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第47話 帰還

「ふぅ……」


 家に帰ると、待っていた京子を疲れたからと説得し、まず真っ先にシャワーを浴びた。

 いつもよりも少し高めの温度の水が頭から下へと流れていく。

 もう俺が普通の生活に戻れる日は来ないのかもしれない。

 今ではもはや普通が何かさえも分からなくなってきてしまった。

 これは運命なのだろう。

 宿命なのだろう。

 10年も前から俺の生きる道は決まっている。


「あぁぁ〜」


 ドライヤーをする間も惜しんで俺はベットへと転がる。

 ごろりと寝返りを打って天井を仰ぎ見た。

 カーテンを閉めていないため、月明かりが入り込んで少し明るい。

 つい昨日まで生きるか死ぬかの戦場にいたからか、静かな部屋にいると妙にそわそわしてしまう。

 そして思い出してしまう。


「……くそが」


 再び寝返りを打って今度は右を下にして、腕を枕がわりにする。

 静かな部屋に壁にかけた時計の秒を刻む音が響く。

 生憎と昨日今日で忘れてしまえるほど性根は腐ってはいない。

 寝付けない夜はいろいろと考えてしまってあまり好きではないのだが、今はもう少し思い出に浸っていたいと思うことはいけない事なのだろうか。






 4月に俺が「私立第一戦闘機兵訓練高等学校」に入学してからたった半年。

 とても短い時間だった。

 けれどとても充実していて、久しぶりに生きていて楽しいと、生きたいと思えた。

 京子と一緒に入学式に行った。

 あの頃はまだ桜が綺麗に咲いていたっけな。

 今では桃色の花は一欠片も残さず消え去り、茶色になった葉を散らしている。

 クラス分けテストで遠山とうやま 奈々美ななみさんと出会った。

 何かを抱えてどこか寂しそうな彼女は強い人だと思っていたが、それは俺が勝手に創り出した幻想だった。

 本当は誰よりも脆くて、少し押しただけで折れてしまいそうなほど弱い人だ。

 だからこそ彼女と一緒にいることを選んだのだ。




 元々訓練校に来ているような人は誰にでもあるような過去は持っていない。

 9割を超える訓練生が、夢だったのではないかと思えるほどの経験をしている。

 それが俺達の強さであることを、色々な人に教えてもらった。




 クラス分けテストで怪我をして、授業への参加が1週間も遅れてしまった俺に最初に話しかけてきたのは、飯島いいじま広人ひろとだった。

 弁当を家に忘れ困っていた俺に、一緒に食べようと言ってきたのも広人だった。

 そして昼放課、屋上でクラス長こと沖津おきつ 健二けんじと恥ずかしがり屋の桃咲ももさき 青葉あおば、最後にスポーツ万能で広人と並ぶほどムードメーカーの桜井さくらい 春奈はるなと出会う。

 それが俺達の始まり。

 仲のいい広人達4人の中に奈々美さんと俺が入った。

 すぐにとはいかなかったが、仲良くなった。

 未だに桃咲は俺と話す時に人見知りを発揮してくれるが、言葉では表せないような不思議な関係がこの6人にはあった。

 それぞれの生い立ちはバラバラで、性格も、趣味も、何もかもが全然違うが、俺達が集まるとなんでもできる気がした。

 校内戦では無理だ無理だと言われながら、Jクラスながら優勝することが出来たのだ。


 訓練校の授業帰りに立ち寄ったゲームセンターも、喫茶店も、とても楽しかった。

 あぁこれが思い出なのかと、とても鮮明に覚えている。

 笑顔で語り合った日々も今となっては全て"思い出"になった。

 今の俺があるのも全て運命なのかもしれない。

 戦争によってつくられた友情や生活が、今度は戦争によって壊される。

 闇があるから光があると言うが、やはり光があると闇が存在してしまう。


 そして俺は、俺達はまた光を求めて戦い続ける。


ここまで見てくださった方、本当にありがとうございます。

これで第一部は終わりとなりますが、物語は第二部へと続いて行きます。

第二部からは一部表記を改めさせていただきますが、ご了承ください。

また読んでいただければ嬉しいです。


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