思いは捻じ曲げられる。
一枠目、思いは捻じ曲げられる。
テレビの電源をつけると、そこには喚くか同じことを繰り返すかの国会が映る。
それを見た俺の感想は「馬鹿じゃね」
コミュニケーションにおいて、最も重要なのは聞くことだ。国会議事堂のジジイは形だけの言葉をなげかけるだけで、相手の話を聞こうとしない。ディベートを授業に盛り込むとか言いながら、その当の本人たちが出来ていなければ意味がない。
実際、出来る人間なんて限られている。
話を聞く、相手を見る。簡単な事なのに出来ないからイジメや虐待もあるし、戦争も勃発する。それらに比べてちっぽけだけど俺にもある。
キャスターがスポーツニュースを読み上げる。映るはプロ野球のベンチ、白と青のユニフォームをまとう監督と何かを画くコーチの姿だ。その何かが俺にはわかる。
数十分前のことが引き金に何度もフラッシュバックする。
俺は家路についていた。始業式で体育館に押し込められ、小説を校内で読んでいたら担任の先生に捕まり資料運びを手伝わせられた。気分転換に川沿いを歩いていた。
堤防下で俺の学校、名賀高校の野球部が練習していた。
二時間ほど遅れて俺は学校を出ているからこの光景は不思議じゃない。
「うぎゃっ」
飛んできた球が俺の頭を捉える方が不思議だ。俺じゃなかったら死んでいるぞ。
「おーい、ピクチャー。ボールをとってくれ」
「東霞、先に言うことがあるだろ」
「お願いします、西藤さん」
俺は野球帽を外す坊主頭を見下ろす。俺のクラスに来るから覚えていた。東霞夏佐は持ち前の明るさで学内の人気を勝ち取っている。基本的に本を読んで休み時間を過ごす俺とは反対の性格だ。たまにしか話さない俺の名前も覚えているから俺も嫌いではない、いつもはあだ名で呼ぶが。
「はい、はい、行くぞ」
夏佐までの距離は軽く投げるには少し遠かった。ストレス発散のためにも助走をつけ、久しぶりに真剣に投げてみた。それが俺の今後狂をわせる。
離すタイミングが早かったため、ボールは東霞の頭上を超えていく。直進するボールは落ちることなく、四つのベースの内側ダイアモンドでバウンド、キャッチャーのミットに収まる。
「な、なんだよ、その肩」
夏佐は顔を引きつらせる俺へ歩を進める。
「ナツサー! 肩いいアピールしてんじゃねえ!」
「俺じゃないっす先輩……てっ、おい、ピクチャー」
本能が赴くままに俺はグラウンドから逃げる。もう、運動部に入る気はない。
俺自身の意思とは関係なく何度も思い起こされる記憶。軽いトラウマだ。
中学生だった時、一年も満たない間だが俺は野球をやっていた。主な仕事はスコアラーだった。スポーツニュースに映っていたコーチが画いていたのがスコアだ。
スコアを簡単に言うと試合記録帳だ。横に長い専用のノート。一試合にページ使い、一打席ずつ決められた欄を埋めていく。
書き方のルールは、基本はあるが、チームによって違う。俺が所属したチームは新設されたばかりだ。チームとはいっても部活で、スコアの書き方なんて決まってない。それも俺が創った。
俺にスコアラーを一任した理由はわからないが、合っていた。一週間少しでルールを成立させ、実際に使った。
体が強いのに、運動センスがない俺はこの役割に手ごたえを感じていた。
そんな俺を周りは認めなかった。
必死になり過ぎた俺が多くのへまをしていたかもしれない。その多くが認められたいがために起こした行動の空回り。
孤独しかなくなった俺は野球をやめ、適当な日々を過ごしている。
始業式の翌日から授業は始まる。二年生になって最初の授業だからカリキュラムは進まない。話を聞くのはそこそこにボケっと青空を見る。
