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55話 共闘

 アカムが両足の調子を確認して、十二分に力になってくれることを確信してからも闘技場のようなこのエリアで数戦していた。

 その間出てきた魔物は最初に出てきた二種だけでなく、オーガの一種でありハイオーガよりも上位のグランドオーガや、レギオンのスケルトンタイプであるスカルレギオンなどが現れたのだが、両足の力から生み出される速度に慣れたアカムの敵ではなく、どれもあっという間に倒されていた。


 仕組み自体は面白いとは思うが、如何せん歯ごたえがなく早いところ次の階層へ行きたいと考えるアカムだが、今だ次階層へ続く石版を見かけることは無く連戦を続けていた。

 そして再び、アカムは闘技場へと転移するが、今回はいつもと勝手が違うようであった。


「お?」

「は?」


 闘技場へアカムが転移したのとほとんど同時にアカムの隣に魔物ではない別の存在が転移してきたのである。

 その存在とは互いによく知った者同士であり、アカムが転移してきた相手を見て呆然としているように、相手も少し驚いたようにしながらもアカムを見て呆然としている。


「……一応確認しとくが魔物のウェアウルフじゃねえよな?」

「殴られたいのか?」


 とりあえず何か言わなければとアカムが口に出したその言葉に、目の前の狼男――ウルグは眼光を鋭くして睨み付けてくる。

 その様子にどうやら本当にウルグであるらしいと確認したアカムは軽く謝りつつ少し後ろに離れた。

 アカムの言葉が冗談であることはウルグも分かっていることであり、すぐに視線を緩め現状の確認をするために口を開く。


「それで……まあお前もこのエリアでずっと魔物と戦闘してたってことでいいんだよな?」

「ああ。で、また扉開けてここに転移したと思ったらお前が隣に転移してきたと」


 ウルグの言葉に間違いないと頷き、アカムも分かっている範囲で情報を伝える。


 なるほどと頷くウルグだったが、アカムはその様子を見て、分かったような態度を取っているが、その実何も分かっておらず、どういうことなのか考えてすらいないと長年の付き合いから察して少し呆れた視線を送る。


「……なんだ?」

「いや、別に」


 視線に気づいたウルグが訝しみながら聞いてくるが、アカムは何でもないと目を逸らして正面、魔物が現れるであろう場所へと視線を移した。

 アカムとてどういうことなのか分かっておらず、そして深くは考えず魔物を倒せばいいだけのことだと大したことは考えていなかったので人のことは言えないために何も言えなかったのだ。


「魔物、出現します」

「そりゃそう……は?」

「おいおいおい……そのために同じ場所に転移させられたってことか?」


 このエリアがそういう仕組みであることはもうすでに疑いようがないほど経験してきたにもかかわらずアイシスが魔物の出現を知らせてきて、何を当たり前のことをと、アカムは思ったのだが、それを言い切る前に周囲の様子に気づいて声を漏らす。


 今まで闘技場で現れたのは決まって一体。

 もっともスカルレギオンは一体ではあるが複数ではあったのだがそれでも六体ほどだった。

 そのためにアカムはこのエリアでは基本的に一対一なのだろうと予測していたため、目の前の、いや周囲の光景に驚くことになった。

 なぜなら光が正面だけでなくアカムとウルグのいる中心を囲むように全方向で各所に集まり、アカムの姿を模したドッペルゲンガーやウルグの姿を模したドッペルゲンガーを含めた今日ここで戦ってきた相手の全ての姿があったからだ。

