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第1話 未来への1歩

 燃え盛る炎の中で一人の少女が、少年へ向けて必死に手を伸ばしている。


『ひっ……嫌だ……死にたくな────』


沙織(さおり)ぃ!!』


チュンチュン……チュン……


「……夢……か」


 4月5日。

 この日の朝はこれでもかというほどの暖かい日差しが部屋に差し込んでいた。


 まさしく春だった。


 これほどに天気がいいにも関わらず、嫌な夢のせいで俺の心はどうやら曇りのようだ。


「まだあの夢を見るなんてなにかの因縁なのかな」


 大きなあくびを1つする。


 俺はこの日を待ち侘びていた。なぜかって?そんなの決まってる。


 今日は「私立第一戦闘機兵高等訓練学校」の入学式だ。


 ここに入学するためにどれだけ頑張ったことか……。


「やばい泣けてきた」


 ブツブツと呟きながら俺は訓練校の制服に着替える。白を基調とし、襟のところに緑色が入っているブレザーのようなつくり。何より特徴的なのは左肩にある緑のライン。


 特に何も無いシンプルなところが好きだったりする。


「行ってきます……」


 家は静まり返っていて返事は帰ってこない。


 そう呟いて家を出た俺を待っていたのは3日ぶりに聞くいつも聞いていた声。


「おっはよーかずくん!」


 かずくんはこいつが小さい頃から勝手に呼んでいる俺のあだ名だ。


 俺の名前、茅山(かやま) 一樹(かずき)の名前はよく"いつき"と呼び間違えられる。それを京子は間違えずに初めてあった時からかずくん呼びだった。


 親から聞いていたのだろうか。


「あぁ……おはよう」


 きっと俺は眠そうな顔をしているのだろう。


「テンション低くない?」


「お前が高すぎるんだ京子」


 きっとそんなことは気にしていないであろうこの元気の塊のようなお隣さんの名前は真宮(まみや) 京子(きょうこ)。俺達は今まで幼稚園、小学校、中学校といつも一緒だったが、高校まで一緒とは……。


 つまり俺の幼なじみになるのだろう。


「えへっ」


「可愛くないぞ」


「かずくん冷た〜い」


 俺達の関係を知らないやつが見たらバカップルに見えるのだろかとくだらないことを考えながら同じ目的地へと向かうためにバス停に向かう。


 断じてそんな関係ではないぞ?


 訓練校へはバスで30分程度なので、着くのはあっという間だ。


 バスから見る景色は、入学試験をした時とはすっかり変わってしまっていた。あの時は雪が降っていたが、今は桜の花びらがひらひらと舞っている。


 バス停に着いてからはもう坂を登るだけで着く。


 なんて楽なのだろうか。


「ここか──」


「大きいねぇ〜」


 数ある訓練校の中でもトップクラスの敷地面積を誇るだけあって門から見えるだけでもその大きさが何となく分かる。校舎もとても綺麗で驚いた。さすが私立といったところか。


 京子とともに桜が舞う道を1歩ずつ進んでいく。


「────っ」


 そんな期待と不安を胸に抱いた俺の前を綺麗な黒髪が文字通りフサッと横切った。


「…………」


 桜舞う中を歩くその光景はまさに芸術だった。思わず足を止めて見入ってしまう。どのくらいだろう。完全に時間の経過を忘れてしまっていた。


「──くん────かずくん!」


 京子の呼ぶ声にハッと我に返る。


「どしたの? 大丈夫?」


 心配そうに京子が俺の顔をのぞき込む。


 まぁ隣にいた奴が急に立ち止まってぼーっとしていたら心配もするだろう。


「すまん少し人混みに酔った」


「まだ入学式も始まってないよ〜」


 そう言いつつ京子は俺に微笑みかける。


「行くか……初日から遅刻は洒落にならん」


 このまま遅刻したら間違いなく俺の寝坊のせいにされるだろう。京子は俺の寝坊には触れてこなかったが教官はそうはいかない。なんて言われることか。


 初日から悪目立ちはしたくない。せっかくの新しい環境だからな。


 これからどんな生活が始まるのだろうか。どんな奴がいてどんな実習が受けれるのか。

 久しぶりに心が踊る感覚がした。不安もある。けど期待もある。

 そんなテンプレ通りの思いを胸に俺は入学式の会場である体育館へと足を踏み出した。


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