プロローグ
「かずく〜ん! おっはよー!」
「京子か。おはよう」
またこの季節がやって来た。
ピンク色の花びらの雨が俺の視界を埋めていく。
少し高めのテンションの声に振り返れば、そこには一人の少女がいた。
彼女の名前は真宮 京子。
俺の幼馴染にあたる京子と、一緒に登校するのも約半年ぶりだ。
去年の校内戦で結果を残し、軍に招集された俺は、ほぼ学校に来ることもなく二年になり、こうして始業式へと足を運んでいる。
京子と共に、学校行きのバスへと乗り込む。
私立第一戦闘機兵高等訓練学校。
それが俺達の通う学校の名前。
どんな学校かを簡単に言えば、英才教育を仕込み、国を守る兵士を育成する学校だ。
十年前に甚大な被害をもたらした、第三次世界大戦後に建てられた高等学校としてはかなり大規模な設備を備えている。
学校教育の場としてはもちろんのこと、戦闘機兵を操縦するパイロットを育成する学校としても一流の学校。
過去五年間でのパイロット排出率は、日本全国でも十本の指に入るような名門校らしい。
色々と考えているうちに久しぶりの校門に着いてしまった。
異様に高い塀が長く続く敷地に、鉄で出来た重々しい扉が現れる。
門を通り過ぎ、昇降口へと続く桜並木も、去年となんら変わっていない。
ただ、去年と違うのは──
「おはよう一樹くん」
「おっーす一樹!」
「おはよう……ございます……」
彼女、遠山 奈々美さんを含め友達と呼べる人が増えたことだ。
「おはようみんな」
二年生としての一年間を無事に過ごせる保証などどこにもないが、その時が来るまでは楽しくやっていけるような気がするのだ。
「今年も全員一緒のクラスね」
「ま、今年も二年生として一番下のHクラスなんだけどね〜」
「ははは、俺たちらしくていいじゃないか。訓練で忙しくてクラス分けテストに出られなかっただなんて」
「そういえば京子達はなんでHクラスになったのかしら?」
俺達Hクラスには京子だけでなく、水無さんや二ノ宮もいるのを名簿で確認している。
京子は分からないが、元Cクラスの水無さん達がHクラスに落ちるなど、何か理由があるとしか思えないのだ。
「私達の噂かな? おはよう一樹くん、奈々美さん、みんな」
「ななみんおっは〜」
「おはよう水無さん、桐島さん」
俺、茅山 一樹と中学校が同じだった水無 雪乃をリーダーとする「FAIRYNIGHTS」のメンバー、フランスとのハーフの二ノ宮 キール 羽月、奈々美さんと同じ中学だった桐島 結。
他のメンバーは今年もCクラスだったのに対し、この三人はHクラスだった。
「それで、なんでHクラスに?」
「それはまだ秘密だよななみん〜」
「奈々美〜かずく〜んそろそろ行かないと遅刻扱いにされちゃうよ!」
俺達高校生の小さな戦士達が大量に前線へ送り込まれる未来を、この時はまだ誰も分かっていなかった。




