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94話 本気

 戦いはマキナの言うところの第三幕に入ったが大広間の中心でそれなりの距離を置いた二人は睨みあったまま両者共に動かない。

 アカムは片手半剣バスタードソードを右脇に構えた前傾姿勢。

 一方のマキナは両腕を下ろした状態で軽く左右に広げまるでかかってこいとでもいうかのような構えで、姿勢もどちらかといえば後ろ側に重心を置いた直立姿勢だ。


 その姿勢からアカムから攻めようとしているに思えるが、アカムの構えは後ろに勢いをつけて下がりながら切り上げるための待ちの構えであり、マキナがどんな風に動いても対応できるようにその一挙手一投足に気を配っている。

 対するマキナはかかってこいと挑発するかのような構えではあるが、こちらは反対に攻めるための構えであり、どのタイミングで動くか、真っ直ぐ接近するか回り込むか、どう攻撃するかを見極めつつも機をうかがっている。


 そうして睨みあっている時間はそれなりに長く、傍から見ればただただ睨みあっているだけに見えるものだったが、実際は両者共に剣を小さく一瞬だけ動かしたり、重心を少しだけ変えたりして相手を牽制していた。

 その動きはともすれば無意識に体を動かして負荷を分散させているだけにも見えるが、マキナは言うまでもなく、アカムもその身体の大半は既に機械の物になっていて残る生身も補完によってやたらと頑強になっている。

