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91話 傷

 合図も無く、両者は同時に動いた。

 アカムは踏み出すと同時に背中と脚にある推進装置を使って一気に距離を詰める。

 それも、機械因子オートファクターにまで効果を及ぼすようになった身体強化をかけた状態でだ。

 迷宮の主、マキナも一気に距離を詰める。

 ただし、こちらは地面を蹴って踏み出すわけではなく、地面をまるで滑るかのようにしてである。


 両者の速度は同等で、その速度は常識外れのもの。それが向かい合って迫るのだから相対速度はさらに常軌を逸している。

 だが、アカムは自身が持つ異常な魔力が齎す感覚強化によって捉えており、マキナも元々迷宮の主であり、それが変質してさらに力をつけた存在であるために捉えられないはずもなく、両者は常軌を逸した速度の中で確かに互いを認識し、接触の瞬間にタイミングを合わせて剣を振る。

 アカムは右手に持った片手半剣バスタードソードを縦に、マキナは左の剣でそれを受け止めるように切り上げ、右の剣でアカムの腹を薙ぐように横に振るった。


「くぅっ!?」

『ほう』


 そうしてアカムの攻撃はマキナが狙ったとおりに受け止められ、尚且つ右の剣がアカムの腹へと迫っていたのを何とか翼の大剣を間に入れて防ぐ。

 だが、マキナが地面を滑るようにして移動していたためにしっかりと地に足がついていたのに対し、アカムは跳躍による宙にいたからか一瞬で剣と剣がぶつかり合った衝撃で動きは止まり、次の瞬間には大きく後ろへと弾き飛ばされた。


「ちっ……力が互角なら踏ん張れない宙の方が不利か」

「それだけじゃなく相手に右の攻撃を無理やり防いだからでしょうね」

「どうにもな……相手の両腕が剣だからこちらもと思ったが、慣れないことはするべきじゃないってことか」

「そもそも大剣は二刀流に向きません」


 弾き飛ばされたとはいえダメージは無くすぐさま体勢を整える。

 どうやらこちらがあまりにも簡単に弾き飛ばされたからかマキナも警戒して追ってこない。

 それからアイシスの言葉を聞いて先ほどのマキナとの接触を軽く振り返り左腕の大剣がただ腕についているだけだったことを自覚する。

 さらに続けられた言葉に少し苦笑しつつアカムは安直な発想を反省すると共に大剣の切っ先をマキナへと向けるようにして左腕を真っ直ぐ伸ばす。


『む?』

「発射」


 その動作に何をするのかと身構えたマキナを見ながらアカムがそう言えば、大剣は左腕から分離して推進装置を起動し、矢のような速度でマキナへと迫った。


『っと! まさか大剣が飛ぶとは驚きだがこの程度ではな』


 しかし、ただ真っ直ぐ飛んでくる大剣など大した脅威ではなくマキナはあっさりと横に回避しようとする。


『なっ!?』


 だが、その大剣は形態を変えているだけで本質は翼である。

 マキナがそれを避ける動作をして大剣が横を通り抜ける瞬間、大剣は元の翼の形態へとなりその翼がマキナの首元へと直撃した。

 とはいえ、マキナの身体は全身が金属でできており、その強度は生半可なものではない。

 驚かせることこそできてもマキナにダメージを与えることはできずに、ガキンと音を立てある程度の衝撃を与えただけの翼はそのままあらぬ方向へと飛んでいった。


『やはりこの程度――っ!?』


 だからマキナもそれを受けてもすぐに落ち着きを取り戻したのだが、衝撃で少し崩れた姿勢を戻したところでマキナは驚愕する。

 いつのまにやら目の前にはアカムがおり、すでにその手にもつ片手半剣バスタードソードが振り下ろされ始めていたからだ。

 アカムが大剣を飛ばしたのはそれでダメージを与えるためではなく囮としてだったのだ。


 そして、先ほどの大剣を受けて傷一つ受けていないことからその体自体の防御力はかなりのものであるはずなのに、マキナはその攻撃に対しなにやら慌てた様子で両腕の剣を交差するように構えてそれを防いだ。

 今度は完全に攻守が分かれていて、さらにマキナが体勢を崩していたからか一気に押し込み弾き飛ばしマキナは何度か地面に叩きつけられるように転がっていった。


「ちっ」


 だがアカムはそうして弾き飛ばしたというのに舌打ちを打つと、少し集中して片手半剣バスタードソードを両手に持って構え剣に魔力を込めながら鋭く振るう。

 それにより正面から見れば一本の糸にしか見えない極薄の魔力の刃が形作られ、離れているマキナを斬り裂かんとする。


『なめるなよっ!』


 魔力の刃による斬撃はまるで刀身がそれだけ伸びたかのごとくほとんど時差なくマキナへと襲い掛かったが、それは地面を肘で叩いて体勢を立て直したマキナが数十もの剣閃を描くほど高速で両腕の剣を振り斬り払われた。

