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78話 神竜

 九十階層、その守護者ガーディアンと戦うための大広間に続く大扉が開かれ一人の男が足を踏み入れた。

 この広間の主は源初の時からずっとここで佇んでいて、ようやく現れた初の来客を見定めるように睨み付ける。


 燃えるような赤髪に鋭い眼光を放つ灰色の目。

 頬の片側には大きな切り傷のあるその男の両腕はとても人間の物とは思えない異形の姿で右手には大鉈が握られている。

 また、背にも生物的でない異形の翼があり、さらによく見れば男は靴を履いておらず、代わりに腕や背の翼と同じ金属でできた脚が覗き見えていて、脚もまた異形であることが分かる。


 そして何よりもその身からは信じられぬほど膨大な魔力を感じられる。

 そればかりか、その膨大な魔力が常に四肢や背の異形の何かへと流れて消費されているにも関わらず男の魔力が減る様子は見られない。

 おまけに傍には男の魔力と同質の魔力で構成された精霊までおり、どうやら男と契約以上のもので結ばれているように感じられた。

 そんな常識外れの者たちは、広間の主に睨まれたというのに姿を見て男が軽く驚いただけでどちらもほとんど動じることはなく、寧ろ戦意を高めているようだった。


『……ようやくここまで来るものが現れたかと思えばなんとも奇妙な者が現れたものだ』


 そんな来客に関心した広間の主は、心なしか楽しそうにして話し始めた。

 そうして言葉を口に出した時、男がひどく驚いた様子を見せた。

 どうやら人の言葉を扱えるとは思えなかったらしい。

 広間の主はようやく人らしい反応を見ることができて少しだけ愉快な気持ちになった。





 異形の人間ことアカムが大広間に入るとそこは空がどこまでも青く広がり、遮る壁が一切ない荒野だった。

 そしてその荒野の一画にはすでに守護者ガーディアンの姿があった。

 アカムは今までとかなり違う広間の様相に疑問を抱きつつ、すでに広間に佇み睨み付けてくる守護者ガーディアンに少しだけ驚く。

 その体はベヒーモスのように高く聳える山のように感じるほど大きいものではないが、それは二本足で直立しているわけではなく四本の足で腹這いに立っているからだ。

 実際はアカム程度の体格なら十人集まっても苦労なく一口で丸のみにできるほどに大きい頭を持ち、鼻先から尾の先までは100mを裕に超えている。

 またその姿はどことなくトカゲに似ていて全身をびっしりと白銀に輝く鱗が埋めており、背には太く巨大な骨組みと翼膜からなるコウモリのような翼があった。


 その姿はベヒーモスと同じように知らぬ者はなく、生物の頂点とも呼ばれるドラゴン種の中でも最高位の存在。

 『神竜デウスドラゴン

 ベヒーモスと同じように英雄の物語に出てくる伝説の存在が目の前にいた。


 しかしそれを目にしたアカムはそれほど驚かなかった。

 ベヒーモスが現れた時点で他の伝説的な存在が現れることは容易に予想できたことだからだ。


 だがこの後神竜が人の言葉で話し出し、アカムは目を見開いて驚愕する。

 神竜デウスドラゴンが人の言葉を話すとは思ってもみなかったからだ。


 アカムの目に心なしかこちらの反応を楽しんでいるように見える神竜デウスドラゴンは尚も言葉を続ける。


『人の言葉を使うのが意外か?』

「……ああ、あんたからすれば人なんて下位の存在。わざわざ人の言葉を理解する必要もないだろうに」


 神竜デウスドラゴンの言葉にアカムはそう返す。

 アカムが驚いたのはその風貌から話せるような知性があるとおもってなかったなんて事ではなく、むしろその逆で人より圧倒的に高位の存在で高い知性を持つとされる神竜デウスドラゴンが下位の存在に合わせて来たことに驚いたのである。


『なるほど、そういう考えか……面白い考えではあるな。我が地上でどのように伝えられているのか気になる所だ……それにしても惜しいな』

「惜しい? 何が惜しいんだ」

『必ずしも人が頂点でないと考えられるのなら、さらなる真理にも気付くか、もしくは疑問をもっててもよさそうだがな。例えば、そもそもなぜ閉ざされた空間にいる我が人の言葉を知っているのか、とかな?』

「は……?」


 神竜デウスドラゴンが言ったその言葉にアカムは数秒呆然としてからその意味を考える。

 アカムが考えている間、神竜デウスドラゴンは楽しそうに様子を見るだけで動かないが、アイシスは油断なくそれを見据えていつでも対応できるように構えている。


 それから少ししてアカムは考えをまとめた。

 考えをまとめて挙げられた顔には困惑した表情が浮かんでいる。


「ここは迷宮……魔物は迷宮でのみ生まれ、地上に出てくることはない。にもかかわらず人の言葉を知っているのならそれは最初からそういう存在として造られているから……?」


 ぽつぽつとそれが合っているのか問いかけるようにアカムは思考の末の結論を述べると神竜デウスドラゴンの様子を伺う。


『クク……クハハハハハハハ! 面白いな! ちょっとヒントをやっただけで簡単に答えに辿り着いたか! そう、我は始めからそのように造られた存在だ。ここまで来た者と戦い、語り、見極めるために造られた。だから我は別に人よりも高位の存在というわけではない。先ほど、必ずしも人が世界の頂点でないと言ったが、喜ぶがいい……ことこの世界においてはお前たちは間違いなく頂点に位置する存在。世界はお前たち人のためにあると言っても過言ではないとこの我が保証しよう』


 アカムの言葉を受けた神竜デウスドラゴンは、始めは笑いを堪えるように巨体を震わし、次に爆音のごとき大声で笑いだす。

 そしてその考えを肯定し、最後には愉快気に世界が人のためにあるとまで断言する。


 そんな世界そのものに関わる重大な情報にアカムもアイシスも呆気に取られた。

 本来そのような情報は軽々しく伝えてはいけないものなのではと思えたからだ。


 二人が疑問に感じているのを察したのだろう、神竜デウスドラゴンが笑うように目を細めながら、口を開く。


『折角ここまで来たのだ、その褒美にそれぐらいの情報はやってもよかろうよ……お前たちがここで死ぬにせよ、生きて切り抜けるにせよ、な』


 神竜デウスドラゴンがそう言うと共に空気が変わる。

 先ほどまでのどこか友好的な雰囲気が消え、敵を威圧するように膨大な魔力が噴出される。


 突然の威圧を受けたアカムは大鉈を握る右手に力を入れて、右足を軽く後ろに引いて戦闘態勢を取る。


『その切り替えの速さ……実によいな。長い語りはここまでにして我らの関係本来の在り方へと殉じるとしようか。我はいにしえの時から存在する神竜デウスドラゴン、名をゴドラ。冒険者、それに精霊よ。お前たちも名を語るがいい』

「……アカム・デボルテ。見ての通り普通の人間族ベーシスだ」

「アイシス。名も存在もマスターに用意されただけの極普通の精霊です」


 アカムの反応に愉快気にしつつ神竜デウスドラゴン―――ゴドラが名乗りをあげる。

 それを受けてアカムもアイシスも堂々と名を告げた。


『揃いも揃って普通などとよく言えたものだ……では、その普通の人間族ベーシスと精霊の力がどれほどか確かめさせてもらうぞ!』


 その言葉と共にゴドラはさらに魔力を高め、アカムも全ての感覚を戦闘に集中させた。

 そしてついに伝説の神竜デウスドラゴンとその身の大半を機械化させた者との戦いが始まったのだった。

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