 正確にはウルグの姿を模したドッペルゲンガーとは戦っていないが、そんなことに気を回している余裕はアカムには無かった。

 そしてそれはウルグも同様で周囲に現れた多くの魔物の姿に冷や汗を流していた


「数は五十ってとこか……これはきついかもなあ……」

「俺の姿のドッペルゲンガーには気を付けろよ。最低怪力持ちで最悪腕を飛ばしてくるかもしれんからな」


 少々自信がなさげと言った様子のウルグに対し、アカムは敵の集団をハッキリ見て逆に吹っ切れたのかどこか余裕を感じさせる笑みを浮かべてそんなことをいう。

 ウルグはその言葉にアカムの姿をしたドッペルゲンガーに目をやり、手足が金属めいた腕をしていること確認して納得する。


「ふん……ぶっ飛ばしがいがありそうだ」

「言ってろ……そういえばウルグのドッペルゲンガーはいないな。代わりにウェアウルフばかりじゃねえか」

「てめえ」


 そうして確認した姿にウルグが笑みを浮かべてそんなことを言えば、アカムも負けずと返してウルグに軽く睨まれる。

 アカムは笑って肩を竦めつつも視線を周囲の魔物へ向けて集中し始めた。

 それを見てか、ウルグもすぐに集中し始めて腰を軽く落としていつでも飛び出せるように体勢を整える。


 魔物の数が増えても最初は待ってくれることは変わりないようで、今までと同じように束の間の沈黙が場を満たしていく。

 そしてアカムとウルグの両方が同時に動き出したことで沈黙が破られ、大乱戦の幕が切って落とされた。


 アカムたちが動き出したのと同時に、魔物たちも動き出したがその数のせいかもっとも早いウェアウルフさえもその動き出しは遅い。

 そんな魔物の中へ圧倒的な速度でアカムは突っ込み、大鉈で複数の魔物を薙ぎ払いながら、左手でグランドオーガの頭を掴む。


「鈍器にするならこいつが一番頑丈だったからなっ!」


 その動作に多少落ちた速度に合わせてきたウェアウルフを蹴飛ばしながら、左手で掴んだグランドオーガを振り回して、周囲の敵を弾き飛ばす。

 そのまま鈍器にし続けるのかと思えば、アカム姿のドッペルゲンガーへとグランドオーガの巨体が投げつけた。


 投げられたグランドオーガはその巨体からは信じられないほどの勢いで投げられ、その身体には細いワイヤーが繋がっていた。

 そしてグランドオーガの巨体がドッペルゲンガーの他にも魔物を巻き込みながら当たると共に、グランドオーガに触れた魔物が一様に痺れてその場に倒れる。


「まずは、七体くらいか?」

「ええ、そうですね……後ろからウェアウルフ来ますよ?」

「じゃあ次はウェアウルフを使うかっ!」


 調子よく倒した数をざっと計算したアカムにアイシスが相槌を打ち、同時にウェアウルフが来ていることを知らせる。

 その言葉に迷いなく左腕を後ろに伸ばせば、肘から先が分離して射出され、すぐそこまで迫っていたウェアウルフの腹に掌底の形でめり込み、そのまま後ろまで弾き飛ばした。


「うおっ!? なんだ!?」

「もう少し左にずれていればウルグ様の背中に当たっていましたね」

「それは惜しかったなっ!」


 アカムがおおよそ人の戦い方ではない奇妙な戦い方で敵を圧倒している間、ウルグは堅実に己の速さを活かして魔物を翻弄としていたのだが、突如その横をウェアウルフの巨体が猛烈な勢いで通り過ぎて、目の前の魔物を数体巻き込んで吹っ飛ばした光景に驚きの声をあげる。


 その声はアカムの耳にも聞こえていて、そのことにあれこれ話しながらも左腕が無くなったのを隙と見たグランドオーガの一撃を右腕の推進装置を起動しての回避法で躱す。

 右側にはまだまだ魔物がまだ多く固まっていたので、アカムはちょうどいいとばかりに大鉈で身体を隠すように構え、さらに地面を足で蹴って加速する。


 大鉈により、面積の増えたアカムはさながら巨大な砲弾のようであり、その強烈な砲撃を受けた魔物たちは纏めて吹き飛んで倒れていく。

 また、この段階で魔物の包囲網を突き抜けたのだが、その状態で見えるのは何やら一直線に並んでいるようにも見える魔物の姿だった。


「まとめて、消えろお!」


 その光景にニヤリとしつつ、アカムは地面を蹴って急静止しつつ、大鉈を大きく右に振りかぶってから全力で投げた。

 投げられた大鉈は高速で回転しながら猛烈な勢いでその一団へと向かい、多くの魔物を薙ぎ払う。


 ただ普通に投げたのであれば精々最初の二、三体で止まるような攻撃だが、その攻撃は機械因子オートファクターの力をフルに使って投げられた一撃だ。

 大鉈自体の重さと、回転速度などが加わったことで最初の五体までを両断し、六体目のグランドオーガの巨体に刺さった後も、そのままその巨体ごと宙を進んで多くの魔物を巻き込んだ。


「雷撃っ!」


 それからアカムは大鉈につないで置いたワイヤーを通して、その集団に電撃を浴びせて一網打尽にし、あっという間にこの空間にいた魔物の半数が倒された。

 とりあえず一息ついてその様子に満足そうにしていたアカムを襲わんとウェアウルフが迫っていたが、そのウェアウルフの上方には、分離したままの左腕があり、その左腕から出た杭に貫かれて、アカムへの強襲を阻止された。


 その後も休憩の間も無くウルグに向かっていた魔物の内の何体かが襲ってきたが、アカムはそれを全て返り討ちにしながら、ウルグの方を見学する余裕を見せ始めていた。


 残りはウルグが今戦っている八体の魔物のみで、その内訳はウェアウルフが三体、グランドオーガが四体にスカルレギオンのウォーリアが一体。

 八体を同時に相手にしているウルグだが、深・獣化によって強化された速さはウェアウルフすらも翻弄して、それを撃破していた。

 アカムのようにまとめて一気に倒すわけではないが、確実に一体一体を減らしていくその様はなんの問題も無いように見える。

 そして、アカムが感じたとおり、十分後には疲労困憊と言った様子で大きく肩を上下する状態になりながらもウルグが敵を倒しきった姿がそこにあった。


 こうして二人は見事、五十体の魔物との戦闘に勝ち、生き残ったのである。


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