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第1話 リスタート①

「──それでは、校長より挨拶です……一同礼!」


 教頭の声で生徒達が一斉に舞台に向かって頭を下げる。

 例年通り一年生は四百人入学してきた。

 同じく例年通り、二年生三年生は着実に減っている。

 去年の最低クラスがJクラスだったにも関わらず、今年はHクラスにまで上がっている。

 数にして四十。

 辞めていった生徒もいるが、半数は戦地で死んでいった者達だ。

 一年生が希望や不安に満ちた表情で始業式を迎えているのに比べ、二年生や三年生は絶望した表情の人が多い。

 舞台の上に立った校長はマイクの高さを調節し、生徒達全員へ視線を向けた後に話し始める。


「二年生、三年生の諸君、進級おめでとう。一年生の諸君、入学式以来だが改めておめでとう。私が本校の校長、遠山(とおやま) 春美(はるみ)だ。まぁ何かと不安や──」


 その喋り出しは至ってシンプルかつ儀礼的だったが、俺にとっては大きな衝撃だった。

 校長の苗字が遠山だということは、彼女の肉親である可能性が高いということなのだ。

 年齢的に見ても母親ではない。

 それ以前に去年のクラス分けテストの時、奈々美(ななみ)さんは両親は既に亡くなっていると言っていた。

 彼女は一体……




 いくら頭を悩ませたところで、本人に聞く以外では解決方法のないこの問題に、始業式の間中悩まされてしまった。

 自分でも意識がないうちに始業式は終わっていたのだから、まぁいいとするが。

 恐らく去年の俺は緊張していたのだろう。

 校長の雰囲気に圧倒され、話していた内容など一単語たりとも覚えていない。

 知らず知らずのうちに俺は奈々美さんに声をかけていた。


「奈々美さん少し聞きたいことがあるんだけど」


「……何となく予想はつくけれど、敢えて聞くわね何かしら?」


「校長の名前の事なんだけど……」


「姉よ」


 それは踏み込んでいいのか悪いのか悩んでいた俺が馬鹿らしくなるくらいに、きっぱりとあっさりと放たれた。


「奈々美さんはまだ家族がいたんだ……少し安心したかも」


「家族? 馬鹿言わないで、あんなの家族でもなんでもないわ。私の事を邪魔だと思っているような姉よ。姉と呼べるかもわからないような、ほぼ他人に近い存在だわ」


「そんな……」


「とにかくこの話はこれでおしまい。ほら早くしないと(モーニング)(タイム)が始まるわよ」


 どこかぎこちない笑顔を浮かべ、奈々美さんは駆け足で教室へと行ってしまった。

 春美の睨みつけるような目が頭をよぎる。


「さっきの奈々美さん、校長にそっくりだったな……」




 ◇◆◇◆




「それじゃあMTを始めまーす! まずはこのクラスの担任になった私が自己紹介をしまーす!」


「相変わらずというかテンション高いなあの先生は」


「去年は緊張してた分もう少しマシだったと思うけれど」


「そこ! 喋らなーい!」


 俺達の周りでクスクスと笑いが起こる。

 Hクラスは最底辺のJクラスから上がってきた人が多く、クラスが変わったような気がしないほど(なご)やかなムードで始まった。

 総勢四十一名の前で、テンション高めでMTをしている、黒いスーツの女教師でさえ見覚えがある。

 去年と変わらず、俺達の担任は和泉(いずみ) (あき)だった。


「去年と同じ顔も見えるけど、初めての人よろしくね!」


 その緩そうな外見と雰囲気に、他クラスから落ちてきた人達も、いつの間にかクラスへと溶け込んでいた。

 去年のJクラスが一致団結出来たのは、彼女の存在も大きかったのかもしれない。


「それじゃあ連絡事項をお伝えします! まず今年の年間スケジュールにあった校内戦についてですが、二年次校内戦は三年生と合同で行います。人数の関係上仕方が無いことなのです。校内戦への参加不参加に関係なく七月の夏合宿は全員参加なんですけどね〜」


 数人の生徒が文句を言っていたが、そこで授業開始の鐘が鳴り、渋々口を閉じた。

 一限から四限の授業は戦闘機兵実践模擬戦闘を行った。

 二年生に上がり、より実践的な授業が増えていく一方で、それは実力の差を分かりやすく示してしまっている。

 この問題の解決のため学校側が取った対策は、実力分配訓練だった。

 個々の実力を数値化し、機械によって完全分配されるこの制度は、実力の差をできるだけ少なくすることは出来た。

 授業の効率化を図り、同時に向上意欲を(あお)っている。


「一樹くん実力テスト受けに行くわよ」


「ん? あぁ、今行くよ」


 実力を数値化するため、二年生全員が模擬戦闘を行う。

 場所は一年ぶりに訪れる地下演習場。

 テストは森林エリアを使って行われ、生い茂る木々に当たらないように森を抜けるスピードを計る。

 途中に現れる擬似的な敵に、致命傷を与えることで加点される仕組みだ。

 少なくとも三体は倒し、それ以上が加点されるのだが、タイムが遅くなればその分減点もある。

 そのバランスさえも自分で操らなければならない。


「訓練機ってこんなに動きにくかったのか……」


「普段オリジナル機に乗っているからこの機体は相当使いにくそうね」


「新幹線から地下鉄に乗り換えた感覚だ」


「ふふっ、新幹線なんてよく十年前で廃線になったものを覚えていたわね」


 機体のあちこちに傷が付いたままの、塗装もほぼ落ちたオンボロ機。

 訓練用の機体は最低限の修復しか(ほどこ)されないため、とても動かしづらい。

 その訓練機のモニターに映った奈々美さんの顔は、ほのかに笑っている。

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