「そんなに面白いの?」
俺は首をひねって、窓の方とは反対側を見る。
「なんか、でかいな」
高速の手刀が俺の頭を捉える。力に逆らわずに俺の頭が傾く。
「何を見て言ってるの、変態」
「変態は認めるけど胸とは言ってないだろ、生徒会の北菊秋葉さん」
秋葉は片手腕で胸を隠し、もう一方で幾本の丸めたポスターを持つ。
俺の指摘で秋葉の顔が真っ赤だ。中学時代からの腐れ縁だからか、女子と話すのが苦手な俺でも冗談が言える。
その代償に周りから冷たい視線が俺に向かう。秋葉は可愛い顔しているくせに、いつも冷たい表情でいる。氷の女王様然としているから大量のファンを持っている。
「ありゃ? 今昼休みか?」
「そう、本当に呆然とし過ぎ」
俺は人差し指で頬を掻く。暇があるといつも呆然とするが、何も考えていないわけではない。むしろ、考え続けている。
「夢がどれだけ大切なものかは、北菊さんはわかるでしょ?」
ずっと俺は夢を探している。思索で見つかるとは思わないが見つける方法くらいは考え着くかもしれない。
俺の行動原理を秋葉に話したことあるし、最も理解しているのは彼女だ。成績優秀であるにもかかわらず、やりたいことがあるからと特進科ではなく普通科である俺と同じクラスに所属している。
「まあ、君は少し違うと思うけど」
言いたいだけ言って秋葉は教室を去る。秋葉とすれ違う坊主が目に入る。
「ピクチャー! じゃなくて西藤」
うるさいので聞こえていないフリをする。正直、うざい。
俺は購買へ昼飯を飼いに行くために席から立つ。
「俺達と一緒に野球やろーぜ!」
「やだ」
立った目の前で唾を飛ばされる。大声で叫ばれる。迷惑な勧誘。巻き添えによる悪目立ち。これで断る理由が存在しない方がありえない。
「なんでダメんあんんだよー」
「脳筋が嫌いだから、だけにしとく。」
俺は叫ぶ東霞を無視して、廊下へ出る。
「ニシフジ―! 焼きそばパンとメロンパンに缶コーヒーだ」
新たな学年になってから一週間、毎日のように夏佐は俺に昼飯を買って来ている。
「ありがと、でそれで?」
「一緒に野球やろうぜ」
「やだ」
毎度このセリフを聞いている。
跡が面倒なので多めに昼飯代を夏佐に渡しておく。ところどころで「パシリ」が聞こえる。悪名高くなりたくないからやめてほしい。
「なあ、なんでダメなんだよ、ハル―」
「何気に呼び方を変えるな、別にいいけど」
とりあえずは焼きそばパンから食べ始める。夏佐は俺の返答を待っているようだ。
「俺は運動部に入る気はねーよ」
「この肩を宝の持ち腐れにする気かよ」
「ただ強いだけだよ、この体」
メロンパンも平らげたので、屋上へコーヒーを飲みに行く。
「んじゃ、待たな」
廊下に出ると、癖が多いショートカットの子がいた。
「野球部に入ってくれー!」
後ろから再びやかましい奴が突っ込む。考えなしに突っ込んでいるから、俺に怪我させる可能性ある。このまま倒れると前にいる女子にも被害がありそうなので、足を引っかけたうえで首根っこを捉えて落とす。
唯一倒れた夏佐が、情けない声を出す。
「ごめんね、なつが迷惑かけてるね」
「なつ?」
「夏佐のカが夏だからなつ」
女の子は夏佐に拳骨を食らわせる。夏佐は再び情けない声を出して大人しくなる。
「私は南幅冬花、これの幼馴染」
冬花は夏佐の頭を踏みつける。大分ひどい扱いだ。
「たしか、野球部のマネージャーだったよな」
気分転換に川沿いの道によく歩くから野球部の練習風景をよく目にしていた。その中でマネージャーの扱いに問題があるように思えている。
「あら? 知ってたの?」
「まあな、ついでに言うマネの扱いも入らない理由な」
