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【空海】ウィルフレッドは夢を見る。

作者: 丸井やよい

今日も、月は綺麗だ。

しかし、孤高なその姿は随分と欠け落ちてしまい、細く儚い姿に”見える”。その透明な暗い部分にも、月は”存在している”はずなのに。


ーーーそんな姿に、ふと、***の事をふと思い出すが、首を振って彼女のイメージを取り払う。

彼女はもういないから、思い出しても苦しくなるだけだ。



…さて。今日の1日も相変わらず、平凡で非凡なものだった。

もう、”あの日々”なんて、俺はもう忘れかけてしまっていた。

忘れたかったのかもしれない。懲りずにまた、俺は逃げていたのかもしれない。

すべても何もが無くなってしまった、あの日々から。

生きる意味の無くなってしまった、この日々から。

俺は逃げる。逃げて、逃げた。


沈まない”太陽”は無いし、明けない”夜”も無い。

しかし、そんな”世界”の当たり前は、一昨日に無くな”る”のだ。

そして、考えもしなかった不思議な世界は、”彼女達”と共に、明後日に 終わ”った”のだ。


深くため息をつき、頭を抱えてみても。空間が入り混じったこの世界では無駄なのだ。

偶然が重なっている、普通な、何時もので、平凡な、この世界では。

何もかもが無駄だったのだ。


だが、それでも。不思議と俺の胸は安心感でいっぱいで、あの日に感じ過ぎていた”焦燥感”はもう、無くなってしまっている。


今、俺様の目には何が映っているのかを聞きたくても。

ーーー俺の見える世界を見る、**はもう…。

彼の笑顔を思い出した俺は、無表情なままに泣いた。


しかし、明後日に慰められ”た”俺に、彼らの言葉も届くはずはない。

一昨日に泣いた俺は、時間と共にその涙を止め”る”。


俺なんかに、生きている価値は無いのだ。



ふと目に映った、開いている窓の外に向かって手を伸ばす。

薄紫色の空に、俺の手は溶けて消えていく。


なんの感触も無い。あの冷たくて尖っている”気配”に指先が触れる事は、きっともう無いのだろう。

ーーー***。お前は最期まで馬鹿なやつだったよ。


まだ、会えるかもしれない。まだ、間に合うのかもしれない。

そう期待していた昨日は、すでに”今日”へとすり替わっていた。


頭痛や時間と共に、俺の記憶も精神も、鉛のように重々しく溶け始めているらしい。


もう、”あの日”は霞んで見えてきていた。

だから、俺は”カミサマ”に消された全てをこうやって。周期的に思い出さなくてはいけない。

また、みんなに会いたい。話したい。

そんな希望も、昨日に消え”る”。


なんで俺が残ったのか。

だって、俺よりも兄さんの方が。

だって、俺よりも妹の方が。

優秀であったというのに。なんで俺なんかが。


力が抜けた指の間から漏れ出す、月の光も、鈍く部屋に溶けていく。

こんなにも空は透き通っているのに、俺の周りは靄がかかったかのように不透明だ。


ああ、もしかしたらもう、この不透明な景色を取り払わなければいけないんだ。忘れなければいけないんだ。

仲良くしてたことも、喧嘩してたことも。

それその存在自体を。

忘れなければいけないんだ。


所詮は、空白の埋まらない日々だったということなのだ。


でも。忘れたいと今更思ったって、もう意味も無いのだろう。

俺は、”何十年”もこの船の上で、同じ夢を見ている。



こんなに歳をとっても、俺は彼女らの事を忘れたりはしなかった。

馬鹿らしいなとは思ったが、俺の口元は自然と綻んでいたのだった。

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