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69話 七十階層

 アカムが六十階層の守護者ガーディアンを倒した日から一ヶ月ほど経った。

 今、アカムは七十階層の守護者ガーディアンの大広間の前に来ている。

 五十階層から六十階層までは二日で辿りついていたのに対し、やけに時間がかかっているように思えるが、これは途中の階層の魔物に苦戦したわけではない。

 それはある事情で六十階層までの全ての階層の全てのエリアを巡っていたためである。




 事の起こりは一ヶ月前、つまり六十階層の守護者ガーディアンを倒した日の翌日こと。

 イルミアによって喝を入れられたアカムはいつも通り迷宮へ意気揚々と赴き、六十階層へと向かった。

 そして道中の敵はほどほどに薙ぎ払いつつも空を飛んでさっさと次階層へ繋がる石版の元まで辿りついたのだが、そこでいつもの様に転移のための呪文を唱えたのにも関わらず転移することができなかったのである。


 アカムはそれに首を傾げたが、その石版にある文字が浮かび上がっているのにアイシスが気づく。



『旅人よ、道は一つに非ず。

 旅人よ、全ての道を歩むべし。

 旅人よ、全ての道を歩んだ証を示すべし。

 それは旅人の証に刻まれる。

 全ての証が刻まれた時、新たな道は開かれるだろう。

 旅人よ、唱えよ呪文。汝、未知なる道を歩む者なり 』



 石版にはそのように書かれていてアカムは眉を潜ませる。


「これは謎解きか?」

「というよりもそのまま次の階層へ行く方法を示しているのでは?」

「ああ、じゃあ変に捻らず素直に読み取ればいいのか」


 とりあえず考えられる可能性を呟けばアイシスが別の可能性を示唆する。

 言われてみれば言い回しが特徴的なだけでそこまで捻ったものでもないように感じられた。

 どのみち現時点で六十一階層に転移できない以上、この石版に浮き出た文章を読み解くしかないのだからアカムは集中して読み解いていくことにした。


「旅人はまあ、ここは迷宮だから俺たち冒険者のことで……となると道は各階層にあるエリアか?」

「全ての道を歩むべしというのはつまり全エリアの攻略でしょうか」

「旅人の証は……これか」


 単語が何を示しているのか推測していき、アカムはギルドカードを取り出してジッと見てみる。

 表には名前、生まれた日付、種族名、現在いる階層ぐらいしか書かれていない。

 裏を見てみれば今まで攻略してきた階層の数字がありその横には丸印が刻まれていた。

 よく見れば、その中で二十四階層だけその丸の中も塗りつぶされているようになっていることに気付く。


「二十四階層っていうと機械因子オートファクターを手に入れる前に行き詰っててひと月くらい籠ってた階層か」

「ひょっとしてマスターは二十四階層のエリアは全て攻略していたのでは?」

「多分な。あとは足を踏み入れるだけじゃだめらしい」

「というと?」


 それをみて思い当たることを呟き、アイシスの推測にも同意する。

 さらに、他の階層横の丸印の状態も考えて補足を入れた


「俺がまだ冒険者に成り立ての時、最初の階層を何度も転移しなおしてエリアを変えてたんだが、あの時俺はまず間違いなく全部のエリアを見ていたと思う。だがこれには刻まれてないからな」