「きもいよ、君」
いつの間にか秋葉がいる。
「いつまで引きずってんの、そういう人間関係のもつれってどこにでもあるでしょ」
「あるからって問題じゃねーだろ」
秋葉は呆れた顔で俺を通り過ぎていく。
「なんか、噂通り冷たい人ですね」
「そうか?」
冬花の発言に俺は強い疑問を感じた。秋葉をよく知るから持つ感覚なのだが。
「俺は大抵ボッチだけど、どうでもいい話とか普通にしてくるんだよ」
「それが?」
「周りが、で考えない所、俺結構好きだけどな」
俺も二人を置いて屋上へと足を進めた。
資料の整理が終わったので生徒会室に備えてあるコーヒーで一服する。あのヘタレで気が滅入っていたから余計にコーヒーに癒される必要が余計ある。
「わあ、そうやって足組んでるとすごい様になりますね」
生徒会役員の物とは思えない高い声が響く。声の主を半目で見てみる。
「さっき、ハル君と一緒にいた子?」
昼休みの時間はここで過すため、春佑が毎日のように言い寄られている事は噂でしか知らない。小柄でかわいい子に買い出しに行かせるなんて、春佑は鬼畜だ。
「えーと、私、野球部のマネで、活動報告書もってきたので」
「ああ、預かるは。ついでにコーヒーでも飲む?」
私は相手の答えは聞かずにコーヒーのドリップを始める。
「ミルクか、お砂糖いる?」
「え、あ、お願いします」
私は笑顔を見せたつもりだけど、マネージャーさんはおびえている。ようやくできたコーヒーを砂糖とミルク一緒にお盆で運ぶ。マネージャーさんに座るよう促す。
「えっーと、北菊さん」
「秋葉でいいわ」
私も椅子に座り、コーヒーを口に含む。
「秋葉さんと西藤さんって好き通しなのですか?」
含んだコーヒーが霧となって舞う。私は慌てて付近で後始末する。紙の書類を広げていなくて幸いだった。
「なんで、あのヘタレと」
「秋葉さん、西藤さんと話すときはなんか、ふういん気違いますよ」
私の口から言葉が出ない。普段は相手が何を考えているかわからないから事務的な言い方をするが、春佑とは素の自分で話せる。
「だとしても、ただの腐れ縁、どんな話も聞いてくれるとこいいけど」
私の反論にマネージャーさんはニヤニヤする。
「で、あなたはハル君にとって何なのよ」
「何でもないですよ」
私の必至な反撃は即刻、撃ち落とされる。
「最近、西藤君に言い寄ってるの私じゃなく幼馴染のなつですね」
附抜けた短い奇声を私は上げた。
「噂を気にしてるのですよね?」
「気にしてなんか、いないわよ!」
自分が取り乱しているのに気づき、私は咳払いする。落ち着くためコーヒーを含む。
「なつは男ですよ」
再び黒い霧が舞う。
「あ―、やっぱり気にしてるのですね」
「あ、あなたね。それ本当なの」
「言い寄るって言っても野球の勧誘ですよ」
私は再び附抜けた声を出す。手は散ったコーヒーを処理する。
春佑と野球部員東霞夏佐の珍道中を目の前の南福冬花から聞く。呆れてため息を吐く私を冬花はクスクス笑う。
「秋葉さんって評判とは全然違って乙女ですね」
「みんなアニメの見過ぎ」
私に氷の女王と呼ばれているのは知っているけど、何を根拠につけられたかよくわからない。
「でも、面白いことになりそうね。それなら」
「え、それって?」
「おーい、米倉先生がこれ持ってけって」
生徒会室に今朝問ったアンケートを春佑は持ってきた。私はしたり顔で春佑を見る。
今日はいろいろと振り回されている。夏佐の件もそうだが秋葉にもこんなことを頼まれるとは思っていなかった。
両手でペットボトルドリンクの今日を一ケース分運ぶ。
「ありがとうね、なつが迷惑かけているのに手伝ってもらって」
