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76話 家族

 あの後アカムは八十階層のエリアを二つほど攻略して地上へと帰ってきた。

 空を飛べるのだからもう少し攻略できてもよさそうなものだが、エリアの一つが洞窟迷路エリアであり、そこを地道に歩いて攻略していたため時間がかかってしまった。

 ちなみに出てくる魔物はグランドオーガやヘルタウロスなど、オーガやミノタウロス等の人型魔物の最上位種が出現していたが、アカムにとってそれらはもはや雑魚でしかなく大した障害にもならなかった。


 それはベヒーモス戦後ということもあって感覚が研ぎ澄まされているというのもあるが、一番の理由はやはり機械因子オートファクターの性能が格段に向上しているためだろう。

 一番性能が向上したのは魔力収束砲だが、通常の動作自体もかなり性能が向上していて、一般的に出現する魔物ではもはやその攻撃力に耐えることはできないのだ。


 そんなわけで戦闘自体はもはや足も止めずに歩きながら蹴散らしていたため結局時間が掛かったのは迷路で正しい道を探るのに時間が掛かっただけに過ぎなかった。

 そうして地上に帰ってきたアカムはそのままギルドへと向かった。




「えええええええ!? こ、これ……本当ですか!?」

「ん、どうした……マジか!?」


 ギルドで魔石を換金してもらうと職員が驚きの声をあげ、その声に反応したエルマンドも鑑定結果を見て目を見開いて驚き、その鑑定結果とアカムの顔を何度も見る。

 魔石を渡すときアカムは極めて自然体で落ち着いたもので、その様子を目の前でみた職員は出された魔石も一般のものだろうな思ってと鑑定したのだが、その鑑定結果は信じがたいものだった。

 何せ、鑑定結果には伝説上の存在とされるベヒーモスの名が現れていたのだから。

 その名前に職員は思わず大声で叫んでしまったのである。


 後からやってきてそれを覗いたエルマンドも同じように驚いた後は、視線でどういうことなのか説明しろと訴えてくる。

 それを受けたアカムは非常に落ち着いた様子を見せながらも、


「倒した」


 と、あっさり一言だけ言って口を閉ざした。


 魔石がある以上はそういうことなのだから今更疑う余地も無いのだが、流石に伝説の存在を倒したと言われてはいそうですかと納得できないのかエルマンドは尚も視線を向けてきた。


「だから、倒したんだよ。それだけだ」

「それだけってお前、これが何か分かってんのか!?」

「それは分かってるが、倒したからその魔石がそこにあるわけだしな。鑑定機も壊れてるわけじゃないんだから認めろよ」

「認めろって……ああ、もう! お前どうやってこいつを倒したんだ?」


 それでも説明なんて要するにベヒーモスが現れて、アカムはそれを倒しただけであるため肩を竦めつつも同じことを繰り返し告げる。

 エルマンドも渋々といった様子でとりあえずベヒーモスが現れそれをアカムが倒したのだと認めるが、それをどう成したのか気になるようでやたらと必死な様子で問い詰めてくる。

 だが、ここでそれを説明したところでとても信じてもらえることでもないのだからとアカムは何も答えず首を振るだけだ。


「あー……そうか、こんなところで手の内晒せるわけないか。すまん、取り乱してたわ」

「いや、まあ手の内晒すのは問題ないんだが、これ以上悪目立ちするのはちょっとな」

「……それこそ今更だと思うがね」

「え?」


 どうにも落ち着いたままのアカムを見ていたらエルマンドも落ち着いたのか色々と問い詰めていたことに対して詫びながら苦笑いを浮かべる。

 そんなエルマンドの言葉にアカムも苦笑しながら返事をするが、それを聞いたエルマンドはひどく呆れた様子をみせた。


 すでにアカムが八十階層まで来ていることは街のほとんどの人が知るところである。

 そして異界迷宮は六十階層より先へ辿り着いたものは今まで一人もいなかったため、その未知のエリアに足を踏み入れたアカムは今、異界迷宮で最も注目されている冒険者だ。

 おまけに異形の姿はさらに人の目を惹きつけ、今更目立ちたくないと言ってもはっきり言って無駄だった。


 そしてそれは今日ベヒーモスを倒したことでさらにひどくなるだろう。

 エルマンドがアカムから視線を移すとすでに騒ぎに興味を持った冒険者がその鑑定結果を覗きこんで驚いてる姿があった。

 アカムもそれに釣られて同じものを見て引き攣った笑みを浮かべる。


「な?」

「うげえ……」

「人気者ですね、マスター」


 諦めろとでも言いたそうな様子でアカムの肩を叩くエルマンド。

 アカムはそれに反応することも無く顔を顰めてそんなことを呟いた。

 そしてアカム以外には姿の見えないアイシスが茶化すようにそんなことを言ってアカムは一層肩を落とすのだった。


 だが、このまま人に群がられるなど堪ったものではない。

 アカムは目立つことは甘んじて受け入れることにして、せめて行動の自由を手にするために真剣な表情を作って姿勢を正す。

 アカムの雰囲気を感じ取ったのかギルドにいた人々の視線が集まる。


「あー、今日俺は八十階層の守護者ガーディアンを倒した。で、俺も諦めたから好きにこの話を広めてくれても構わない。だが――」

「っ!?」


 アカムはあえて自分からそんなことを言って言葉を一旦区切ると共に、アイシスに頼んでかなりの量の魔力を放出してギルド内の人々を威圧する。

 それを受けて狙い通りギルド内にいた人々は冷や汗を流しながらピタリと固まった。


「――行動が阻害されるのは我慢ならないからな、話を広めるならその辺りはよく考えて欲しい。ああ、勘違いしないで欲しいがこれは命令とか脅迫じゃなく単なるお願いだ。別に無視してくれてもいいが、どうだろう……俺としてはこのお願いを聞き入れてくれると非常に助かるんだが」


