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59話 ギルドマスター

 守護者ガーディアンを倒し、手に入れた機械因子オートファクターについてもとりあえずは保留にして、アカムは五十階層を歩いて魔物を狩った。

 しかし、機械因子オートファクターの使い手であった守護者ガーディアンと比べると五十階層の魔物に脅威を感じることはなく、その点については余裕があることに喜ぶべきか、手ごたえの無さに不満を抱くべきか少し悩むところだったが、とにもかくにも空を自由に飛べるようになるかもしれないという期待感からアカムは終始楽しそうであった。


 そうして五十階層の魔物を文字通り蹴散らしながら先へと進み、アカムは次階層へと転移していつでも五十一階層に挑める状態にしてから地上へと帰った。

 その五十一階層に辿りつくまでにアカムは逸る心を抑えるように見つけた敵は全て狩っていったため時間がかかり、地上に戻ったアカムを綺麗な夕焼けが迎えてくれた。


「この時間は綺麗なんだが、西日がなあ」

「いい加減慣れているでしょうに」

「眩しいものは眩しいんだな、これが」


 綺麗ではあるが、転移部屋の扉を開くと夕陽がちょうど真正面にあるために眩しく、そのことにアカムが文句を言うが、その言葉はアカムが夕暮れ時に迷宮から帰った時は毎回口に出していることでアイシスも少し呆れていた。

 それでもアカムは文句をいうことはやめず、そしてこれからも同じ状況であれば同じ言葉を吐くだろう。


 転移部屋から文句たらたらで出てきたアカムだが、迷宮探索自体は極めて順調でありその身体にも着ている服にも目立った傷は見当たらない。

 異形の腕が目に引くこともあり、アカムは最近特に注目されている冒険者だ。

 そのせいか徐々にどのあたりの階層まで辿りついているのかという情報が冒険者の間でも広がり始めていて、それなり深い階層からほぼ無傷の状態で転移部屋から出てきたアカムをみて驚く者、対抗心を燃やす者、羨望の視線を向ける者と、人々は様々な反応をする。


 中にはアカムの事を知らず、己の名を広めるために突っ掛ろうとする血気盛んな新人の冒険者もいたりするが、残念なことにアカムは見た目には弱く見えるといった風貌はしておらず、かなりの大男であり、悪人面であり、おまけに両腕が噂以上に異形の物であるあるために実際に喧嘩を吹っ掛ける者もいない。

 そうして、日々の生活の邪魔になることはほとんどなく、しいて言えば視線が煩わしいだけであるが、アカムももはや注目されることに慣れてきていて当初ほど周囲の視線を気にすることは無くなった。


 だが、ふと今日手に入れた機械因子オートファクターの事をアカムは思い出して、今度は翼が取り付けられたとなればそれはまた派手に注目を集めるのではないかということに気付く。


「……取り外しはできるって言ってたが、見えないようにするってのは」

「無理ですね」

「はあ……開き直るか」


 慣れたといえども別に視線を集めたいわけではない。

 もちろん周囲に注目されたいという思いも多少無くはなかったが、街を歩けば四六時中誰かしらの視線を感じて悦に浸るほどのものではない。

 そのため、アカムが期待はしていないといった様子でアイシスに聞けば、バッサリと否定されアカムはため息を吐いた。


 それからアカムは首を軽く振ってそんな考えを振り払う。

 そもそも、まだイルミアの許可を得ていない。

 イルミアの裁量次第では翼がつくことはないのだから今からそれについて考えることはないと無理やり思考を切り替えてアカムは周囲の視線を全て無視してギルドへと足を進めた。


