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74話 咆哮

 アカムの放った魔力収束砲とベヒーモスが放った高密度のエネルギーを秘めたブレス。

 両者の放った特大威力のそれは空中で衝突した瞬間大爆発を起こしてエリア全体を大きく揺らした。

 アカムは背に付けた翼の推進装置を起動して吹き飛ばされないようにしながら、魔力障壁を展開してその爆発の余波から身を守り、視界が開けるのを待った。


 すでに閃光も衝撃も音もなく、辺りは土煙が舞うばかりで、これは視界が開けるまでかなり時間がかかりそうだとアカムが思った次の瞬間、まるで最初から土煙など無かったかのように消え去って突然視界が開けた。


「うわ……」

「まさか相殺されるとは予想外でした」


 視界が開けると最初に目につくのはベヒーモスの巨体。

 その身体は当たり前のように健在で、それどころか無傷であった。


 そして次に目に入るのはベヒーモスとの間の地面。

 そこには最初から何もなかったかのように黒い穴がぽっかりと開いていた。

 どこまでも深く開いたその穴は底が全く見えない巨大な穴だ。

 よく見れば端の方から徐々に復元されているのが分かるが、開いた穴が大きすぎるのかその復元速度はかなり遅く見える。


 実際にはかなりの範囲を驚異的な速度で復元しているのだがそれでも完全に穴を塞ぐのに時間がかかるほどその穴は深く、大きいものであった。

 それは両者の放った攻撃の威力の高さを思わせる。


「まあ、伝説の存在が魔力収束砲一発で沈むとは俺も考えてなかったしな。二発目行くぞ!」

「あ、はい。魔力収束砲チャージ開始」


 攻撃は失敗に終わったが、アカムは折れずに笑みを浮かべて再び魔力収束砲を撃とうと声を出す。

 アイシスは少しだけ反応を遅らせるが即座に魔力のチャージを開始した。


 アイシスが少し反応を遅らせたのは考え事をしていたからだ。

 アカムの魔力は相手の魔法をも取り込む極めて異常な魔力である。

 にもかかわらずベヒーモスのブレスによってその異常な魔力の塊である魔力収束砲は相殺された。

 それはつまりベヒーモスのブレスが取り込まれなかったということだ。

 なぜ取り込まれなかったのかアイシスは少し考えてそれ故にアカムの言葉に反応が遅れたのである。


 相手の攻撃を取り込めないというのは普通に考えればそれが当たり前であり、むしろ相手の攻撃を取り込める方が異常なのだが、アカムの魔力の異常性を知っていて、己もその異常な魔力から生まれた存在だからこそアイシスは取り込めなかったことが不思議で、ほんの少しの危機感すら覚えた。

 最初、相手が遠距離から攻撃を放ってくるのを見て一方的なものとなると思っていたが存外簡単にはいかなそうだとアイシスは魔力収束砲のチャージを行いながら考えを改め、まとめた。


 結局、ベヒーモスのブレスが取り込まれない理由は分からないままだ。

 だが、かといって魔力収束砲が押し負けたわけでもない。

 そもそも魔力収束砲は機械因子オートファクターの最大級の威力を誇る機能。

 それがベヒーモスのブレスに負けるとは、大元が機械因子オートファクターを補助するAIであったアイシスにはとても考えられない。


「チャージ完了……どうやら相手も撃ちあいを望んでいるようですね。再び口付近に高エネルギー反応を確認」

「何度でも付き合ってやればいい。こちらが押し負けることはまずないだろうし、万が一にはアイシスもいるしな。まあ、かといってこっちも容易に攻撃が届かない以上は根競べだが……二発目、発射ァ!」


 アイシスの言葉に気負った様子も見せずに軽口を叩きながらアカムは二発目の魔力収束砲を放つ。

 アイシスはアカムの言葉から機械因子オートファクターや自身に対する信頼を感じ少し嬉しくなって笑みを浮かべてその砲撃の行く末を見守る。

 一発目と同じように、アカムが魔力収束砲を放ったのと同時にベヒーモスもブレスを放った。


 機械因子オートファクターの力はベヒーモスに負けるはずはない、そう信じながらも信頼に応えるためにアイシスは、万が一のことがあった時は即座に退避できるように集中してアカムの魔力収束砲とベヒーモスのブレスが衝突した瞬間を観察する。

 そして二度目の大爆発と共に、再び大きな揺れがエリア全体に襲い掛かった。


 その大半を復元し終えていた地面は再び大きく抉り取られ、相当量の土煙を巻き上げてベヒーモスを視認することができないがアイシスはまたも相殺されて相手は無事であることに気付いていた。

 それはアカムも同じだったのだろう。

 いまだ視界が開けぬそんな中アカムは落ち着いた様子でアイシスの方へと目線を向ける。

 

