第45話 反乱軍⑧
「何でここに……」
──力を得たくば我を使え
「……いや、なんでもいい。使えるものは使うだけだ」
ジュピターでオーディーンに近づき、素早く乗り移る。
俺が機体に触れると、操縦席が開く。
中に入り、座ると電源が入った。
同時にヘルメットのようなものが降りてきて、俺の頭を覆う。
意識を持っていかれる。
機体に意識を預ける、それがオリジナル機の操縦方法だ。
パイロットが機体を選ぶのではなくて、機体をがパイロットを選ぶのだ。
それがオリジナル機の適応パイロットが少ない理由。
数秒の暗闇が終わると、視界がぱっと明るくなる。
まるで自分自身の目で見ているかのように鮮明な視界と体。
思ったように機体が動いてくれるのだ。
もちろん機体の構造上体が動かない場所はあるものの、その動きはかなりスムーズで、オリジナル機が強いと言われるのがなんとなく分かった気がした。
「一樹くん! 危な──」
後ろから奇襲をかけてきた3機の機兵へ、ソードを握って軽く振るう。
ここまで性能の差が出るかと思うくらいに、いとも簡単に薙ぎ払えてしまった。
「すごい……」
続いて固有武器である杖を手にする。
握った瞬間に杖の先端には赤い光が灯った。
使い方を教わらなくとも、使い慣れた武器かのように操りやすい。
体全体に貯めた力を腕の先へと集め、それを杖へと流していく。
灯った赤い光が大きく明るくなり──
ゴッと音を立てて前方へと波動が飛んでいき、銀白色で埋まっていた視界が一瞬にして晴れる。
「……こいつは想像以上だな」
あまりの威力に思わず苦笑いをしてしまう。
『おいおい、やってくれるじゃねぇのよ』
「……っ! 誰だ」
奈々美さん達も反応したことから、おそらくオープンチャンネルだろう。
『俺のカワイイ子ちゃん達をあんなにしやがって……用意するのは簡単じゃねぇってのによぉ! どこのどいつだこんなことしやがったのは!』
「聞いてねぇな……いや、聞こえていないのか。どこから来るか分からないぞ! 全員戦闘用意!」
そして空から真っ黒なボディに、大きな翼を生やした機体がゆっくりと舞い降りてくる。
沈みかけた太陽を背に降りてくるその姿はまるで──
『お前らしっかりその低脳で覚えておけよ! 俺の名前はトウヤ、五九条 冬夜、戦闘機兵オリジナル機Crowのパイロットだ!』
「Crow……カラスか。いや、そんなことよりも五九条ってことはまさか……」
「一樹くんもそう思うのね。おそらく五九条 冬夜は、校内戦決勝トーナメント最終戦の相手、五九条 龍雅の親戚に当たるようね」
黒い機体にオレンジ色の光が当たり、不気味に光っている。
ゆらりと左右に揺れたかと思うと、今度はクロウ自らが赤く光を発し出す。
「しまった……! 五九条の親戚ということはこいつもオーバードライブを操れるということか!」
残像を残してクロウは1機の戦闘機兵を殴り飛ばす。
「桃咲!」
基地内に響き渡るほどの大きな音で倉庫へと叩きつけられる。
「……大……丈夫……」
帰ってきた言葉はいつにも増して力がこもっていなかった。
ぶつかった衝撃でどこかを打ったのだろう。
そのスピードについていける性能の機体は、この中でただ1つ。
「全員下がれ! あれに量産機は通用しない!」
「聞いたわね! ここは一樹くんに任せて下がるわよ!」
「あ、あぁ……気をつけろよ一樹」
黄金色の機体と漆黒の機体が相見える。
オープンチャンネルをオンにして、冬夜へと声を伝える。
「よぉ、お前の相手は俺だ。五九条 龍雅の親戚さんよ」
『ほぉ、あれを知っているのか。あれは俺の弟に当たる部類でなぁ、弱っこいから潜入させても役に立たなかったぜ』
そう言いながらゲラゲラと笑っている。
暇があればこいつの頭の中がどうなってるのかをかっさばいて見てやりたいところだが、生憎と今の俺は機嫌が悪い。