 そんなアカムを一人の黒髪の青年がジッと見て笑っていたが、そのことに誰も気づかない。

 そして、誰にも気づかれないままその青年は人ごみに紛れてどこかへと消え去った。




 そうして、道中特に何事もなくアカムはギルドへと辿りつく。

 多少混んではいたがまだまだ本格的に冒険者の増える時間帯ではなかったのか数分待つだけで窓口に立っているイルミアのもとへと向かうことができた。


「よっ!」

「あら、おかえりなさい。ええと、魔石はっと……あーそうだったわね」

「どうした?」


 アカムが無事迷宮から帰ってきたことを祝福しつつイルミアが差し出された魔石を鑑定して突然真剣な表情をして呟く。

 そんなイルミアの様子に急にどうしたのかとアカムは首を傾げる。


「いえ、ついにアカムもソロで五十階層突破したのねって」

「……? まあそりゃ多いとは言わんが、俺だけってことも無いだろ五十階層突破した冒険者なんて」

「残念、あんただけなのよね。ここ百年の間にソロで五十階層を突破したのは。というよりも百年ぶりのソロ五十階層突破者ね」

「は?」


 感慨深そうに告げるイルミアにアカムは首をひねる。

 確かに五十階層は冒険者の中でも深層として認識されており、その階層へ辿り着いたものは決して多くはない。

 それでも多くはないがある程度はいるということでそこまで感慨深くなるものだろうかとアカムには疑問だったからだ。


 そんなアカムの疑問に返ってきた言葉に思わず呆然とする。


「ちなみにそのおおよそ百年前のソロ突破者が……」

「俺だな。いやあ、正直なところ一月前までソロで五十階層超えるのはウルグが先だと思ってたんだがなあ」

「……ハァ?」


 イルミアがさらに続けてその前回の突破者についても告げようとしたところで後ろからそれを遮り言葉を被せてくる者がいた。

 それは冒険者ギルドのトップ、ギルドマスターのエルマンドであった。

 エルマンドが突然現れ、さらに前回のソロでの五十階層突破者だと聞かされてアカムはいよいよ理解が及ばなくなったのか、とても立場が上の者にかけるようなものではない声をあげる。

 もっともアカムは普段からエルマンドに対してやや失礼な物言いをしているので今更だが。


 そして先ほどのイルミアとの会話も、エルマンドの言葉もギルド内にいた冒険者たちの耳に入っていて、一様にアカムの方とエルマンドの方を交互に見ながら驚愕したように口を開けて固まっている。

 その反応は五十階層というのがパーティを組んでいても突破は厳しい関門とされているからこそだ。


 アカムとて五十階層がそれなり深層であることは理解しているが、それでも数年に一度はソロで突破するものもいる程度だろうという認識だった。

 だからこそアカムはここ百年の間ソロでの突破者がいないということをすぐには納得できなかった。


「さて……前ギルドマスターから俺に変わってから百年。その間五十階層をソロで突破するものはいなかったからほとんどの冒険者共は知りもしないだろうが、ソロで五十階層を突破したものにある権利が与えられる」

「……あー、いらん」

「そう、ギルドマスターになる……いらん!?」


 人間、立て続けに驚くことがあると一周回って冷静になれるらしいと他人事のように感じながらアカムは権利が何か聞くまでもなくそれを拒否した。

 アカムは冒険者の常識を知らない面こそあれど、馬鹿ではない。

 会話から権利がなにか察して、ほとんど考えるまでもなく自身の考えを短い言葉で打ち明けた。


 そのアカムの言葉にギルドの誰もが、いやイルミアはやっぱりといった様子で苦笑しているので彼女以外は驚愕の表情で固まった。


「あらら……ギルドマスターの代わりに聞くけどなぜ?」

「だってギルドマスターって要するに今のエルマンドのような状態になるってことだろ? 俺、まだまだ迷宮のより深いところを目指したいし」

「そうね。どこまで通じるのか確かめたい、それがアカムの考えだったものね」


 即答で拒否されるとは思ってなかったエルマンド含め固まった人たちを置いてアカムと受け答えするイルミアはどこか楽しそうに笑みを浮かべていた。

 何事も無かったかのように至って普通の調子で会話する二人にやがてエルマンドも我に返ったのか大きくため息を吐く。


「はあー……まあ、別に強制じゃないし俺も巨人種タイタンだからなまだまだ現役でいられるから問題はないが……百年ぶりの突破者だぞ、盛り上げさせろよ馬鹿野郎。おかげで全部台無しだ」

「ああ、やけに声高に話してたかと思えばそう言うことか。すまんな」

「はあ……反省の欠片もしちゃいねえ。さっさと消えろ」


 やや疲れたようにそう言葉を吐き出したエルマンドに、どこか大々的といった様子の理由に気付きアカムは軽く謝った。

 もっとも口だけの本当に軽いもので、エルマンドは再びため息を吐き虫でも追い払うように手を払って、アカムをギルドから追い出そうとしていた。

 アカムはそれに苦笑ながらも軽く肩を竦めてそれに従いギルドから出ていった。


 アカムがギルドから出てしばらくしてギルド内にいた冒険者たちも再起動して、一気に騒然とする。

 どうやら、ギルドの冒険者たちはあの程度の事で静まり返ることなかったようである。

 

 そしてもちろん冒険者が盛り上がった話題はアカムのことであり、その後酒場で酔った冒険者の口からアカムが五十階層をソロで突破したことがちょっとばかし尾ひれをつけられて爆発的に広まるのだった。


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