「別にいいけど」
隣で冬花が苦笑いする。名賀高校は毎年、レクリエーションで家族、友人参加可能な野球大会をする。そのための用意を手伝えと秋葉から言い渡された。
手伝うのは構わないが、秋葉から言い渡された理由がわからない。
「そう言えば、なつがピクチャーはすごい肩してるって」
「単にからだが強いだけだよ」
生まれつき身体能力は高かった。そうでなければ大怪我していることもある。それに反するように運動神経は悪い。この間の遠投も投球技術に最近学んだ物理学を応用しただけだ。実戦では使えない。
「本当に助かるよ。重いものもあるし、マネージャーだけだし」
「あれ、マネは女子が三人だけだよな?」
「今は一年の子もいるから四人」
俺の呆れた表情を表に出てないか不安になる。
運動部の奴は時に自分たちがしている行動に疑問を持たないことが多い。特に有名でも強くもない所で活躍する場合。
「ピクチャーも参加する? 今度のレクリエーション」
「東霞が面倒だからやめとく」
冬花は乾いた笑い声を出す。
俺たちはグラウンドの隣を通り、普段は開いていない倉庫へ差し掛かる。
珍しく開いていたから俺も冬花も倉庫の中を見た。俺はそこで起きていたことを理解するのに時間がかかる。
野球のユニフォームを着た男が体操着を着た、俺の記憶ではマネージャーの子の両肩をつかみ、壁に押し当てていた。
「何やってんですか、九十先輩」
青い顔になった冬花が現場に駆け寄っていく。冬花が運んでいたドリンクは地面に転がる。
「南福、邪魔すんじゃねー」
「ふくちゃん、危ないから」
叫ぶ二人の体格差は激しいものだ。二倍差はあるかもしれない。九十は確か打席五番、ライトを守る事が多かったはず。
「俺はチームにどれだけ貢献してると思ってんだよ、こんくらい良いだろ」
「ああ、俺が最も嫌いなタイプか」
脳筋が嫌いでも、他人から聞いたことを鵜呑みにしている奴はまだいい。彼らなりの正義がある。しかし、九十のような自分本位な独善な奴を肯定できる要素を俺には見つけられない。
「南福、お前もなつさにしてんだろ? 今やチームの柱で四番だからな」
「私は、そんなこと」
「だったらあ、俺にも権利はあるよな」
転がるペットボトルを整理し、出入りの邪魔にならない所へ俺は押しやる。
俺はため息を吐く。
この状況で俺に与えられた選択肢は、
一、野球部マネージャーズを助ける。
二、見捨てて、バックレる。
三、教師を呼ぶ。
となる。三が最も妥当に思えるが、最適とは言えない。近くに教師がいる保証がなく。探すのに時間がかかる。
「さっさといけ。それともお前が相手してくれるってか」
「いえ、そんなことは」
「ひどいね、同級生を見捨てるとか」
一番最低なのはお前だよ、とこころの中でつぶやく。
「俺は偽善者かな」
この状況で俺は逃げ出すことも不可能ではない。ただ、今後の学園生活が灰色に染まる可能性が高まる。
ただ、素直な理由がそもそも選択肢二は俺の中に存在しない。本来は逆のはずなのだが、ひねくれ者の俺はこの順でなければ落ち着かない。
俺は腰を持ち上げ、倉庫の中へ入っていく。九十は俺に気づく。
「おい、お前誰だ」
九十の反省も後悔もないのを見て取れた。
俺はわかりやすく呆れているように見せるため大きくため息を吐く。
「そうですね、通り掛けの変人です」
「はあ? なに言ってんの」
俺は歩みを止めない。俺の変化のない表情に不快感を覚えたのか九十の興味が俺に向く。糸が切れたマリオネットのように女子マネージャーは倒れる。
「テメーも俺を見下すのかよこの俺を」
冬花が何か言っているが、無視する。俺は九十が他に目を向かないよう、見る方向を維持する。
