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67話 化物

 守護者ガーディアンであるルインが迫る。

 その速度は先ほどアカムが出したものに引けを取らないほどのものだ。

 だが、アカムの強化された感覚はしっかりとその速度で動くルインの姿を捉えていた。


 ほとんどダメージを与えれなかったのはさすがに予想外だったが、アカムは最初から追撃も考えていて大鉈を振り下ろしてルインを吹き飛ばした後、すぐに体勢を整えて、ルインが迫る直前には左腕を向けていた。


「ターゲットロック、射出」

「ぬ!?」


 そしてアカムの行動の意味を察したアイシスが機械因子オートファクターを制御し、翼を分離すると共に推進装置を起動して高速で射出する。

 遠隔操作などもアカムがかなり自由に操作できるのだが、相手が行動した瞬間に方向を切り替えるような使い方をするならばアイシスの方が正確に相手を捕捉し続けられるのだ。


 ルインはまさか左腕に装備されていた翼の大剣が飛んでくるとは思っていなかったのか目を見開くが、かといって遠距離攻撃の可能性を考えていなかったわけでもないようで、すぐにそれを横に回避する動きを見せた。

 が、それを即座に見抜いたアイシスが大剣の形になっていた翼を飛行する時のように左右に開く。


 それにより多少余裕を持って、それでも最小限の回避をしようとそこまで大きく動いてなかったルインをちょうど開いた翼が強襲する形となった。

 大剣が飛んできて驚き、さらにそれが途中で変形したことで再度驚かされたルインは今度こそ慌てて下に避けようとする。


「甘いですね」

「ぐぅ!?」


 だが、人と違って機械因子オートファクターに搭載された捕捉機能はルインの動きを完全に捉え、アイシスはそれをタイムラグなく認識し判断して翼の進行方向を変える。

 それにより再度姿勢を低くしたルインに直撃するコースを取る。

 あまりにも高速で自身の回避を潰すそれに唸り声をあげつつ、ルインはその翼が直撃する直前に地面を強く蹴りながら三対の翼で羽ばたき、今度は空へと脱した。

 その際、持っている大剣の内二本で翼を叩き、その動きを阻害していった。


 さすがの機械因子オートファクターとアイシスの判断能力をもってしても直前で回避され、尚且つ衝撃を与えて多少なりとも軌道を逸らされれば即座に追うことはできなかった。


「次から次へと奇怪なっ!?」

「チッ外したか」


 ひとまず翼の大剣による攻撃は回避できたことに声を漏らすルインだったが、目にも留まらぬ速度で何かが自身の頭部へと迫っていることに気付いてそれをぎりぎりのところで回避した。

 意識の外からの攻撃であったため回避したとは言ってもその何かはルインの翼の一つを貫いて確かなダメージを与えていた。


「ぐっ!?」


 痛む翼に顔を顰めてルインが何かが飛んできた方向を見ればそこにはアカムが右腕を自身へと向け、大鉈を持ったまま手を上に傾けている奇妙な姿があった。

 なんだと疑問に思うよりも先にルインは危険を感じて慌てて横へと避けるが、右腕の一本を何かが直撃したかと思えば瞬間的に貫き、ちょうど魔石がすっぽり通りそうな穴が開いた。


「チッ二発目も外れか」


 それをみてアカムが零したのは喜びではなく不満そうな舌打ち。

 アカムがしたのはパイルバンカー用の杭の射出であるが、アカムはもっと致命傷を与えられる場所にあてるつもりだった。

 だが、二発の杭はルインに避けられ、結果翼と腕に一つずつ穴を開けただけ。

 その程度であればおそらくすぐに回復されてしまうだろうとアカムは考えており、問題ない場所に当たったのならそれは外れだという認識で、アカムが舌打ちをした理由だ。


 だが、少なくとも痛みによって多少怯ませることはできたかと瞬時に思考を切り替えて、アカムは地を蹴ると同時に、推進装置を起動して空にいるルインへと一直線に突っ込んだ。

 痛みに悶えていたルインもその動きには反応し、回避した。


 しかし、ルインは知らなかった。

 アカムが地を這うように背の推進装置を使って移動していたが、それだけだと勘違いしてアカムのソレが飛行を可能にすることを知らなかった。

 故に、回避すればそのまま通り過ぎるだろうと考えていたアカムの身体が目の前で急停止したことにルインはこれまでになく驚く。


 そして空中で止まったルインにアカムは大鉈を振り下ろす。

 驚きで一瞬対応が遅れたルインは防御を強いられ、最初の時と同じように大剣で防ごうとする。

 最初の時もダメージこそなかったがルインは決して余裕だったわけではない。

 全力で剣を握り、力を込めてようやく防ぐことができていたのだ。

 だからこそルインはこの一撃も同じように全力で受けた。


 その結果、ルインは再びそれを防御した。

 しかも今度は吹き飛ばされることも無く完全に防いで見せた。


「なっ」


 にもかかわらずルインは驚きの声をあげる。

 なぜならアカムの繰り出した一撃はあまりにも軽いものだったからだ。

 その違和感と第六感が告げる危険が迫っている感覚にルインは即座にその場から逃げようとするが、その逃げようとした脇腹にアカムの左手が突き当てられたかと思えば脇腹を大きく抉り取られた。


「ぐあああああっ!?」

「これもギリギリで避けられたか」


 痛みに絶叫しつつも大きく離れたルインを見て、致命傷を与える前に逃げられたことに楽しそうに笑いながらアカムがそう呟く。

 アカムの左手は肘から先が高速で回転しており、その回転から得られた力によってルインの脇腹を抉ったのである。


 そして当然の如く《クリーン》を常時かけているアカムの身はそれほどの攻撃をしたにもかかわらず全く汚れておらず、その姿に守護者ガーディアンであるはずのルインは戦々恐々といった想いを抱く。


