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97話 機械化

 何かが壊れるような音がした。

 実際はアカムの叫び声だけが響き渡ったのだが、大広間にいたアイシスとマキナは何かが壊れたような音を確かに聞いた。

 それは幻聴だったのかもしれないが、何かが壊れたのは間違いないと感じられた。

 アカムはと言えば、叫んだ後糸が切れたように沈黙しているからアカムの命の火が消えた音だろうかともマキナは思ったが、それもなんとなく違うだろうと思えた。


「……!? これはまさか……正気ですか!? ……いえ、無意識でやってしまったのですね……マスター」

『一体何を言って……!?』


 何がどうなったのか、何が壊れたのか。

 アイシスはその現象の片鱗を以前に感じたことがあるために、なんとなくどういうことなのか理解していた。

 それを見てマキナがどういうことかと問いかけようとしたところで突如、暴虐の如くあふれ出す異常な量の魔力が生じ、そのあまりにも膨大な魔力量によって生じた衝撃に大きく吹き飛ばされ、反対側の壁際まで追い詰められた。


『この魔力量!? まさか源泉の弁を壊したのか!? それは人に耐えられるようなものではないのだぞ!』


 あまりにも膨大な魔力が溢れ、アカムがいた場所は青白い閃光が満たしその姿を伺うことはできない。

 その異常な魔力量に一体何が起こったのかマキナもようやく理解して、どこか慌てた様子で叫ぶ。


「っ! ……普通ならそうでしょうね」

『あの男、アカムなら耐えられるとでもいうつもりか、精霊アイシスよ。どんなに優れていようとも、制限を外した源泉が生み出す魔力量を人という存在が扱いきれるものではないぞ』


 先ほどまで悲痛な表情をしていたアイシスが何かに気付き、呆れた様子で呟く。

 その言葉に今まで魔力の源泉を宿して無事だったのは制限があったからこそだとマキナは告げるがアイシスは全く動じない。

 おそらくそれは正しいのだろうと思うが、それはやはり『普通』ならばのことだ。


「そんなこと言われずとも。ですが、普通でないのはマスターではありませんからね」

『戯言を……な!?』


 アイシスのマスターであるアカムはなかなかに常識外れなことをしてくれるが、それでも普通の人間だ。

 だが一方でアカムの持つ魔力はアカムの意識とは関係なく、アカムの障害を排するように自動で最適化を行う極めて異常な魔力だ。

 そんな異常な魔力をアカムは際限なく生み出していたのが、魔力の源泉によるものだとするならば、つまりその魔力の源泉が生み出す魔力というのは普通の物ではない。


 それを知っていて、その魔力から生まれた存在であるアイシスにはハッキリと認識できた。

 あふれ出す魔力が単なる魔力ではなく今まで散々呆れさせられた、異常な性質を持つ魔力であることをハッキリと認識していた。

 だから、溢れだした膨大な量の魔力が収束し始めたのを見てアイシスは驚かない。

 マキナはその魔力の動きに驚愕しているようだったが、アイシスは全く動じずどこか呆れ果てた様子を見せる。


 収束する先は当然の如くアカムの肉体だった。

 だが、アイシスが魔力炉と呼ぶ魔力を留めておく器へと納められたわけではない。

 文字通りその膨大な魔力はアカムの生身の肉体(・・・・・)へと収束し、流れ込んでいた。

 その光景をアイシスは見たことがある。

 ゴドラによって溶かされた大鉈を構成していた黒鋼ブラックメタルが、今の片手半剣バスタードソードへと変わるときにも魔力が流れ込んでいた。


 そうして溶けた黒鋼ブラックメタル片手半剣バスタードソードへと変化したわけだが、その際に変じたのは形だけではなく、その構成も機械因子オートファクターを構成するものと同じ、金剛鉄アダマンタイトへと変質させたのだ。

 一応大まかに分ければ金属という同じ分類ではあるが、全く別のモノへと変質させたその力は、場合によっては人の、生身の肉体すらをも同じく金剛鉄アダマンタイトへと変質させることもできる可能性があるということ。


