第46話 反乱軍⑨
「もう大丈夫だ……みんな退いてくれ」
杖の先端でバリバリと電気のように溜まったエネルギーを、暴発させないように細心の注意を払いながら退避を促す。
「今度は弾かれないような秘策があるんだよな? 一樹」
モニターに広人の顔が映り、その顔は心底不安そうな表情をしている。
俺は現状最も厄介な能力を思い出した。
このまま撃ってもまた同じ結果になってしまうだけだ。
未だ時間を稼ぐために戦っている奈々美さんや桃咲を横目に、必死に頭を動かす。
この状況を打破できる光を探して。
と、その時──
「俺ごと撃て! 一樹!」
いつの間に背後に回っていたのか、クロウの右手をトールが後ろでがっちりと押さえ込んでいた。
不意打ちに対応しきれなかったクロウが焦った様子で引き剥がそうとするが、涼平さんも足をうまく使って何とか離されまいとする。
『くっ! 離せ! くそっ……こいつ……!』
「早くしろ! もう機体がもたない!」
冬夜が暴れると、トールからバラバラとパーツの一部が落ちてきた。
確かに機体はもう限界を超えている。
『貴様……なぜ!』
「操っていたはずなのに、か? あぁ、おかげで色々とやられたさ……だから、俺は今ここでお前と死ぬ!」
『くっ……! 悪かった! 俺が悪かったから!』
「お前を許すか許さないかは一樹次第だ!」
涼平さんには悪いがこんな所で冬夜を逃せば、取り返しのつかないことになってしまいそうで仕方がない。
「涼平さん……すいません」
「やれぇぇぇ!!!」
『くそがぁ!』
再び白く光る雷のような閃光が大地を震わせる。
雷砲がトールとクロウを飲み込み、空高く飛んでいった。
「一樹? なんで……」
「これだけ機体の損傷が大きければもう動くことは出来ないはずです。……もうこれでいいんです」
クロウ、トールの両機は右半分が消し飛んだ。
戦闘機兵の操作において重要となるパーツは、基本的に中心部に配置されることが多い。
その部分を抉るようにして消し飛んだ機体は、当然動かなくなる。
地上に降りてきた、と言っても落ちてきた形のクロウの機体から五九条 冬夜を引きずり出す。
動けないように両手と両足をきつく縛った後、冬夜の頭からバケツで勢いよく水をかける。
「……ぶはっ! げほっ、げほっ!」
「よぉ、お前にはいろいろと聞きたいことがあるんだ。まだくたばるなよ?」
「ふっ、殺さなかったんだな。……この偽善者が」
「お前は何を言っているんだ? さっきも言っただろう? お前はそう簡単には死なせないさ」
「……化け物め」
火の手があちこちで上がる灰色の世界で、数体の機兵と人に囲まれた空間に俺は冬夜と早速問い質した。
もちろん黙りを決め込まれたわけなのだが、その度にバケツの水を顔にぶっかける。
結局聞けたのは3つ。
1つ目は敵の頭のこと。
これに関しては以外だったが、冬夜はすんなりと仲間を売った。
黒幕は抵抗軍。
軍に大きく絡んでいるのは「フェザー」という会社らしい。
武器や弾薬の製造はもちろんのこと、裏では戦闘機兵の開発が進んでいるらしい。
冬夜が乗っていた機体もフェザーで造られたもので、今はAIの研究に力を入れているとも言っていた。
2つ目は五九条兄弟のこと。
なぜ一応は戦勝国である日本の人間が抵抗軍にいるのか。
これは俺も多少は予想をしていたものだった。
戦地となった日本で、親を失くした子供達がどこへ行ったのか。
もちろん保護された子も少なくはない。
だが、シェルターに隠れることの出来なかった数百人の子供達の消息は未だに不明なのだ。
五九条兄弟も戦乱の中で敵に連れ去られたのだろう。
その境遇に同情こそすれど、それとこれとは話が別だ。
3つ目はそのAIについて。
「お前確か名前を茅山と言ったな?」
「……それがどうした」
「ふっ……ふははは! なんという偶然。なんという必然!」
「何がおかしい」
ゲラゲラと笑う冬夜は更に続ける。
「今、フェザーで研究されているAIの名前を教えてやるよ……」
「勿体ぶらずに早く言え」
「自立型AIパイロット『SAORI』だよ」
「……っ!」
「被検体である茅山 沙織を元にした完全なるAIだ!」
ゴッという鈍い音を立てて俺の拳が冬夜の頬へぶつかる。
両手両足を縛られたままの冬夜は、無抵抗のまま転がり、クロウの残骸で止まった。
「……くっ、こんな状況で嘘をつくとでも思っているのか?」
「嘘に決まってる! だって……だってあいつは……あの日俺の目の前で死んだんだ!」
「お前は死体を見たのか? その目で死んだところを確認したのか?」
「それは……」
あの日俺が見たのは土煙に消えていった妹の姿だけだった。
確かに砲弾の巻き添えになったのは見たが、その後どうなったのかは見ていない。
こいつに……オーディーンに助けられたのは俺だけだった。
「いいか茅山。カラスって生き物はな、昔から神の使い魔って言われてるんだよ。これで終わりだと思うなよ? 俺の神が誰かなんてもう分かっているだろう?」
「もういい、誰かこいつを連れていってくれ」
俺は無線で周辺の兵士に連絡を取った。
「一樹くん……もう終わったの?」
「あぁ、奈々美さん今日は一足先にもう帰るよ。……少し疲れた。涼平さん……その、右腕すいませんでした」
少しばかりクロウよりも腕1本分出ていた涼平さんは、俺の攻撃で右腕が消し飛んだ。
高熱をもったエネルギーのおかげか、出血量はそこまで多いわけではなかったが、痛くないわけがない。
「あぁ、いや、いいんだこのくらい……当然の痛みだよ」
その場の後処理は全て任せ、俺はオーディーンへ乗り込むとすぐに神奈川へと帰還した。