 その目線の意味を正しく汲み取ったアイシスは再び魔力収束砲へ魔力を供給する。


「チャージ完了しました」

「三発目ェ!」


 そして十秒後には再び魔力収束砲が放たれた。

 周囲を覆う土煙はそれと同時に忽然と消え、視界が開けたことで目に映る光景にアカムは驚きもせず笑みを浮かべる。

 そして再度魔力収束砲は相殺され、大爆発を起こした。

 ベヒーモスもまた即座に次のブレスを放っていたのであった。


「相手もそれなりに連射が効くようですね」

「まあ、予想通りだろ。だがその元になるエネルギーは無限かどうかはまだわからんが……四発目、発射!」


 再び土煙に覆われる中、軽い口調でベヒーモスの能力について話し合う。

 その間もすでに魔力収束砲へ魔力がチャージされ始めていてアカムは感覚からチャージが完了したことを察して四発目の魔力収束砲を撃ち、再び大爆発が起こる。


 またも相殺されたらしい。

 だが、アカムもアイシスも動じない。

 その後も何度も何度も魔力収束砲を放ち、何度も相殺された。

 そうして数十発もの魔力収束砲を相殺されたところでアイシスがあることを告げる。


「相手の残存魔力がかなり少なくなっています。これまでの攻撃から考えるなら後五発程度でしょうか」

「なるほどな。本当に俺の魔力は底なしらしいな」


 一発一発が異常な威力を秘めた魔力の撃ちあい。

 それによりベヒーモスの魔力は底を見せたようで、心なしか威圧感も小さくなっている。

 対するアカムは相も変わらず異常な魔力回復力を維持していて、今だ快調のようだった。

 そして伝説の存在であるベヒーモスを魔力切れ寸前まで追い詰めるほど魔力の撃ちあいをしても尚枯れることのない自身の体質に思わず自嘲の笑みを浮かべる。


 そうしてこの勝負勝ったと確信したその時、ベヒーモスに異変が生じた。

 まるで前に倒れるように体勢を崩したかと思えば腕を広げて四つん這いの体勢を取った。

 アイシスはもしかしたら今までと行動を変えるのではとチャージ途中だった魔力収束砲への魔力共有をやめて集まった魔力を魔力障壁にすることで消費するが、すぐにその必要がなかったことに気づく。


「っ! ベヒーモスの残存魔力が全て一か所に集中していきます」

「なっ……そうか、文字通り最後の一撃ってことか」


 そして少し慌てた様子を見せながらアイシスが、相手の魔力を観測して得た情報を告げる。

 その情報に乾いた笑みを浮かべつつアカムはそう呟き、次の瞬間は笑みを浮かべた。


「ならこっちも最後は全力の全力で迎え撃つしかねえな」


 そう言ってアカムは左腕に握っていた大鉈を強く地面に振り下ろして突き刺すと、大鉈から手を離して左腕を前へと伸ばす。

 すると左腕の前腕部が傘のように開いたかと思えば肘と肩の部分が固定された。


「両腕での同時使用!? 本気ですか、マスター」

「ああ、こうでもしないと、さすがに押し負けるだろうからな」

「……分かりました。魔力収束砲のチャージを開始します」

「っ……久々の感覚だなっ!」


 アカムの意図に気付いて目を見開いてアイシスは驚くが、絶対にやると言った様子のアカムを見て同意し、両腕の魔力収束砲へと魔力を供給する。

 さすがに両腕分の同時供給に魔力の結晶マナクリスタルで向上したアカムの魔力回復力も余裕を持っていられず、枯渇気味になる。

 そうしてチャージにかかったのは片腕分よりも長い二十秒。

 それはベヒーモスが残った魔力を全て集め終わるのと同時だった。


「チャージ完了しました。相手も魔力を集め終わったようです」

「俺がァ勝つ!!」


 最後も撃ち合いになると聞いてアカムは叫んで気合いを入れつつ、衝撃に耐えるために全力で身体強化をかけつつ背の推進装置で身体を前へと押しながら両腕の魔力収束砲にチャージされた魔力を解き放つ。

 膨大な魔力の塊であるソレは空中で混ざり合ってさらに巨大な塊となりベヒーモスへと向かった。


 対するベヒーモスもまた、残っていた全魔力をかけたブレスを撃ち放つ。

 その魔力を集めた一撃はかなり無茶があったのか、放った瞬間ベヒーモスは体中から血を吹き出す。

 だが、すでに撃ち放たれた魔力はそんなベヒーモスとは違って力強くアカムへと向かってきていた。

 

 そして両者の魔力は空中でぶつかり合うと一方の魔力がもう一方の魔力を貫き、そのまま相手に直撃してその肉体を蒸発させるとともに大爆発を起こした。

 そして、爆発は収まったその空間を静寂が支配する。


「オオオォォォォォォォ!!!」


 やがて、生き残った勝者があげた咆哮によってその静寂は破られたのだった。


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