 そしてそれは実際に可能だったらしい。


 膨大な魔力が流れ込んだアカムの生身の肉体は端のほうから徐々に金属の身体へと変換されていく。

 一部だけということはなく、残っていた生身の部分全てが金属の身体へと変化してまるで黒い全身鎧を着た騎士のような姿へとなった。

 ただ、頭部だけは鎧ではなく、人の顔がそのまま金属になったかのような造形であった。


『これは私と同じ、全身機械の身体になったのか!? だが、動きはない……やはり魔力量に耐えられなかったか』

「いいえ。まだ終わってないだけです」

『終わってない? まだ何か変化しているということか……面白い。ならばどう変化するのか見届けさせてもらおう』

「後悔しますよ? 変化が終われば今度こそマスターが勝ちます」

『ふん。やって見なければ分らんな。……どのみち後悔することはないがな』


 そうして姿を大きく変えてもなお、アカムは動かない。

 そのことにどこか失望した様子を見せるがそれは間違いだとアイシスが指摘する。

 アイシスには機械因子オートファクターを通して、未だにアカムの内部が変質し続けていることが分かっていた。


 元々補完によって丈夫になっていた骨はさらに強固に。

 筋肉は分解され代わりに筋肉を模した、伸縮自在の機構が組まれた。

 内臓は全て無くなり、腹の中心には実体を持った魔力炉が生成され魔力を全身へと安定して供給する。

 さらには脳でさえも分解され、魔石を一回り大きくしたような核が心臓の位置に出来上がった。


 そこまで変化してようやく変化は終わり、頭部は機械因子オートファクターにも備わっていた擬態機能によって元のアカムの顔が形成されていった。


「アァ!」

「おはようございます。マスター、約三分間の睡眠……よく……眠れましたか?」

「あ? これは一体どういう?」


 不意にアカムの目が開かれると同時に軽く叫びながら勢いよく立ち上がり、絶対に死ねないのだという決意を目に宿らして周囲を睨む。

 そしてどういうわけかマキナは戦闘態勢を取っておらず、視界に移ったアイシスへと顔を向ければ涙を流しながらも既視感を感じる言葉を告げてきて、わけもわからずアカムは困惑する。


『素晴らしい! よもやただの人から機械だけで構成された存在へと変貌するとはな!』

「は? 何言って……は!?」


 そして面白そうな様子でそんなことを言うマキナに、戸惑いつつアカムは自身の身体へと視線を向け、大きく変質したその身体を見て驚愕する。

 おおよそ生物的でない金属の身体。

 まるで金属鎧を着ているかのようにも見えるソレは確かに自分の身体そのものなのだと感覚が告げている。


「え、っとあれか? 全身機械化したってことか?」

「その通りです。そうでもしなければマスターはあのまま死んでいたので機械因子オートファクターに搭載された最後の手段を使わせていただきました」

「そう……か……もう、完全に人間とは言えないな」

「申し訳ありません」


 その変化に戸惑うアカムに、すでに涙を止めたアイシスが何か覚悟を決めた様子で説明をする。

 その言葉に一応落ち着きを取り戻し少し沈んだ様子を見せるアカムに、アイシスは頭を下げる。


「まあ、なっちまったもんは仕方ないな。でも自分がそうしたなんて、そんな嘘はいうもんじゃねえぞアイシス」

「え?」

「もし完全に機械化する手段があるっていうなら翼を手に入れた時、お前なら伝えていたはずだ。伝えたうえで俺に選ばせただろう。だが、あの時お前は完全に否定していたからな」

「あ……」


 苦笑しながらアイシスがそうしたのではないことは気づいていると告げたアカムにアイシスは呆気にとられてしまった。

 その様子にアカムはさらに笑う。


「さすがにあんな顔見せられたら気づくさ。まあ、だったらなんで完全に機械化してんのかは分からんけど、おかげで生きてイルミアの元へ帰れるわけだし問題はない」

『ほう、聞き捨てならんな? 生きて帰るということは私を倒すということ。たかだか全身を機械化したところで私に勝てると思われるのは心外だ』

「別に舐めちゃあいないさ。ただ、俺は絶対に生きて帰らなければならん。だから俺はお前に絶対に勝つ!」


 アカムはマキナへと剣先を向け、そう宣言する。

 それを受けたマキナも闘志を表に出して構えた。


『実に面白い! ならばその覚悟とやら見せてもらおうか!』

「今度は負けねえ!」


 そして二人は同時に動き出した。

 両者ともに目にも留まらぬ速さで迫り、剣を振る。

 振るった剣がぶつかって相当な衝撃が両者へと伝わるが、アカムもマキナもその衝撃に堪えた様子はない。

 少し前の戦いを繰り返すかのように何度も剣戟を繰り返し、何度も相対する。

 どうにも完全に機械化しても何かしら力が上がったという事は無いようだったが、それでも生身の肉体を持っているときは耐えられなかったその剣戟に、いくらでも耐えられるようになっていた。

 それを確認したアカムは笑みを浮かべ、剣を振るうのだった。


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