 周囲を威圧しながらそんなことを言われれば皆頷くしかなく、アカムはそれを見て満足そうに笑みを浮かべた。

 それはどう見ても凶悪な笑みにしか見えなかったが皆命が惜しかったので誰も何も言わず作り笑いを浮かべる。


 それからアカムは静まったギルドで換金を済ませさっさとギルドを出て自分の家へと帰っていった。

 その後姿をエルマンドが見て呆れていたが、一つため息を吐くと知人のために一肌脱ぐことにした。


「あー……たっぷり威圧されたわけだが、アイツはアレで理不尽な暴力はしないからそこは安心してくれ。ただ、あまり迷惑にならないように配慮してやってくれ!」

「は、はあ……」

「おら! いい加減シャキッとしろ!!」


 頭をぼりぼりと掻きながらそんなことを言うエルマンドにギルド内にいた人たちは空返事を返すが、エルマンドがそんな人々に発破をかけるように手を叩きながらそう告げるとようやく人々は動き出し、それぞれの用事を済ませていった。




 家に帰ったアカムはイルミアにも八十階層の守護者ガーディアンであるベヒーモスを倒したことを報告していた。

 その時のアカムはギルドで話していた時とは違ってどこか得意気で、イルミアは一度はその報告に驚いたが、そんな子供のような反応をしているアカムを見て驚きも吹っ飛び、釣られるように楽しそうな笑みを浮かべた。


「すごいじゃない! これであんたも英雄の仲間入りね?」

「はっはっはっ、まあ俺は英雄なんで柄じゃないけどな」

「確かに」

「どう見ても悪役ですしね」


 笑いながらイルミアは肩を叩き、アカムは一層上機嫌になりつつも英雄であることは少し控えめに否定する。

 それを聞いてイルミアもアイシスも深々と頷き、アイシスに至ってはかなり余計なことを言って茶化してきた。


 それを聞いてもアカムの機嫌が悪くなることは無く笑うだけだ。

 地上に帰ってきたころにはだいぶ落ち着いていたように見えたがどうやらそれは表面だけで、ベヒーモスと戦い勝ったことでアカムはまだまだ興奮していたようだ。


 そんな珍しく興奮して笑うアカムの姿にイルミアも本当に楽しそうに笑い、上機嫌になったアカムが始めたベヒーモス戦についてあれやこれやと話すのを聞いていた。

 あれやこれやといってもやっていたことはひたすら魔力収束砲を撃っていただけなのだから、アカムの話は同じような話の繰り返しだが、本人はそれに気づいていない様子だった。


「ほんとよく勝てたわね……それにしても二ヶ月ほど前の私たちならとても今の状況は信じられないでしょうね」

「ああ、そうだな。腕どころか四肢は機械に、背中には翼だもんな。……ほんとイルミアには心配かけてるよな……すまん」

「謝らないで。そりゃ最初は心配でたまらなかったけどその腕や脚、翼があなたを守ってくれるんだから今じゃ安心して毎日迷宮へ行くあんたを見送れるんだから」


 アカムの話も終わり、落ち着いたところでイルミアが感慨深そうにして呟く。

 その言葉に同感するようにアカムも言葉を重ねるが、ふと思い浮かんだことに対してアカムは謝った。

 そんなアカムに苦笑しながらイルミアは首を振る。


「それにあんたがその腕を拾ってきたおかげで二人も家族が増えたんだからね。もっとも一人はまだお腹の中だけど」

「ん?」

「イルミア様、お腹の子は双子なのですか?」

「ふふっ、お腹の中にいるのは一人だけって言ってるじゃない。もう一人はあなたよ、アイシス」

「ええ?」


 続くイルミアの言葉にアカムは首を傾げ、アイシスもそれが間違いではないかと聞けばイルミアは首を振って否定する。

 そしてイルミアの言葉にアカムはなるほどと納得して、アイシスはその言葉にポーカンとして固まってしまった。


「そうだな、アイシスも俺たちの家族だな」

「私が……家族……」

「そう、家族。それとも私たちが家族じゃ嫌かしらね?」

「いえ、そんなことないです! とても! ……とても嬉しい、です」


 再度、言われた家族という言葉にアイシスは戸惑った様子を見せるが、イルミアが少し意地悪なことを聞くと慌ててそれを否定する。

 それからアイシスは言葉を続けようとして、涙がぽろぽろと零れてしまう。

 それでもアイシスは涙を拭って嬉しい、と笑みを浮かべながらそう言ったのだった。


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