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95話 制御代行

 マキナの姿が消えた。

 いや、消えたかと見まがうほどの速度で移動したのだ。

 そして、それを認識するよりも先にアカムの身体は動き、片手半剣バスタードソードを自身の右側へと動かした。


「ぐあっ!?」


 それが幸いして右に現れたマキナの剣に斬られることは防いだ。

 だが、それだけであり大して踏ん張ることもできずに剣を受け止めた片手半剣バスタードソードごとアカムは大きく吹き飛ばされ壁へと衝突する。

 それこそ機械因子オートファクターによる補完が無ければミンチになっていたほどの衝撃を感じて呻き声をあげるが、ダメージを負ったその様子とは裏腹に各部の推進装置が全力稼動してその場から離脱する。

 すると、一瞬前までアカムがいた壁にマキナが姿を現し、両腕の剣が壁を、先ほどまでアカムの頭と胸のあった位置を貫いていた。


『ふははは! 素晴らしい! 本気になった私の速度に対応できるとはな! ……いや、その反応を見るに対応していたのはそちらの精霊、たしかアイシスといったか。お前だな?』

「ハァ……ハァ……」

「……機械因子オートファクターの捕捉能力を甘く見ないことです」


 結果は吹き飛ばされたが、それでも最初の一撃を防ぎ、壁に叩きつけられても即座に離脱したことをマキナは褒めるが、言われたアカムは未だ壁に打ち付けられた痛みに耐えていて少しの余裕も感じられない。

 それを見て対応していたのはなんとなくアカムではないと悟り、であれば共にいたもう一方が対応していたのだとマキナは当たりをつけてきた。その様子にどうやら確信しているらしいと隠すことはせずにアイシスが応えた。


