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82話 技量

 ブレスの中に新しく造られた刃の長い剣……片手半剣バスタードソードを突き入れてその強度を確かめる。

 ともすれば折角の武器を失ってしまうかもしれない行動であるが、アカムは躊躇なくそれを行い、アイシスはそれを見ても少しも動じない。


 そしてブレスの中へ片手半剣バスタードソードが突き入れられた直後、アカムは目を見開いた。

 驚いたことにその刃に触れたブレスが真っ二つに割れて――いや、斬られて消え去ったのである。

 振ってもおらずただ、刃にブレスを当てただけ。

 それだけでブレスは斬られて無効化されたのである。

 そしてそれを成した片手半剣バスタードソードは刃こぼれもなく、溶けることも無くまるで何事も無かったかのように小奇麗なままでそこに存在していた。


『なるほど……相当な業物のようだ』

「……当然です。機械因子オートファクターの力があればこの程度の事は」


 その光景にアカムはやや興奮した様子で片手半剣バスタードソードを握る力を強め軽く振る。

 相槌を打ったアイシスの言葉にはどこかぎこちないものがあったが、興奮していたアカムはそれに気付かない。


 ただ触れただけで魔力障壁を貫くほどの威力を秘めたブレスを斬り、そればかりか消失させるとはアイシスにも予想外のことだった。

 消えたブレスはどこへと思って少し調べれば、どうやらアカムの魔力が敵の魔力を取り込むのと同じ原理で、斬って威力を分散させた魔力を取り込んでいるようだ。

 今のところ魔力障壁や魔力収束砲がゴドラのブレスを取り込める様子はないのだがどうやらこの剣はそれを可能としているらしい。

 そして取り込んだ魔力はある程度を刀身に保持して切れ味をあげ、過剰分はただの魔力として適当に放出しているようで魔力障壁の断片が一瞬だけ現れては消えているのが確認できた。


 アカムもそこまで詳しく理解しているわけではないが、少なくともブレスを斬って無効化できることは理解して、その顔に笑みを浮かべてゴドラへと視線を向ける。

 そして尚も降り注ぐブレスの雨を避けることなく剣を振るって斬った。

 ただ当てただけでなくしっかりと振った斬撃だからか、より離れた位置まで効果が及び自身に直撃しそうなブレスの全てを消し去ることに成功する。

 避けることなく正面から完全に防ぐことができてアカムは一層笑みを浮かべつつゴドラを睨んだ。

 

『斬られただと!?』

『これならいけるっ!』


 ゴドラはかなりの威力のあるブレスがあっさり斬られたことに驚いているようだ。

 それを感じて一層楽しくなってきたアカムはゴドラへと真っ直ぐ飛んでいく。

 使い始めたのはついさっきにもかかわらず妙に馴染むその感覚にアカムはその剣を使いこなせることを確信していた。

 そして、その確信通りにアカムの接近を防ごうと一層苛烈になったブレスの攻撃を斬りながら一気に接近する。


 正面から最短距離で突き進んだことでアカムはあっという間にゴドラの目前まで迫り、剣を大きく振るう。

 しかし、それはゴドラが人型になったことで躱されてしまい、さらにはカウンターで体勢が流れたところに拳が振るわれて、アカムはそれを防御することに成功するが大きく吹き飛ばされ距離が開くと、魔力が凝縮されたブレスを放たれた。

