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第5話 リスタート⑤

「これで全員揃ったようね」


「榊原さん説明をお願いします」


 神奈川基地戦闘機兵隊に割り当てられた管制司令室。

 薄暗い部屋の中心には、360度フルスクリーンの空中投影ディスプレイがある。

 そこに映し出されているのは恐らく今回の作戦の内容。


「それじゃあまずはあなた達の簡単な位置づけから行くわね」


 榊原さんはディスプレイに手を伸ばし、一つのファイルを開く。

 茅山隊それぞれの名前が書かれた丸い点は、武器種事にグループ分けされている。


「武器種ごとのグループ分けは今まで通り近距離、中距離、遠距離の三つでいく。茅山隊は新設隊だからな、恐らく前線に駆り出されることが増えるだろう。特に遠距離の飯島と二ノ宮の二人は敵に囲まれるても戦えるようにしておけ」


「了解」


 全員の武器種の確認と連携の確認。

 至ってシンプルな内容だった。


「本題はここからだ」


「本題……?」


「お前達が半年くらい前に新潟基地で戦った反乱軍がいただろう? あそこにGHQが一枚噛んでいるらしい」


「GHQが……!?」


 十年前、日本は復興不可能と言われるほどの被害を受けた。

 日本がここまで復興できたのには、GHQによる支援が大部分を占めていた。

 そのGHQが今度は少なからず日本を潰しに来ている。

 この意味は誰にでも分かる。


 日本は発展し過ぎてしまったのだ。


 日本は戦闘機兵の研究に加え、宇宙開発、人工知能の研究、多くの最先端技術を発展させて来た。

 自分たちよりも発展し過ぎた技術を保有する国など、大国からしてみたら邪魔でしかない。


「GHQが敵に回った意味はお前達にも分かるだろう」


「世界を……敵に回したのか……」


 空気が凍りつき、思わず唾を飲み込んだ。

 司令室にディスプレイの機械音が周期的に響く。


「これからの戦いは一筋縄では行かない。戦闘機兵は戦争の要になってくるだろう」


 だから覚悟を決めろ。

 そう榊原さんは言いたかったのだろう。




 ◇◆◇◆




「おはよう一樹くん」


「おはよう奈々美さん」


 学校に登校するなり屋上に呼び出された俺は、指示通りに屋上へと来ていた。

 風が吹くと僅かながら暑さが和らぐ。


「昨日の話驚いたわね」


「GHQのやつか……俺も嘘であって欲しいとどれだけ祈ったことか」


「でも現実だった」


「そうだな」


 標高の高い位置にある第一高校からだと街が見下ろせる。

 機械的な土地区画も見慣れてきた。


「やるの?」


「……奈々美さんはそうじゃないの?」


「その質問はずるいわ……」


 奈々美さんは落下防止のフェンスに背中からもたれ掛かっている。

 俯いているため、髪の毛が垂れて表情が読めない。


「私は……私は……」


「君がやりたくないのならやらなければいい。俺はその意見を尊重するし、誰にも文句は言わせない」


「違うの! やりたくない訳ではないの……」


「それじゃあどうして……」


 またしても黙ってしまった。

 少し震えているようにも見える。

 呼び出された時の電話越しの声から、いつもとは何か違うとは思っていたのだ。


「もう嫌なの……」


「え……?」


「もう私は大切な人を失うのが嫌なの!」


「奈々美さん……」


 こちらを見上げる目には涙が浮かんでいる。

 自分で言うのもなんだが、俺達は少し失い過ぎている。

 平和な世の中に生まれていたらこんなことは無かったのだろうか、それは平和な世界に生まれていない俺には分からない。

 けれど人は失う生き物なのだ。

 これは運命なのかもしれない。

 俺は奈々美さんの方へ向き直る。


「俺は死なないよ」


「……」


「誰もが理不尽に死ななくても良い世界を見るまで俺は死なないよ」


「……っ!」


 奈々美さんの目から涙が溢れ出る。

 必死に声が出ないように(こら)えてはいるが、空気が漏れる音がする。

 奈々美さんが静かに俺へと体を預けた。


「俺達ならきっと出来るさ」


「うん……」


「平和な世界を俺達がつくろう」


「うん……」


「ここが始まりだ」


「うん……!」


 肩でなく奈々美さんの頭を撫でる。

 ふわりと髪の毛から花の香りが漂う。

 フェンス越しにもう一度街を見る。

 少年の頃を暮らした家はもう無い。

 俺達はやり直さなければならないのかもしれない。


 第四次世界大戦の開戦だ。

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