 全く笑えない。

 自身は挑戦者を阻む存在であるはず。

 なのに、蓋を開けてみれば常に劣勢であり追い詰められている。

 むしろ最初に言った自身の言葉の方が笑えてくるというものだ。

 そう思ってしまったルインは思わず自嘲の笑みを浮かべてしまう。


「ぐぅ……まさかここまで一方的にやられるとはな……」

「俺もここまで一方的になるとは思わなかったぜ」


 ルインの言葉に、アカムも苦笑しながら同意する。

 ともすれば煽っているようにも聞こえるその言葉だが、ルインは苦笑するだけで特に反論もしない。

 そんなルインに一瞬落胆するが、まだまだ隠し玉はあるのではと期待を込めて、アカムは緩みそうになった気を引き締めた。


「さて……そうこうしている内に傷は回復したわけだが」

「対象の内包魔力の大幅な減少を確認、どうやら回復には魔力を大きく消耗するようですね」

「ふーん……傷は回復しても魔力なんかは大幅に減ったようだが」

「ッ! それすらもお見通しか……まあ、いい」


 そしてアカムが気を引き締めた直後にはルインの傷もいつの間にか完全に塞がっていて、予想通り高い回復力を備えているのが分かる。

 その際にアイシスがルインの魔力が大幅に減ったことを知らせてきてアカムはそれを聞いて納得し、聞いたことをそのままルインに指摘する。

 あっさり魔力の消費を見破られてルインは目を見開いたが、それ以上狼狽することは無い。


 また、その会話の中での反応を見る限り、どうやらルインにはアイシスの姿は見えていないらしく、声も聞こえないようだとアカムは考える。

 それはそこまで大きく影響しないだろうが、アイシスの存在を知らず悟らずの状態で攻撃を仕掛けてくるならばおそらく隙をついてくるのは自身の隙のみだろうから、万が一の時にはアイシスが何とかしてくれるからそこは安心できると言える。


「このままやっても私に勝ち目はない……ならば、全てを一撃に込めるまでっ!」

「っ!」


 そしてやや離れた場所でアカムがルインの様子を窺っていると、何かを覚悟したような表情でこちらを睨み、そう宣言すると同時にルインは四本の大剣を前に向けてその剣先を重ねる。

 するとその少し前方に巨大な黒い球が発生し、その球体からはかなり強大な力を感じてアカムは目を見開く。


「見たとおり高エネルギー反応……しかし残っていた魔力からは考えられないほどですが」

「文字通り全てを込めたんだろ……命もな」

「なるほど……」


 だが、それを見てもアカムはその場から動かず、アイシスと軽い会話をしていた。

 そしてそんなアカムたちに構うことなく、ルインはその黒い球をアカムへ放つ。

 その球体の速度はある程度速いが、アカムの移動能力があればあっさりと回避できるほどのもの。

 おまけに隙をついたものでもなく正面から放ったのだから、回避することはさらに容易なものである。


 それを放ったルインは命すら大きく削ったからか酷く弱々しい。

 だが、その顔には笑みが浮かんでいた。

 わずかな間しか戦っていないがルインは、アカムという男のことを少し理解していた。

 アカムは力で蹴散らしたいのではなく力を試したいのだ。

 確かな手ごたえを感じたいと思っていると、ルインはそう直感していた。


 そしてここまで一方的なものであったからこそ、アカムはルインの全身全霊の攻撃をあえて正面から受けるだろうという可能性にルインは賭けた。

 そしてその賭けにルインは勝った。

 アカムは軽々避けれるはずの黒い球を見据えてその場から少しも動こうとしなかった。


 それを見てルインは思わず笑みを浮かべる。

 目の前の人間は化物のようだが、それでもこれを受ければひとたまりもないだろうという確信があった。

 そして、黒い球はアカムに迫り、次の瞬間ルインは呆然とする。


「こんなことが……」


 ルインの放った残る全てを込めた一撃。

 ソレが直撃する直前、アカムの身体を魔力障壁が覆ったのだ。

 ルインはそれをみても単なる防御魔法だと思い、防がれるとは思ってもいなかった。

 だが、実際にはそれは膨大な量の魔力であり、ルインの一撃をいともたやすく防いだ。

 いや、あれは防がれたなどという甘いものではない。

 取り込まれたのだ。

 ルインの全力で放った一撃が、まるで吸い込まれるように障壁に触れたそばから取り込まれたのだ。


「……俺の勝ちだ」

「全く……どこまで化け物なのだ……お前は」


 文字通り命を削っていたことと、その命を削っての攻撃をいとも容易く防がれたショックから、ルインは飛んでいられずに地面に降り立つ。

 そのルインに魔力障壁を解きながら同じく地面に降り立ったアカムがゆっくり歩み寄りながら勝ちを宣言し、ルインもそれを認める思いでアカムを化け物呼ばわりする。


 アカムはそれに何も答えず、大鉈でルインの首を落とした。

 ルインは抵抗なくそれを受け入れ倒れると、その身体は消失して後には魔石がただ一つ残された。


「おつかれさまでした」

「ああ」


 それを確認したアイシスの労いの言葉に返事をしつつアカムは魔石を回収してさっさとこの部屋から転移しようと石版触れた。


「あっけねえもんだな……」


 転移の間際、アカムは一度振り返り広間を見ると小さくそう呟いた。


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