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65話 快進撃

 タイラントグリズリーを倒して数分後、アカムは魔物に囲まれていた。


「多すぎだろうがっ!」

「まあ、盛大に叫び声をあげてましたからね」


 タイラントウルフやタイラントスネークなどなど頭にタイラントのつく様々なタイプの魔物に囲まれ、それぞれの攻撃を潜り抜けながら叫ぶように文句を飛ばすアカムに、冷静というよりは呆れた様子で相槌をうつアイシス。

 二人ともこんな状況にも関わらずそこまで焦った様子はなく、むしろ余裕がある様子だ。


 というのも、タイラントシリーズとでも呼ぶべき魔物の特徴がどいつもこいつも巨大であり、荒々しい攻撃を繰り返す物理一辺倒の魔物であるからだ。

 魔法を使ってくるわけでも特殊な能力を使ってくるわけでもなく、ただその巨体から繰り出す物理的な攻撃のみで暴れるだけ、しかもその巨体が仇となり互いの動きを阻害までしている。

 そんな攻撃がいくら集まったところで、飛行能力を得て格段に移動能力の向上したアカムに当たることもなく、そのすべての攻撃を躱し、懐に潜って高圧の電流を流した翼の大剣や大鉈で斬り裂いていく。

 そうしてアカムに斬られた魔物は触れた瞬間にその体内を電流が駆け巡り焼き尽くされていく。


 タイラントシリーズの魔物たちはそのすべてが高い回復力を持っているようだが、アカムが与える電撃は斬り裂く一瞬の間にその回復力を大きく上回るダメージを全体に与えていた。

 故に魔物らはそのまま一方的に切り裂かれ身を焦がし、魔石へと変じていく。


 徐々に数を減らし、気づけば残りのタイラントシリーズはウルフとスネークのみになっていた。

 それまでのアカムの動きこそ素早く細かいものだったが、動き回っていたアカムに疲労の色はみえない。

 それも当然といえば当然だろう。

 アカムの移動に使うのは推進装置に回す魔力であって、アカム自身の肉体が大きく動くわけではないのだから。

 激しい動きの反面、見た目ほどアカムの体力は消費されないのである。


 だが、純粋な体力は魔物も負けていない。

 血を流しすぎたなどという要因が無ければ魔物は何時間もフルに動くことができる。

 そのため、タイラントウルフとタイラントスネークの動きもまた機敏なまま、むしろ他のタイラントシリーズがいなくなったことで阻害するものが無くなりより一層機敏な動きでアカムに襲い掛かってきている。


「どっちも速いし、地上だけなら蛇には今頃捉えられてたかな」

「あの胴体の長さなら普通に、周囲を取り囲めるでしょうからね」


 そんな会話を、二体の魔物を見下ろしながら二人はしていた。

 アカムは上空へと飛び上がっていて、二体の魔物の攻撃もその位置故に、ウルフの方は何度も飛び掛かって攻撃するしかなく結果的にただ一直線の攻撃になりそれにあたるようなことはない。

 タイラントスネークであればまだ、胴体を持ち上げての噛み付きや、尻尾を鞭のように使って攻撃できる分まだマシといえるのだが、どうやら力をただ振るうだけというのはタイラントシリーズ全体の特徴らしく、一回一回の動作が大きすぎてこちらも回避するのに苦労はない。


「このエリアは……まあ、タイラントエリアとでも呼ぶとして、さっさと次の階層へ向かうか」

「一応今は戦闘中です。そういうのは終わった後にしてくださいね」

「っ……あいよ」


 有り体に言ってアカムはここでの戦闘に飽きていた。

 それをアイシスに指摘されてばつが悪そうにして、アカムは未だ単調な攻撃をしてくる二体の魔物を見据えて左腕を前に伸ばす。


 すると左腕の甲に固定されていた翼が分離したかと思えば、大剣形態のまま魔力を後方から噴出させ、かなりの速さで動き始めた。

 おまけに刀身に当たる部分は当然の如く高速で回転していて、そのまま遠隔で操作された翼の大剣がタイラントウルフとタイラントスネークの双方の身体を貫通して人の頭程度の穴をあけていく。

