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第4話 実技演習場③

 

 そこにいたのはシカだった。


「驚かせるなよ……」


 そうやって1人で騒いでいる自分が情けない。「ここは俺に任せろ!」とか「この()には手を出させないぞ」とか俺は絶対に言えないだろうとこの時確信した。


 そして俺達は再び進み始める。前方は俺が照らしているため、遠山さんは左右を照らしながら周りの安全を確保していた。


 その後俺達が落ち着いて休憩出来そうな洞穴を見つける2時間程度の間、特に危険な状況になることはなく、順調に進んでいた。

 見つけた洞穴(ほらあな)で休憩するために奥に進み、安全なことを確認すると俺は火を起こす準備をした。


 外から多めに焚き木に使えそうな木を拾ってきて、山状に積み、リュックの中に入っていた新聞紙をその上にのせる。同じくリュックに入っていたライターで火をつけ、下から軽く息を吹きかけると木に火が移った。


 ようやく俺達に休息の時間が訪れる。ずっと動きっぱなしだったので身体の力が抜けていくのがとても分かった。


 すると焚き木を挟んで向かい側に座っている遠山さんが不意に口を開く。


「なぜ茅山くんはこの学校に?」


 そういえば彼女からの質問は初めてだったな。一歩前進と言うべきだろうか。


「俺は10年前のあの戦争で家族を失ったんだ」


 俺は質問に答える。


「復讐のため?」


「いや、確かに戦争を憎んでいることは確かだし、3年間くらいは復讐も考えたよ。けどもう10年も経つ、流石にその気も失せたよ」


 軽く笑いながら言った俺の言葉に嘘はなかった。


 復讐は新たな憎しみを生み出すだけだ。


「じゃあ何のために?」


「俺はもう二度と大切なものを失いたくない。あんな思いはもう十分だ。だからすべてを守りきれる力が欲しいんだ」


 こんなこと誰にも言ったことがなかった。雰囲気に任せて言ってしまったのだろうか。それとも遠山さんなら誰にも言わないと思ったからなのだろうか。そしてそれは恐らくどちらでもない。俺は誰かに聞いて欲しかったのだ。俺が胸の奥深くに長いこと押し込んでいたこの気持ちを。



「遠山さんは何でここに?」


「私は復讐のため」


「遠山さんも家族を戦争で……?」


「えぇ、母親をね」


「そっか」


「馬鹿にするならすればいいわよ。私は10年経った今でも復讐なんかの為に生きているのだから」


 そう言って遠山さんは後ろを向いてしまった。


 少し距離が近づいたと思ったんだけどな。


「今日はもう真っ暗だし、日が出てくるまでここにいようか」


 既に1時を過ぎていた。それにこの状況で出ていったとしても、色々なことに気が散ってしまって集中出来なくなるだろう。

 そう思っての判断だった。


「何を言っているの? 私達は既に順位をかなり落としているのよ? 日が出てくるのを待っていたらさらに抜かされるわよ」


 遠山さんは俺の目を真っ直ぐ見ている。


「確かにそうだけど今の状況じゃあ──」


「あなたにとってはたかが順位でも私にとってはとても重要な事なのよ? 私にはやらなければならないことがあるの!」


 まずい、やっぱり今の遠山さんは冷静じゃない。


「やっぱりもう出発しましょう」


「遠山さん! 一度冷静になりましょう!」


「いいわ、だったらあなたはここにいて日が出てから来ればいい。私は1人でも行くわ」


 そう言うと彼女は最低限の荷物を持ち出口の方へ向かって行った。彼女はきっと何か俺に秘密にしている事がある。その何かが彼女にいつもの行動をさせてくれないのだろう。


 その時音が聞こえた。実弾が発射された音ではなく、機械的な音。変に間延びする。


 この独特な音は間違いなくこの支給された銃の音だ。聞こえたのは彼女が走っていった出口の方。嫌な予感がする。


「くそっ!」


 俺はすぐに火を消し、荷物をまとめて後を追う。どうやら彼女はもう洞穴の外にいるらしい。


 洞窟の外では野良犬の群れが彼女を囲み、今にも襲いかかろうかという状況だった。見える限りでざっと20匹はいるだろうか。流石に2人で応戦するには多すぎる。


「遠山さん走って!」


 そう言って遠山さんの手を握り、野良犬が少ない方へ走り出す。


 それを待っていたかのように正面から1匹、左から1匹、俺達2人に向かって飛びかかってきた。


 俺が正面の野良犬に向かって引き金を引いた後すぐに、遠山さんが左から来ていた野良犬に向かって引き金を引いた。仰け反るようにして2匹は後ろへ飛んでゆく。


 野良犬の包囲を素早く突破して、とにかくゴールの方へ走る。早くゴール出来ればいい話なのだ。


「……ハァ……ハァ……くそったれが」


 待っていたのは無情にも行き止まりという運命だった。立ち止まった俺達はあっという間に野良犬の群れに囲まれてしまう。これは流石に逃げようがない。


 すると森の奥の方から目が赤くて一際大きい犬が歩いてきた。何か変だ。


「何だあれは......」


「グルルルルゥゥゥゥゥゥゥゥ」


 そいつは唸ったかと思うといきなり遠山さん目掛けて飛びかかってきた。


「遠山さん!!」


 考えるよりも早く体が動いていた。


 俺は素早く彼女とそいつの間に入り、庇った。勢いが強くその場に倒れ込む。思っていたよりも力が強い。


────ガッ


 鈍い音を立てて噛まれた俺の腕から同時に血が吹き出る。


「──これでもくらいやがれ!」


 俺はその犬の顎に銃を突きつけ引き金を引いた。崖に囲まれているため、銃声が辺り一帯に響き渡る。


「よし……やったぞ……」


 その親玉らしき野良犬を仕留めると俺は気を失ってしまった。


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