話器の中から聞こえる。
「一樹です」
『あ〜丁度よかった!』
そして俺が出ていると気づくと明らかに態度が変わるところも、彼女は天然なのだろうと思わせる。
「何かありましたか?」
『ううん、そうじゃないんだけれどね、ほら、校内戦の件結構ガッカリしてたじゃない?』
うん、これに関してはかなり落ち込んだな。
「はぁ……」
『それでね、今年は校内戦をもっと盛り上げるために、優勝チームと現役の軍人パイロットとのエクストラマッチをしようってことになってね』
「へぇ……面白そうな試みですね」
『もう! 何となく気付いてるんでしょう?』
自分で前置きをしておいて溜めるな、と思えないところがこの和泉 秋という人間の特徴でもある。
「僕達が出ていいんですか?」
『榊原さん? という方にもOKしてもらったの』
あの人、榊原さんの意図するところはこれ以上無いほど分かりやすい。
高校生活の青春とやらを楽しんで、メンタル面での回復でも図っているのだろう。
彼女が高校生の時はどんな青春を送っていたのだろうか。
まだ平和と言われていた昔では。
『それで、私が返事をしておいてもよかったんだけど、一応確認しておこうと思ったの』
つまり確認しない選択肢も存在していたというわけか。
「もちろん出ますよ。負けたら格好がつかないから僕達もしっかり訓練しておかないといけないですね」
『うふふ、茅山くん達が負けるとは誰も思ってないものね』
本人は気づいてはいないだろうが、フォローには全くもってなっていないことは黙っておこう。
今から校内戦が楽しみになってきた。
◇◆◇◆◇◆
「はぁっ……!」
「足元がお留守……よっ!」
「ちぇ〜また負けちゃったな〜」
丸いカプセルのような機械の中から出てくるなり、妙に似合っているように見える同調用のヘットギアを頭から外してカプセルに戻す、長い黒髪に整った目鼻立ちの美少女。遠山 奈々美。
同じく横のカプセルからはスポーツでもしているのかと思えるほど短く切った髪に、とても邪魔そうな胸を携えた今年からの新兵の一人。水無 雪乃。
彼女達もエキストラマッチへの参加者となっているので、こうしてバーチャル環境を使って訓練をしている。
「それにしてもほんとにオリジナル機は凄いわね〜」
「そうね……」
彼女達が見上げる先には、鉄の塊……と言うには些か大き過ぎる人型の兵器が空を舞っている。
その圧倒的な機動力と、圧倒的な破壊力は、それらがオリジナル機と呼ばれ戦闘機兵を使った戦術に置いては常に中心に考えられる所以。
「同調率の向上をするためにああやってただ飛んでるだけだなんて、茅山くんも努力家よね〜」
「そうね……」
オリジナル機には強制的に同調率を上げるヘッドギアはなく、自分の力で機体との同調率を上げなければならない。
同調率は一定の値まで下がると、機体が動かなくなるどころか体への負担が大きくなる。
「奈々美さんどうかしたの?」
「いいえ……何でもないわ」




