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84話 魔力の刃

 神竜デウスドラゴンであるゴドラの首が落ち大量の血が地面を赤く染める。

 しかしそれも束の間の事でゴドラが死んだことでその身体は徐々に消えていきやがては魔石がアカムの目の前に現れた。

 同時にこの場から転移するための石版も足元に現れる。


「終わったな」

「ええ、途中危ない所もありましたが結果だけ見れば完勝といったところでしょうか」

「まあ、これが無きゃ危なかった。用意してくれてありがとな」


 現れた魔石を拾い上げつつアカムがそう呟けば、アイシスも感慨深そうにそんなことを言う。

 そんなアイシスの評価を聞き、その勝利に大きく貢献した新たな武器である片手半剣バスタードソードを持ち上げながらこれを用意してくれたアイシスにアカムは礼を言った。

 実際にはアカムの有する異常な魔力がやったことでアイシスのやったことといえば魔力を送り込んだこととアカムが変に意識しないように言い訳を考えたことだけでむず痒いものがあったが、顔には出さず笑顔でその礼を受け取った。


 アイシスが評したようにアカムは結局ブレスを防ぎ、不意打ちであった人型になっての殴打も防御自体は成功していたため全くの無傷であるのだから完勝といってもいいものだろう。

 もっとも拳の一撃以外はどれも当たれば傷どころか機械因子オートファクターだけ残して蒸発するような攻撃だったのだから、その結果は勝った以上は当然のことであったが。


「にしてもこれでかつての理想を超えたってことになるのか? あまり実感は湧かないな」

「まあ、あれは苛立つマスターが見ていられなかったので、その苛立ちを吹っ切れさせるために言ったことですから」

「おい」


 それから戦闘中に言われた理想を超えるということについてアカムは取りあげるが、アイシスは悪気もなくそんなことを言って思わずアカムが突っ込む。


「別にあの時の言葉が嘘とはいいませんが、結局こういうのはマスターがどう考えるかですから」

「そうか……じゃあかつての理想は超えたってことでいいや」

「随分と軽いですね」

「これ以上うだうだ迷うのもかっこ悪いからな」


 続いたアイシスの言葉に少し考え込み、アカムは今回でかつての理想は超えたとすることにした。

 随分と軽い調子での宣言であったが、その宣言は確かに魔力を自由に扱えないというコンプレックスを吹っ切っていて、アイシスの突っ込みに返すアカムは清々しいほどの笑みを浮かべていた。


「さて、これからは剣の扱いもまた鍛えていかないとな。戦闘中は集中していて何も思わなかったが魔力も無しに斬撃が飛ぶなんて出来が良すぎたし」

「ん……ああ、いえ、魔力は使われていましたよ。もっともマスターが意図的にやったわけでもなくて剣のほうにそういう機能があるだけですが」


 それから片手半剣バスタードソードを見て改めて剣の腕をあげなければと意気込むアカムに、なぜか首を傾げすぐに何かに気付いたアイシスが注釈を入れてくる。

 戦闘中に斬撃が飛んでいたのは調子が良かっただけなのだとアカムは思っていたのだが、アイシスが言うにはどうやらそうでもないらしい。

 アカムは更なる説明を求めるようにアイシスを見つめる。


機械因子オートファクターの機能を用いて造られた剣がただの剣であるはずがありません。その剣には魔力を取り込み、その魔力を剣先から放出する特性があります」

「ほう」


 実際は、機械因子オートファクターは全く関与していないのだが余計なことは言う必要が無いため、その辺りは誤解させたまま説明をしていくアイシスの言葉に、アカムは真剣に聞き入っている。

 武器のことは直接戦闘に関わってくるために知らないでは済まされないことだからだ。


「まずその前に魔力ですが、純粋な魔力が一定空間に一定密度を超えて存在すると半物質化して非常に強固な壁となります……魔力障壁もこれを利用したものですね。必要な魔力が膨大であるかわりに純粋な魔力で構成された魔力障壁は、通常の防御魔法などとは比較にならないほどの強固さを誇るのはマスターもご存知かと」

「そりゃ、結構助けられてるしな」

「はい。それで、この場合重要なのは魔力が半物質化するには一定空間に一定密度を超えればいいということです。つまり必ずしも以前のマスターが魔力を枯渇させるほどの魔力が必要というわけではありません」

「えっと……範囲を狭めればそれだけ必要魔力は抑えられるってことか?」


 アイシスの説明も、すでに埋め込まれた知識が馴染んできているアカムにとって理解できない話ではない。

 だが、それでもそう言った理論をすぐに理解するのはなかなか厳しく、少し考えながらアカムが大雑把に纏めればアイシスもその程度の理解で満足したのか頷いてさらに説明を続ける。