 それはまるで大鉈が溶かされた時と同じような光景だったが、結果は大きく異なるものになった。


『ッ!』

「お見事です」


 アカムは放たれたブレスに対し、片手半剣バスタードソードを鋭く、大振りにならないように連続で振った。

 それは流れるように滑り、相当な速さで振られているにも関わらずひどくゆったりとした印象を受ける。

 だが、実際には超高速で振るわれているその剣による斬撃は確実にブレスを斬り刻み、消失させていて完全に防ぎった。


『ふう……今まで質量武器を使ってたからか基本の基本を忘れてたな』

「大鉈はある程度力任せに振るうのが効果的でしたが、この剣はよく斬れますからね。重さよりもその切れ味を活かすべきということですか」

『そういうこった。小さく細かく鋭くってな』


 それから使い方を間違えていたことに気付き反省する。

 大鉈のように叩き切るように使うのではなく、鋭く振って斬らなければならないのだ。

 しかも今手にしているのは相当な切れ味のあるもので、その切れ味を活かすのは力ではなく技術だ。

 流れるように滑るように、そして鋭く振らなければならない。

 久々の斬るための剣を持ったアカムはそれを忘れていた。


 だからそれに気づいたアカムは思い出す。

 元々、機械因子オートファクターを手に入れる前まで使っていたのは長剣で、アカムはそれを力任せに振るっていたのではない。

 アカムは力よりも技を重視して戦っていた。

 息をするのも忘れそうになるほどに研ぎ澄まし、鋭く振るって斬っていたはずだった。


 そうして過去の経験を思い出すアカムは空中で動かず隙だらけの様に見えていた。

 だからこそゴドラは魔力をこれでもかと凝縮したブレスを放つ。

 それは先ほどの物よりも数段威力の高いものだ。


 だが、アカムは少しも動じない。

 正面にそのブレスを見据えて剣を上段に静かに構える。

 そして目前までブレスが迫った時、アカムは静かに振り下ろした。

 そこに力みも気迫も何もなく、ただ流れるようにその剣は振られたのだ。


 剣先が綺麗な弧を描き、その軌道をなぞって剣閃が半円を描く。

 振られた剣はいつのまにか振り切られ、それだけの速さで振られたはずなのに風切音は一切なく静かな、静かすぎる一振り。

 けれどその一振りによる斬撃の威力は絶大であった。


 この戦闘で一番の威力が込められたそのブレスは、まるで細い木の枝を斬るかのようにあっさりと二つに斬られて消え去った。

 そして数秒経ってからゴドラの顔に斜めに大きく赤い線が走る。


『っ!?』


 そしてそこから血が噴き出して、そこまで来て初めてゴドラはその異常を感じ取って驚いた様子を見せた。

 とはいえ、傷はかなり浅くて表面の皮膚が斬られた程度で、ゴドラもすぐにそれを理解するが、内心ではひどく驚き焦っていた。

 何せ遠く離れた位置から竜鱗を超えて斬られたのだから。

 もし、今の攻撃を近くで受ければその斬撃がどこまで届くのか分かったものではない。


 それだけの威力を引き出せたのはアカムの技量がそれだけ高い物であったのはもちろん、手にしている剣が冗談のように高い切れ味を誇るものだからだ。

 アカムの技量と、武器の性能が噛み合わさって絶大な効果を齎しているのである。


『よし……感覚は思い出してきたな』

「マスターは意外に巧いのですね」

『そりゃ、機械因子オートファクター手に入れる前は程ほどな身体強化しかできなかったんでな。技で戦うしかなかったんだ』


 機械因子オートファクターを手に入れたことでその技量を使うことは減っていたが、それでも完全に使わなかったわけではない。

 むしろ機械因子オートファクターの扱いや、その動きに短期間で慣れたのは元来持ち合わせていた技量のおかげともいえるだろう。


『さて、ようやく攻守交替となるか?』

『まさか、これほど離れた距離から我の竜鱗があっさり斬られるとはな……』


 精神を研ぎ澄ませつつ、そんなことをアカムが言えば、ゴドラが驚いたような調子で返してくる。

 だが怖気づいた様子はなく、むしろ戦意はより高まっているようである。

 そんなゴドラをアカムは好ましく思う。

 釣られるように戦意を向上させてアカムは一気にゴドラへと向かって動き出した。


 再びブレスを斬りながら真っ直ぐゴドラへと突き進み、接近し剣を振るった。

 もはやブレスは障害にならないため容易く接近を許してしまい、ゴドラは再び人型へと戻るがその際にアカムに攻撃を加えることはせず後方へと移動する。

 そうして後方へと下がった直後、先ほどまでゴドラがいた場所を剣閃が薙いだ。


 さすがに三回目も同じカウンターを受けるわけもなく、アカムは竜体時のゴドラへと剣を鋭く振るった後、素早く切り返したのだ。

 もしあのままゴドラがカウンターで拳を出していたら今頃その腕は斬り飛ばされていただろう。

 だが、ゴドラもまたアカムが対処してくることは予想していたために後方へと下がりその攻撃を凌いだのである。


『何も、ブレスだけが我の攻撃手段ではない!』


 竜体に戻ったゴドラがそう告げると共にゴドラの周囲に勢いよく燃え上がる炎や、球体の中で激しく渦巻く水の球など様々な属性の魔力の塊が現れ浮かぶ。

 そしてそれらが一斉にアカムへ向かって放たれて一つ一つがかなりの速さでアカムへと迫ってきた。


「ふざけた魔力制御能力ですね……おまけに一つ一つに込められた魔力は相当なもの。マスター、避けてくださいね」

『おうっ! ……って、ついてくるのか!』


 その魔法の一つ一つが当然の如くアカムの魔力障壁を貫ける程度の魔力を込められており、アカムはそれを避けるのだが、ブレスと違い魔法であるそれらは避けたアカムの後を追って方向を変える。


 仕方なくアカムはその魔法を全て斬り落とすが、数が数だけに一筋縄ではいかなくなりゴドラに接近する余裕もなくなった。

 だが、それでもアカムは全ての魔法を斬り落とした。


 そして魔法を全て防ぎ切ったその瞬間を狙って放たれたブレスによって飲み込まれるのだった。


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