 おまけにアカムは剣士としてもかなり高い技量を持っているのだから静止しようと思えばいくらでも静止し続けられる。

 だからこそ細かい動きは全て相手を揺さぶるための意識的な動作なのである。


 そうしたにらみ合いが続き、しばらくしてようやく動き出したのはやはり攻める構えを取っていたマキナだった。

 脚は動かさずに地面を滑るようにして一瞬でアカムへと迫り、右の剣を振るう。

 守りの構えを取っていたアカムはもちろんそれに反応し、左足を後ろへ下げながら体全体を捻るようにして胴体へ向けて斬り上げる。

 捻る動作と機械因子オートファクターの力が合わさったその一撃は相当な速さであったが、その剣はマキナの胴には届かず、代わりに迫っていた右の剣と衝突した。


「チッ」


 それを見てアカムは舌打ちを打つ。

 別に剣を打ち合うつもりはなく完全に胴体を斬るつもりだったのだが、かすりもしなかったのだから。


 剣が届かなかったのは距離感を狂わされたから。

 マキナは足を動かさずに地面を滑る移動中に細かく速度を抑えたり逆に速くしたりして錯覚させていたのだ。

 また、そもそもがその移動法自体、身体が上下することなくただだんだんと大きくなっていくように見えるために相手からすれば距離感を測り辛い移動法なのである。


 もちろんこれまでだってマキナは同じような移動をしていたが、相対しているアカムも相手に向かうことが多かったので大した影響はなかった。

 だが、今回は止まった状態で迎え撃つ形であったためにその移動法による距離感の錯覚はより強い物となり見誤ったのだ。


 だがそれでも、アカムが振るったその剣は迷いなく振るわれた。

 狙ったところに剣を振るってもそれが避けられるなどして当たらないなどあって当然のこと。

 だから攻撃するならば一撃に賭けるのではなく次に繋げることは常に考えるべきことであり、そのためには躱されても動揺せずに迷いなく剣を振るべきだ。

 迷いなく振られた剣筋の鋭さは、避けられたとしても相手にプレッシャーを与えることができ、それこそが次の攻撃へと繋がるのだから。


 アカムは長く戦ってきた経験から無意識の領域にそのことを刻まれていた。

 だからこそ、舌打ちを打って不満を表に出しながらも迷いなく振られたその剣は予定外であるマキナとの右の剣との衝突に耐え、どころか弾き返した。


 だが、マキナとてその剣を扱う実力は相当なものだ。

 弾かれたからといって動揺することも無い。

 そもそもが最初から右の剣の一撃はアカムを避けるにしろ反撃するにしろ、とにかくアカムを動かすためのものだった。

 実際アカムは思惑通りに、それも距離感を見誤った状態で動いてくれた。


 それでもその剣筋に一切の迷いがなかったというのはマキナから見ても見事と言うほかない一撃で振るっていた右の剣はあっさり弾かれ、体勢も少し崩されてしまった。

 だが、マキナは右の剣にアカムの剣が衝突する一瞬前に、左の剣を振りおろしていた。

 多少の体勢の崩れに影響されるほど不便な身体ではなく、剣の技術も高いマキナが振るったその剣は何事も無ければアカムを斬り裂いていただろう。


 そして、その何事かが起きたためにマキナはあと少しでアカムへと届くその剣を止め、弾かれるように横へと逃げた。

 直後、先ほどまでマキナの胴があった場所を斜めに斬り上げるかのような斬撃が通り過ぎ、大広間の床や天井、果てはそれなり離れた位置の壁までもが斬り裂かれた。


 それは魔力の刃による斬撃。

 アカムは最初に斬り上げた際に片手半剣バスタードソードに魔力を流していた。

 それにより生成された魔力の刃は相当鋭く、剣の振りから一瞬遅れて撃ち出された速度はかなりのものだ。

 アカムの技量と機械因子オートファクターの生み出す力、そして魔力の刃を生み出す片手半剣バスタードソードが組み合わさればただの一振りが凶悪な二連撃になっていたのである。


『中々凶悪じゃないか。ほんの一瞬の時間差ではあるがなかなかにやり辛い。なまじ一瞬の時をそれなりに長く認識し動けるから余計にな』

「それは教えてよかったのかっ!」


 魔力の刃による斬撃を躱したマキナは感心した様子で褒めてくる。

 わざわざそれを伝えてくることに言葉を返しつつもアカムは少し離れたマキナへ向かって剣を振り、魔力の刃による追い打ちをかける。


『別に問題はないな。確かに厄介ではあるが、こうしてある程度離れていたら二連撃とは言えないし、魔力の刃などは逆に避けやすい。なにせその直前に軌道を教えてくれるのだからな?』

「チッ」


 わざわざ紙一重でそれを回避して余裕を見せつつ、魔力の刃の欠点について指摘するマキナに舌打ちを打つ。

 魔力の刃必ず剣の軌道に合わせて生成される。

 剣先から魔力を放出しているのだからそれは絶対だ。

 だからこそ、マキナほどに認識能力や反応速度が高いものからすれば振るった剣の軌道は魔力の刃の軌道を明確に示してくれるものであり、避けるのは容易いことだった。


 アカムとて片手半剣バスタードソードを手に入れてから一ヶ月の間にその欠点に気付かなかったわけでもないが、いくら何でも仕様をどうこうすることはできなかった。

 その欠点をあっという間に見抜かれたというのはやはり面白くない。

 だが、舌打ちを打ち不満を表しつつもアカムは地を蹴り、推進装置を使ってマキナへと迫りながら剣を振るう。


 それも避けづらいように横一閃にだ。

 もっとも、剣を振るう位置が遠すぎて剣の刃自体はマキナへと届かないところを薙いだが、マキナはその動きを見て跳躍した。


『なに!?』

「隙ありだぜ」


 だが、先ほどまでいた場所を魔力の刃による斬撃が襲うことは無く、宙に跳んだマキナの正面にアカムも飛び上がっていた。

 そしてその勢いのままアカムは左下から斬り上げにかかった。

 その剣の軌道は確実にマキナの胴に届きうるものだったが、マキナは隙を突かれたというのに驚異的な反応速度を持ってアカムの推進装置にも似た機能をもってそれを下に躱した。

 だが、続けざまに放たれた魔力の刃が肩の部分を浅くではあるが斬り裂いた。


 アカムはそれを確かに見てニッと笑う。

 と、同時にマキナの雰囲気が一変し、その機械の身体の各部に赤く発光するラインが現れた。


「なんだ!?」

『クク……やはり面白い! 欠点を指摘してやれば即座にそれを利用しようとするその順応性の高さは本当に見事だ。ああ、これこそ……この戦いこそ私が望んでいたもの……だからこそ私もそろそろ本気を出そう。でなければこれだけ素晴らしい力を見せてくれたお前に失礼だろうからな』

「本気だと!?」


 マキナがそう告げる間にも赤い光をより強く輝き、そのラインはさらに伸びていた。

 おまけに今までが本気ではなかったと聞き、さすがのアカムも驚きの声をあげる。

 すでに力も技術も相当なものであると感じていたのに、それでも本気ではなかったというのだからそれも仕方のないことだろう。


 ハッタリだと思いたかったが、アカムはそう決めつけて油断するような性格ではなく、そもそもが先ほどまでと雰囲気を一変しているマキナのその言葉をハッタリだと思えるはずもない。


 驚きの声をあげたアカムだったが一度深呼吸して、静かに正眼に構える。

 本気になったマキナがどれほど強いのかは実際戦ってみなくては分からないが、絶対に対応してみせようと集中し、精神を研ぎ澄ましていた。


 そして次の瞬間。

 マキナの姿が消えた。


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