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番外編 STORY 茅山 一樹

本編から少し離れて番外編です!


これからもちょくちょく放り込むので、読んでいただけると嬉しいです。

 これは1人の少年の物語。


 西暦2020年1月12日、日本時間午前2時、アメリカ合衆国はロシア連邦に対し、宣戦を布告した。

 それは第3次世界大戦の開戦を意味するのだ。


 アメリカを筆頭とする西側は日本を含めた36ヶ国、ロシアを筆頭とする東側諸国は40ヶ国が参戦した。


 戦況は均衡した。


 大西洋、太平洋での海上戦に始まり、爆撃機による空爆、陸軍による陸上戦闘。

 和平は結ばれることなく、約6ヶ月もの間続いた。


 その間沖縄アメリカ軍基地は最前線の基地として使われ、本土では激しい戦闘が繰り広げられていく。


 戦況が傾き始めたのは同年7月28日の西側諸国による戦闘機兵の実用からだった。



 少年が生まれたのは2014年7月31日午後1時のことだ。

 その日はよく晴れていて、病院の外ではセミがミンミンと泣いている、夏真っ盛りだった。


 父の名は茅山 一心(いっしん)。母の名は茅山 美希(みき)。少年は父の字を継ぎ、茅山 一樹と名付けられた。


 その僅か1年後、長女の茅山 沙織(さおり)が生まれる。


 家族4人幸せな生活を送っていた。


 しかし、それはたった5年間で終わりを迎える。



 戦争の激化を受け、茅山家でも2月から地下のシェルターでの避難生活を余儀なくされた。


 それと同時に父、一心は徴兵され、戦地へと向かって行った。


 シェルターの中からでは連絡も取れず、生死を確認することは出来ない。

 避難生活は戦闘機兵が導入された7月28日まで続いていた。


……終わったというのが正しいのだろうか。


 戦闘機兵が導入されると、戦闘は激しさを増し、日本への攻撃も激しくなった。


 茅山家が避難生活をしているシェルターに放送が流れる。


『第2シェルターが突破され、敵軍の攻撃を受けています。第3シェルターの方は直ちに第7シェルターへ移動してください。繰り返します──』


 シェルターは全部で12箇所で、第1〜第4までが地下1階に、第5〜第8までが地下2階に、第9〜第12までが地下3階に配置されている。

 全てのシェルターは通路とエレベーターで繋がっていて、地上への出入口は全部で20箇所あり、全て非常階段から出入り可能になっている。


 つまり、第2シェルターが突破されたということは茅山家が避難生活をしている第3シェルターに敵軍が来るのも時間の問題という訳だ。


 放送が入った時、一樹はトイレにいた。


 トイレから出ようとした時、体に響いてくるような大きな音がトイレの外から聞こえる。


 一樹は恐る恐る扉を開け、様子を見た。


 敵の歩兵部隊が銃を乱射し始め、避難民達が次々と倒れていく。


 白い壁と床は真っ赤に染まり、一樹の足元にも血が流れてくる。


 一樹は吐きそうになるのを口を抑えて我慢しながらも、目線は逸らさない。


 下のシェルターへ行くエレベーターは下の避難民達によって止められ、階段も封鎖されている。

 自分達が助かる為とはいえ、人間とは何とも醜い生き物なのだろうか。


 エレベーターに乗れなかった人達が次々と撃たれていく。


 その集団に美希の姿があった。


 一樹が美希の名前を呼ぼうとした時──


──美希の体を1発の弾丸が貫いた。


「あ……」


 一樹の目から涙が(こぼ)れ落ちる。


 銃を持った敵軍の兵士達は非常階段の扉を壊し、下のシェルターへと降りて行った。


「……あ……あ」


 トイレの扉を開けて一樹がゆっくり出て来て、真っ直ぐ倒れている美希の元へと向かう。


 美希はぐったりとして動かない。


「……うぐっ……っ……」


 その時、女子トイレの扉がガチャっと静かに開く。


 場に変な緊張感が漂う。


「…………」


 一樹がトイレの方を向く。


「……沙織」


 トイレから沙織がわんわんと泣きながら歩いて来た。

 美希がバレないようにトイレに押し込んだらしい。

 一樹は美希が倒れている姿が見えないように沙織を抱く。


「……ここは危ないから上に行こう」


 一樹は沙織の手をしっかり握り、非常階段を登っていく。


「……んっ」


 非常階段を一番上まで登り、蓋を横にずらしてどかし、地上に出る。


「「…………」」


 2人は言葉を失った。


 育ってきた街は荒れ果て、空には戦闘機が飛び交い、赤い炎が所々で燃え上がっている。


「──っ」


 突然起きた激しい破裂音と爆風で一樹と沙織は引き離されるように吹き飛ばされる。


 2人の近くに砲弾が着弾したのだ。


「沙織!」


 沙織は倒れながら一樹のいる方へ手を伸ばす。


「……嫌だ……死にたくな──」


 微かに聞こえた声は恐怖で震えていた。

 その声を遮るようにまたしても砲弾が着弾する。


「…………」


 その砲弾は俺と沙織の間に降りてきたものに当たった。

 大きな機体に黄金の鎧と黄金の兜を身につけ、杖を持ち、立っている。


……戦闘機兵だ。


 その戦闘機兵は杖を持っていない左手で一樹を優しく持ち上げ、飛び去る。


「……待ってくれ……まだ妹が!」


 一樹は戦闘機兵に訴えかけるが、返事はなく進み続ける。


「……沙織ぃ!」


 その日は2020年7月31日。


 一樹の6歳の誕生日だった。


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