『マスター。ぎりぎりで何とか対応しましたが、残念なことに私には剣士としての技量が無くこのままでは……』

『つつ……いや、おかげで助かった。なんとかもうしばらく、どんな無茶な動きをしてもいいからもう少し耐えてくれ。その間に何とかマキナの動きを捉えれるようになる』

『……分かりました。ご武運を』


 その裏では念話を使ってアカムとアイシスは会話をしていた。

 そしてその会話でしばらくはアイシスが制御してなんとか耐えること、アカムはその間にどうにかマキナを捉えられるようにするという作戦とも言えない作戦が立てられた。


 本来なら少し前まで捉えられなかった姿を捉えられるようになるなど生半可なことではできない。

 ましてやマキナの動きを捉えるというのは目が慣れるとか言ったレベルの話ではないのだ。

 なにせ完全に見えないほどにマキナは早いのだから。


 だが、アカムには前例がある。

 両足を機械因子オートファクターにしたとき、翼を手に入れた時。

 その際もアカムの認識能力を超えた速度に即座に対応して見せたのだ。

 もっとも実際に対応したのはアカムというよりは、アカムに宿った異常な性質を持つ魔力であるが。


 だからこそ対応は可能だとアイシスも思えた。

 しかし、強化されている現時点でアカムの感覚やら認識能力はかなり高いものになっているのだ。

 さしもの異常な魔力もここまで高い能力をさらに強化するにはそれなりに時間を要するのではないか。

 そしてその可能性はかなり高いとアイシスは考えている。

 だが、それでも対応できないとまではアイシスも思っていない。


 ならば、アカムが対応できるまで時間を稼ぐまでだとアイシスは心に決めて行動に移す。

 先ほどまで制御して動かしていたとはいえかなり限定的なものだった。

 少し腕を動かし、ただ推進装置を起動させたりとそれだけのものだ。

 だから、まずアイシスは機械因子オートファクターの全システムを掌握し、制御化においた。


 この時点で手足からは一切の感覚がアカムには感じられなくなった。

 完全に自分の意思ではなく他の意思によって手足が勝手に動く、そんな状態になってアカムは少しも動じない。

 ただ、集中してマキナを見据えていた。

 これまでだって何度かアイシスが自発的に機械因子オートファクターを制御することはあった。

 完全に全ての動作を制御されるのはこれが初めてだが今更その程度で不安を感じるほど、軟な信頼関係でもない。


 そうして集中しているとマキナの姿が再び消える。

 その瞬間視界が酷くぶれたかと思えば強烈な反動をその身に感じつつもどうやら後ろへと下がっているようだった。

 と、次の瞬間には逆に前方へと急加速する。

 そういった急な動きをしたことはあるが、どうにも自分の意思でやるのとは違ってなかなかその動きによる負荷はきついものがあった。


 だが、その動きはアイシスが必死にマキナの攻撃を避けてくれているということであり、そう動かなければ回避できないということ。

 そしてその動きは少なからずマキナの動きも捉えるヒントになる。

 だからこそアカムは動く方向が変わる瞬間に特に注意して目を凝らし、マキナを捉えようとしていた。


 ふと視界の隅に動くものが見える。

 それはマキナではなくアカム自身の、今はアイシスが動かしている右腕だった。

 何やら横へと伸ばし、手首の部分を高速で回転させ始めている。

 その右手には片手半剣バスタードソードが握られているから、大鉈を使っていた時に何度か使った攻撃をするらしい。


『先に言っておきますがこういう方法もあるというだけで、マスターの技量も大変素晴らしいものですからね』


 突如頭に直接響く声に何のことかと思うが、高速で回転するその片手半剣バスタードソードの剣先から魔力の刃が連続して発生し円周上に飛ばされていることに気付く。

 その刃の鋭さも早さもかなりのもので、それを見てアカムは先ほどのアイシスの言葉を思い出し納得する。

 また卑屈にならないかと思っての事だったのだろうと。


 確かにそれならば技量なんて関係ない。

 それでいて強力な斬撃を飛ばし続けられるのだからただ振るよりも便利かもしれない。

 それを見せることでまた卑屈にならないかとアイシスに心配されている。

 理解してアカムは少し笑ってしまう。


 似たような理由で卑屈になって、そのたびにアイシスに励まされてきて、おかげで今では完全に吹っ切れているのにまだ心配されているのだから情けない。

 だが、その心配は無用だった。

 その攻撃を見てむしろ面白いと、その手があったかと素直に感心していた。

 もう卑屈になる段階はとうに過ぎていた。


 だからそう心配するなと、アイシスに伝えようとしたその時。

 ふっと世界が変わった気がして呆然とし、視界に黒い影をハッキリと捉えて思わず獰猛な笑みを浮かべる。

 それはマキナだった。

 右に回り込もうとしたところを連続で発生する魔力の刃による壁に阻まれてやむなく方向転換するマキナの姿だった。


 アイシスの行動は攻撃するための物ではなく、相手の動きを制限するためのものだったのだ。

 それは自身にマキナの姿を少しでも捉えやすくするためにやったのだとアカムは直感する。

 そして、ふと手足の感覚が戻った。


 そのことに動じることは無い。

 ただ、高速回転する手首を止めると同時に、マキナへと向かい全力で接近する。

 そして上段から鋭く剣を振りおろせば、どこか驚いているように感じるマキナへと襲い掛かる。

 だが、驚いていても隙を作ることはなかったマキナに右の剣でそれを斜めに受けとめられ、振るった剣は刃の上を滑って受け流された。


 そして両者は勢いそのまますれ違う。

 アカムはすぐさま反転しながら横に一閃して再度マキナへと迫った。

 マキナも反転して迫ってきていた魔力の刃は両腕の剣で斬り落としてそのままアカムへと突っ込む。


 完全に姿を捉えることができている。

 捉えても尚、驚くほどにマキナの動きは速く映るがそれでも反応できないほどじゃない。

 接近し、今度はマキナから振り下ろされた右の剣を横から内へと抑えるように片手半剣バスタードソードを這わして軌道を変えるとすぐに切り返し、一瞬の時間差で振られた左の剣を弾き再びすれ違う。


 再度転進して、再びの接敵。

 マキナは回転しながら迫ってきていて接敵の瞬間に両腕の剣を同じ方向から同時に叩き込んできた。

 元々尋常じゃない力の持ち主であり、そこに移動速度と遠心力の加わったその攻撃に、アカムは全力で推進装置を起動してそれを防ごうと縦に構え、さらに刃が接触するその瞬間に両腕のパイルバンカーを同時に起動する。

 パイルバンカーと言っても杭を撃ち出すのではなく、それを拳の内側にあてた衝撃を用いた攻撃だ。

 固く握られた拳からその衝撃は剣へと伝わり、機械因子オートファクターの力に、推進力と組み合わさったことでマキナの攻撃を完全に受け止めることに成功する。


『素晴らしい!』

「るせぇ!」


 しばしそのまませめぎ合い、両者同時に一旦離れてから、再び超高速のなかで剣を交え合う。

 ただ、剣をぶつけるだけでなく時には退いたりして虚を突きながらも何度も何度も二人は衝突する。


 そうして何度も何度も剣を交わす。

 何度も衝突し、百もの剣戟を経て尚、両者はぶつかり合う。

 そして再び両者が接敵し再び剣がぶつかり合うかと思えたその時。

 突然、アカムは身体の芯に筆舌し難い痛みを感じ、ほんの一瞬だけ気が逸れる。


 だがその一瞬こそが致命的で、振るわれたマキナの剣に対応が遅れてしまい、結果――


『実に……見事だったぞ、アカム』

「ぅ……ぐぅ……」

「マスター!?」


 ――胸元と脇腹を深く斬り裂かれ、その直前の勢いのままアカムは地面を転がりそのまま立ちあがることができぬまま呻き声をあげた。


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