 だが、それでもマキナはその攻撃も防いだ(・・・)

 翼の大剣が直撃してもダメージを受けていなかったマキナが直接の斬撃と魔力の刃による斬撃、それぞれをわざわざ防御したのだ。

 相手に傷を負わせられなかったことは不満であったが少なくとも攻撃が完全に通じないことはないらしいことを確認してアカムは少し笑みを浮かべ、ついでに弾かれた翼も戻して背に装着する。


 しかしその笑みもすぐに消えることになる。


『本当に素晴らしい。魔力の源泉もそうだがお前の技術。そしてその機械化した体の性能。なかなかどうして楽しくなってきたじゃないか。では、こんなのはどうだ? 太陽樹システム起動!』

「っ! 敵、マキナから高エネルギー反応を確認! 恐らくはそれを撃ち出してくるかと」

「あの見てくれで接近戦専門じゃないのかっ!」


 マキナの両腕の剣が真ん中から割れると間に高密度のエネルギーが溜まっていくのをアイシスが観測しそれを告げる。

 ここで魔力と言わずエネルギーと言ったのは、本当にそうとしか表現できなかったからだ。

 それはすなわち、それが魔力によるものではないことを示しており、魔力に対して高い親和性を誇るアカムの魔力を用いた魔力障壁であってもその攻撃を取り込めないということである。

 そして、それは例によって魔力障壁の強度を貫く威力を秘めているだろうことをアイシスは悟っており、アカムも肌に感じるそのエネルギーから防ぐことはできないと直感する。


「避けるしかないか……となると」

「エアマスク装着、風圧防護壁エアカーテン展開」

『今度は何を見せてくれるのか楽しみだ……発射』


 避けるしかない。

 そう結論付けてアカムが呟き、アイシスがそれを最後まで聞くことなく意図を組んで高速飛行モードへと移行させる。

 マキナはその光景に愉快気に言葉を発し、ついにそのエネルギーを解放した。


『っ!! この距離でこの熱かっ!』

「しかし……あまりのも避けるのが簡単すぎる……あれは!?」


 放たれたソレの直径はアカムより少し小さい程度の光線となって迫ってきたが、高速飛行モードに入っていたアカムはそれを難なく躱した。

 だが、それでもその光線から感じる熱量は尋常なものではなく避けたというのにその顔に余裕はなかった。

 アイシスもあれだけの存在が放った攻撃にしては酷く単調で回避も容易であることに疑問を抱く。

 そして疑問を抱いて未だ残っている(・・・・・・・)光線を見てギョッとする。

 それと同時にアカムは本能的に何かを感じ取り、その光線から離れるように動く。


『開花』

『っ! こんなのありかよ!』


 アカムが動いたのとほぼ同時にマキナが短い言葉を告げると光線を軸に無数の新たな光線が発生する。

 さらにその光線から別の方向へと光線が放たれ樹の枝のように急速に光線が伸びていきアカムへと迫った。

 だが、アカムは直前に最初の光線から離れるように動いていたために周囲にばら撒かれるその光線と光線の間にはそれなりに空間が空いていてその間をジグザグにすり抜けるように動いてその光線を躱していく。

 ただただ全速力で飛行し、時には神竜デウスドラゴンと戦った時のように急停止し、まるで壁に当たって跳ね返るかのような方向転換も用いてその全てを回避した。


『……ようやく終わったか』


 時間にすればわずか一分の間のことだったが、その一分間でアカムが躱した光線の枝の数は数百に及んだ。


「まさか機械因子オートファクターに傷を入れられるとは……」

『傷が? 大丈夫なのかそれは』

「それは大丈夫です。 傷、といっても人で言えば皮膚一枚失った程度のものですから」


 しかし完全に回避しきれたわけではなく、光線にほんのわずかに肩の部分の機械因子オートファクターに掠り、光線に触れた部分が消滅していた。

 消滅したと言っても本当に表面が少しだけ削れただけで何の問題もないのだが、神竜デウスドラゴンのブレスにも耐えた機械因子オートファクターが削られたというのは驚愕すべき事態である。


『確かにそれなら問題はないだろうが……いざという時に手足で防ぐこともできないとはなかなか厳しいな』


 少し苦い表情で、すでに二発目を発射しようとしているマキナを見据えてアカムはそう呟いた。


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