「はい、簡単に言えばそういう事です。そして最初の話に戻りますがこの剣は魔力を取り込み、剣先から放出する機能があります。その機能はマスターの攻撃の意思によって起動され、その際に放出される魔力の範囲は極めて限定的であり、極小の半物質化した魔力、言わば魔力の刃が生じているのです」

「となると……斬撃が飛んでいたわけじゃなくてその魔力の刃が飛んで、その刃がブレスやらゴドラやらを斬ってたのか」

「そういうことですね」

「ってことは俺の技量は関係なかったのか……」

「いえ、そんなことはありません」


 説明を聞いて一応理解したアカムは、斬撃が飛んでたのは自身の力ではないのかと思い肩を落とす。

 だが、アイシスは即座にそれを否定した。


「確かに、斬撃が間合いより外に及ぶのはその機能のおかげですが、魔力の刃とは言ってもそれはあくまで魔力が半物質化しただけのもので、それそのものに何かを斬るという特性があるわけではありません」

「なるほど?」

「つまり――」


 アイシスはまず僅かな認識の違いを指摘する。

 それを聞いてアカムは先を促し、アイシスはなるべくわかりやすいように原理を説明していく。


 要するに剣で物を斬るのと同じである。

 折れ曲がった刃では肉ぐらいなら傷つけられても骨を断つことはできない。

 刃がいくら鋭いからといってその振る速度が遅ければ一定以上の強度のあるものは斬れない。

 斬るためにはちゃんとした刃のある剣をちゃんとした振り方で鋭く速く振らなければならないのだ。


 つまるところ半物質化した魔力とは剣の材料でしかない。

 そして片手半剣バスタードソードを振ることはその場で新たに剣を作るのと同義であり、どれだけ綺麗に振れるかで出来上がる刃の切れ味は変わってくる。

 そしてその刃の進む速度はどれだけ鋭く速く振れるかによって変わってくるのだ。

 その両方が備わって初めて魔力の刃と呼べるのである。


 だからこそ、大事なのは力ではなく技量であり、ブレスを斬ったのもゴドラを斬ったのもアカムの技量無しでは成し得なかったことである。

 そんなことをアイシスは説明していった。


「――というわけで、決してマスターの技量が無意味というわけではありません。むしろその技量こそが必要不可欠なのですよ」

「おう……よくわかった。十年間、ずっと剣を持って戦ってきたことは決して無駄じゃなかったんだな」

「ええ、機械因子オートファクターを手に入れた今も、その十年間は確かにマスターの力になっています」


 アイシスの説明を最後まで聞いたアカムは概ね理解し、機械因子オートファクターを手に入れる前の十年間の日々が無駄ではなかったのだと分かり嬉しくなり、アイシスもそれをそれに賛同するように力強い言葉をかけた。


 それにしてもアイシスの説明する声には途中からやたらと熱がこもり、やけに必死さを感じさせるものだったとアカムは思う。

 アカムはそのことがなんとなく気にかかり少し考え、以前にも似たようなことが有ったことを思い出す。

 

 それは二つ目の機械因子オートファクターを見つけた時のこと。

 機械因子オートファクターの力がすごいだけで、所詮自分はただ魔力があったから運が良かっただけなのだとアカムが卑屈になっていた時のことだ。

 あの時のアイシスは今の様に精霊ではなかったが、自我に目覚め始めていて同じように必死に励ましてくれていた。


 その時の状況によく似ていて、そこから自身がまた変に落ち込まないようにというアイシスの配慮であることをアカムは察することができた。

 その気遣いがやや恥ずかしく、それ以上に嬉しいと感じるものだ。

 

「ありがとな」

「……? ……あ」


 だからアカムは短く礼だけいった。

 突然の礼に首を傾げるアイシスだったのがすぐに何に対する礼に気付いたのか少し固まる。

 以前は照れ隠しか不機嫌になりほんの少し酷い目にあったので、今回も何かしらの反応があるかもしれないなとアカムはほんの少しだけ身構えたが、今回は以前とは違う展開になった。


「いえ、私はマスターの精霊で……家族ですから。当然のことです」

「……おう」


 アイシスはアカムの礼の意味に気付き、誤魔化すことなく満面の笑みを浮かべてそう言った。

 その笑みは思わず見とれてしまうほど柔らかいもので、少し呆然としたアカムだったがすぐに気を取り直してこちらも笑って、曖昧でどうとでも取れる短い言葉を口にするのだった。


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