「この俺を、本気出したら何でもできる俺だぜ」
「だからどうした?」
俺は抑えきれない怒りを九十に振るった。
その後のことはあまり覚えていない。ただ言えることは一つ。
俺は脳筋が嫌いだ。
目の前の教師が息をはく。今回の事を俺が何も言わないことにいら立っている。教師が聖職だなんて言うのはどの時代にもない。教師もしょせん人間。表面の情報しか見ないのもいる。もっとも俺が何も言わないのは説明できる内容がないからだ。
俺の顔に傷はない。殴られはしたものの、俺は平然としたものだ。前にケンカしたときも殴れなかった俺じゃなく、殴り続けた相手が翌日に休んでいる。
「おう、西藤。傷がありゃ、男前になったかもな」
「教師の吐くセリフですか、丹田先生」
気さくな態度で数学教師の丹田朱宇治先生は俺たちがいる応接室に入る。朱宇治は野球部の顧問でもあるから今回に関わらないはずがない。
「聞いたぜ、マネージャーたちを助けたんだってな」
「丹田先生、それは本当ですか」
「ええ、本人たちから聞きました。九十に襲われたそうです」
朱宇治の言葉に尋問していた教師は目を丸くする。そんなに悪人面か?
「俺への罰は?」
「女の子たちに感謝しろよ。九十の行いと一緒に無しだ」
俺は停学にはなる覚悟はしていたので少し抵抗はあるが、素直に受け入れた。
二人の許可を得て、応接室を出る。鞄を取りに生徒会室へ向かった。
生徒会室には三人の女子がいた。一人は生徒会の秋葉、残りの二人は野球部マネージャー、俺がやらかした事件の関係者。
「あの、その、ピクチャーさん」
「まて、このタイミングでピクチャーはやめてくれ」
俺が頭を押さえる様子に秋葉がほくそ笑む。
「えーと、春佑さん? 先ほどはありがとうございました」
「ああ、感情的になって殴っただけだよ」
嘘はついていない。実際に殴る必要はなかった。
「俺こそありがとうな。辛かったのに」
「いえ、それは別に」
もじもじと体操服の裾を女の子は引っ張る。
「あの、私、二年の青空四葉です。よろしくお願いします」
四葉は俺の返事を待たず走り去っていく。四葉を追いかけ冬花も行ってしまう。
「なんなのあれ?」
「さあ? 色好きさん」
秋葉の冷たい目線に刺される。言葉が詰まる。
「北菊さんちょっと相談があるんだけど」
俺は相談する間、自分の偽善者っぷりに呆れた。
「おあ、ピクチャーじゃねーか」
放課後、俺は野球部へ足を運んでいた。夏佐が突進してきたときのために半身にする。
「ようやく、やる気になったか」
「うなわけねーだろ」
胸ポケットに指してあるシャープペンで夏佐の頭をつつく。うなだれているが知ったことではない。
「おーい、集合」
朱宇治の一声に野球部員が集まる。九十の顔は男前になっている。俺は顧問の隣に立つ。
「今日からマネージャーとして働いてくれるそうだ」
驚嘆の声にグラウンドが包まれる。
「物好きねー」
「やかまいわ」
何故かここにいる秋葉にツッコミしたので、切り替えて自己紹介する。
「普通科二年D組の西藤春佑です。写真部との兼部ですのでマネージャーの力仕事を手伝う程度ですが、よろしくお願いします」
一通りの号令を終え、選手はランニングを始める。夏佐の不満げな顔が目に入る。
今日のところは昨日の続きでレクリエーション時に使うものの運搬だ。作業を始める前にマネージャーたちを呼び止め、一枚の紙を渡す。
「身に危険を感じたらそこに連絡しろよ、できるだけすぐに駆けつける」
言いたいことだけ言って、俺はすぐに作業を始める。秋葉の「きざやろー」と言う叫びは聞こえなかったことにする。