「あんたが誰の家族だろうと関係ないさ。俺はお前を撃退するのが任務なんでね」
『そうかい……その派手な機体が見掛け倒しじゃないことを祈っているぞ……』
黒い翼を1回羽ばたかせたかと思うと、音速を超えているのではないかという速度で迫ってくる。
だがこちらもオリジナル機。
相手がオーバードライブに入っていようが勝たなければならない。
俺が負けるということは新潟基地の陥落を意味する。
「はぁぁぁ!」
『おぉぉぉ!』
2つの大きな塊が空中で激しくぶつかり合う。
火花を散らしながら猛スピードで駆け巡る。
「一樹くん……!」
「一樹……!」
全員が固唾を飲んで見守っている。
そんな中、2機の機兵がお互いに寄り合うようにして歩いてきた。
片方はぐったりとしていて、もう片方は少しは余裕があるようだがそれでもふらついていた。
「一樹くん……そいつは、機体を乗っ取ってくる……気をつけろ……」
ぐったりとしていた機兵の方、オリジナル機トールのパイロットはそこまで言うとその場に崩れ落ちてしまう。
その言葉が聞こえているのか聞こえていないのか、俺はもう自分でも分からなくなっていた。
それほどまでに集中していて……そして、怒っていた。
「こんな短期間に2度目のオーバードライブに入れるなんて……全く涼平のやつこんな子を連れてきていたなんてね。オーディーンを操れるのも納得だわ」
オリジナル機同士がぶつかって無事な方があるわけがなく、ヘルもその場に座り込む。
正直立っているのが限界だったのだろう。
『いいぞ! いいぞ! 自らオーバードライブに入れるなんてな……! 期待以上だよ! ……名はなんと言うオーディーンのパイロットよ!』
「そりゃどーも……1回しか言わないからよく聞いておけよ俺の名前は茅山 一樹。お前を倒す男の名だ!」
俺は杖を天に掲げ、詠唱を唱える。
誰に教えてもらったわけでもなく、自然の口から零れてくるような感じだった。
まるでその攻撃を待っているかのように、冬夜はその場を動かない。
「オーバードライブ状態での制限解放だ……散れ、五九条 冬夜」
杖の先端が光ったかと思うと、次の瞬間には大地を揺るがすような衝撃が走る。
一直線でターゲットへと向かっていったその光の束は、黒いカラスを飲み込む。
「はぁ……はぁ……終わったか……」
『……誰が終わったと言った!』
自分が全力の攻撃を放った場所を見直すと、そこには傷1つないクロウの姿があった。
「なぜ……!」
『そこでボロボロになっている奴が言ってたじゃあないか。俺の固有能力だよ。右手で触れた対象を自由自在に操れるのさ。俺はただその能力を使って君の攻撃を横へずらしたんだよ』
「そんな事が……出来るということか」
もう受け入れるしかなかった。
状況から考えても、冬夜が言っていることは嘘ではなさそうだったし、仮に嘘だったとしても受け入れ戦うしか道はないのだ。
「オーバードライブはもうすでに燃料切れだし、どうすれば……」
「私達が戦うわ……」
「奈々美さん? それに広人と桃咲まで……けど、相手はオリジナル機だぞ? 勝算はあるのか?」
「あくまで俺達ができるのは時間稼ぎで、一樹はその間に今のやつをもう1回……いや、もっとでかいのを溜めるんだよ!」
みんなの実力を疑うわけではないが、量産機が3機いてもクロウに の相手になるか分からない。
けれどもうそれしか策も浮かんでこないわけで。
「……分かった。けど、自分達が危なくなったらすぐに逃げてくれよ」
「分かっているわ……それじゃあ出来るだけ早めにお願いね」
3機の機兵がクロウへと向かっていく。
『おいおい、それはナンセンスだぞ? お前達で勝てるとでも思ったか?』
クロウは弄ぶかのように、攻撃を全て躱す。
逆にその力の差が俺は嬉しかったりする。
もう誰も傷ついて欲しくないから。
「……準備完了だ」