 そして一度貫通するだけに留まらず翼の大剣は何度も何度も魔物の身体を貫き、まずウルフが、その数秒後にはスネークが共に体中穴だらけにして倒れ、魔石へと変じていった。


「よっし、終わったな。にしても一応貫く過程で体内に入ったわけだがやっぱり食われたわけじゃなければアイシスも暴走しないし、嫌悪感も抱かないんだな」

「それはまあ、ただの攻撃ですし……というか、もうそのことは触れないでください。あれは私の中で最悪の汚点です」


 それを確認してからアカムがそんなことを言えばアイシスは軽く睨みながらその言葉に反応する。

 どうやらアイシスにとって精霊になった直後の暴走は苦い記憶らしい。

 これ以上掘り返すと何をされるか分かったものでもないためアカムは肩を竦めるだけで何も言わないことにした。


 そうして今度は左右の腕を分離して散らばった魔石を集めつつ、遠隔で操作していた翼を近くに持ってくると汚れを落とす生活魔法の《クリーン》を使って汚れを落とし、背中に装着するとそのまま呼吸用のエアマスクを装着して、さらに風圧防護壁エアカーテンも展開して高速飛行モードへと移行する。


『んじゃ、さっさとこの次階層へ続く石版に向かうかね』

「魔物の反応は周囲にありませんが奇襲にはくれぐれもご注意くださいね」


 魔石も回収し終え、腕も無事に接続しなおしたところでアカムがそう宣言する。

 先ほど集まった魔物を全て倒したからか、周囲に魔物の姿は無いらしいがアカムはアイシスの言葉に従い、ある程度の緊張感を保ちつつ一気に魔力噴出量をあげて高速で空中を進んでいった。


 その速度はあまりにも速く、その速度から生み出される風圧は地上へと撒き散らされて、地上の草を大きくなぎ倒していた。

 さらにその速度をいくらでも維持できるのだからアカムはあっという間に次階層へ続く白い石版のところまで辿りつく。

 もちろんその間、何度かタイラントシリーズが飛び掛かろうとして来ていたが、その攻撃がアカムのいる空中に届くころにはアカムはずっと先へと姿を消していたため何の障害にもならなかった。


「あっという間だったな……」

「まあ、早歩きでも一日で次階層への石版に辿りつけるのですから当然といえば当然ですね」


 すでに高速飛行モードを解除して、エアマスクも降ろしたアカムが呆れた様子を見せてそんなことを言う。

 そしてアイシスが言うように、迷宮は魔物との戦闘時間を含めても早歩きで一日あれば次階層へ辿り着けるのだ。

 それを非常識な速度で、さらに何の障害も無い空中を飛ぶことで最短距離を進めば、一時間かからず次階層へ辿り着くのも仕方のないことである。

 なのだが、今まで一日かけて辿り着いていたアカムにとって、一時間かからず辿りつけてしまうのは違和感でしかなく、何とも言えない想いに駆られていた。


「これ、やろうと思えば今日中に六十階層行けるよな……?」

「転移した先が洞窟のような空の無い場所でない限りは可能でしょうね」

「ああ、そうか。絶対に空が飛べるわけでもないもんな」


 その速度にふと気づいたことを言えば、アイシスが注釈を入れつつもそれを肯定する。

 言われてアカムも常に飛べるわけではないことに気付き納得する。

 もっとも一度転移部屋に戻って転移しなおすという手もあるので、やろうと思えばずっと空を飛んでさっさと次の階層へ行くことは可能ではあるのだが。


「まあ考えるのは次の階層の手ごたえとか確認してからにするか」

「結果の予想はつきますけどね」


 今考えることでもないというアカムの意見に、呆れた様子を見せるアイシス。

 それはアカム自身思わないでもないことだったが、言ったらおしまいだと肩を竦めてアカムは白い石版に触れて呪文を唱えて次の階層へと転移した。






 結局、次の五十二階層でも大して苦戦することは無かった。

 出てくる魔物はタイラントシリーズのような力任せな敵はいなかったが、魔法や特殊能力も容易く避けることができ、そもそもそれを受けても大したダメージにはならないのだ。

 もちろん生身の部分に当たればそれなりにダメージはあるが、その生身とはアカムの頭と、胴体正面だけでありそこは当然アカムも常に気をかけている場所で、その部位に攻撃が届くことは無い。


 総じて五十二階層でも大して手ごたえは感じられなかったため、アカムはふたたび空を飛び、次の階層へ向かった。

 その後の階層も大きく変わるわけでもなく、確かに魔物はより脅威になっているのは分かったが、結局それだけでアカムの敵ではない。

 何度か戦ってまた次階層まで一気に進んでを繰り返し、アカムは結局その日だけで五十七階層まで辿りついたところで時間も夕暮れとなり地上へ帰還した。

 一日だけで六階層も進めたことは当然その魔石を換金したイルミアにも丸分かりのことで、イルミアは心配よりも先にアカムの非常識さに呆れたような顔をしていた。


 飛行能力はアカムの迷宮攻略速度を爆発的に向上させてしまったようだ。


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