「なるほど」

「だから多分この石版が言いたいことは……先に進むなら全てのエリアで次階層へ続く白い石版を見つけだし、それに触れて転移しろってことだろうな」


 それらを踏まえてアカムが石版の文章をもう一度読み直して確信し、それを口に出し、アイシスの納得するように頷いていた。


「最後の唱えよ呪文というのはその後に書かれているこれのこと……察するに証の無いエリアに転移するための呪文のようですね」

「ああ……加えて言えば実際に唱えるときは汝じゃなくて我って変えないといかんだろう」

「そうですね」


 それから石版の最後の文章についても考察が終わり、そう結論付ける。

 石版に浮かび出た文章の解釈はそれで間違いないと二人とも確信して、一つ頷いた。


「はーそれにしても喝入れてもらって意気揚々と迷宮攻略を進めようと思った矢先にこれか」

「まあ、いい機会でしょう。最近のマスターは必要以上に急いでいたように感じられましたしこれを気に落ち着きましょう」

「そんな急いでいたように見えたか?」

「それはもう」

「……そうか。イルミアにも喝入れられたばかりだしな。言われた通りにしてみるか」


 出鼻を挫かれたように感じて不満を漏らしたアカムにアイシスが笑いかける。

 アイシスの言葉に真剣な顔になり、さらにイルミアに顔面を殴り飛ばされた時の言葉も思い出して神妙に頷いた。


「さて、とりあえず試してみるか。 我、未知なる道を歩む者なり!」


 それから一度自身の頬を叩いて気合いを入れたアカムは石版に触れて、石版に書かれていた呪文を唱えた。

 どうやらその呪文で正しかったようで、アカムはすぐにこことは違う別のエリアへと転移した。


 そうして転移した先は薄暗い洞窟のような場所。

 薄暗いとは言っても壁自体がほのかに光っていて、見通すことは難しくない。


「なんか見覚えがあるような無いような……」


 言ってアカムはギルドカードを取り出して、表面の現在の階層が記される箇所を見る。


「一階層……そうか最初っから順番に行けということか」

「一階層の魔物について私は知りませんけど……相当弱そうですね」

「まあ、息抜きと考えるさ」


 正直、一階層の魔物など今のアカムからすればデコピンでも一発で倒せるような相手で、少しも面白い物ではない。

 おまけに洞窟である以上空を飛んでさっさと証を刻むこともできないのだから、さらにつまらないものとなる。

 もはやそれは苦行と言ってもいいレベルだが、アカムは思っても無いことを口に出しながらこのエリアの白石版を探して歩き出したのだった。




 そういった感じでアカムは一ヶ月の間、全エリアを攻略するために費やした。

 その間、突然浅い階層の魔石を持ってきてイルミアに変な目で見られたり、魔物に追い詰められて危機一髪な状況の新人冒険者を助けて感謝されたり、それが原因で街中で人に声を掛けられることが増えたり、他にも色々あったがこれといって変わったことは無く、全エリアの攻略自体は比較的スムーズに進んでいた。


 実のところ半月ほど経過した時点で六十階層までの全エリアは攻略して六十一階層より先へ進めるようになったのだが、今後も全エリア攻略が求められる可能性を考えて六十階層から先も一つ階層を進むごとに全エリアを攻略していったのが余計に時間がかかった原因である。


「五十階層まではもはや苦痛だったな」

「それ以降も大概でしたけど搦め手を使ってくる魔物も多かったのでやりごたえはありましたよね」

「まあ、その搦め手もほとんど障害にならなかったが」

「それでも新鮮ではありました」

「そうだな……」


 そして、今アカムとアイシスはこの一ヶ月の迷宮探索行を振り返り感傷に浸っていた。

 最初はアカムの息抜きにちょうどいいと言っていたアイシスも次第に変わり映えのしない魔物の攻撃に飽き飽きとしていたので三日も過ぎたころに浅い階層を潜っていた時は二人ともうんざりといった様子を見せていた。


 それから、感傷もそこそこにしてアカムたちは気持ちを切り替えて七十階層の守護者ガーディアンの待つ大扉を睨む。

 今は朝一番で、朝食はかなりの量を食べて気合いも十分。

 相も変わらず右手には大鉈を持ち、左腕には翼の大剣が装着されている。

 イルミアに服を用意してもらったから、六十階層の守護者ガーディアンに挑んだ時とは違い上の服は着ているが、その服が肩の前面や、背中の推進装置を邪魔することは無い。

 気合いも装備も体調も全て万全であり、いつでも挑める体勢である。


「よし、行くか」

「はい。くれぐれも油断しないように」

「もちろんだ。油断したらイルミアに殺されちまう」


 軽口をたたいてアカムは大扉を開く。

 そしてその大扉の先へとゆっくりと踏み入れていく。


 相も変わらず円形状の大広間。

 ただし、今回はいつもよりも広く、天井も高いことに気付く。

 用意された空間がそれだけ広いということはそれだけ巨大な魔物が相手になるのかと頭の隅で考えつつ、アカムは正面を見据える。

 すでに扉は閉まり、魔法陣が正面に現れていた。

 それも一つではなく四つの魔法陣が。


 そして四つの魔法陣が同時に動きを見せる。

 一つは爆炎をあげ、一つは水柱が上げたかと思えば凍り付き、一つは竜巻を作りだし、一つは地面を急激に盛り上げて岩の柱を作る。

 そしてそれぞれの現象の中から炎に包まれた者、水で形作られた者、風を纏う者、岩に守られた者、それぞれがその姿を現した。


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