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52話 義足

ちょいグロ注意かも

 アカムが夢の世界へと旅立ったのは夕食を食べるよりも前だったのだが、空腹を感じて起きるわけでもなく翌日の朝まで熟睡していた。

 時間的には半日以上寝ていたことになるのだが、そのおかげか目覚めたアカムに疲労が残っている様子は全くない。


「あら、おはよう」

「おはようさん。朝からうまそうだな」

「おはようございます」


 寝起きでボケっとすることもなく、それなりにシャキッとした様子でアカムが居間までくれば朝だというのにイルミアが料理を作っており、机の上に山積みのパンと野菜と肉がよく煮込まれたスープが置いてあり、アカムはそれを見て嬉しそうに頬を緩める。

 傍にはアイシスもいて、こちらも物欲しそうな目で料理を見ながら、挨拶をする。


 それから料理を見ていたアカムの腹が先ほどまで何ともなかったのにぎゅるると大きな音を鳴らして、空腹を訴える腹に従うようにアカムは少し急いだ様子で席に座る。

 アイシスも便乗してちゃっかり食べる気満々で机の端にちょこんと座れば、アイシスの前にもスープが置かれ、それを用意してくれたイルミアに満面の笑みを向ける。


 二人の様子を楽しそうに見ていたイルミアも一緒に席に付き朝食を取り始めたのだった。




「ふう……うまかった。ごちそうさん」

「はい、どういたしまして」


 朝食という割には量の多かったそれらは10分も立たないうちに二人の胃袋の中に納まって、アカムはうまい飯を朝から用意してくれたイルミアに感謝する。

 アイシスはと言えばある程度満足したところで驚くことに寝はじめていた。

 精霊になったアイシスは睡眠も可能にしていたようである。


 それからアカムは何気なく時間を確認するが、普段迷宮に行く時間よりもずっと遅いことに気付く。

 イルミアがまだ家にいるからそこまで遅い時間ではないとアカムは思っていたので、想定よりも遅いことにすこし驚いてイルミアに目で訴える。


「ああ、仕事の方は今日休みにしてもらったわ」

「そういうことか。でもなんでだ?」

「話しておきたいこと、あるんでしょう?」


 アカムが言いたいことをすぐに察したイルミアが、仕事に行かずまだ家にいる理由を話せは納得した様子を見せる。

 同時にアカムがなぜ仕事を休んだのか聞いてみれば、イルミアはもう分かっているのだと言わんばかりの様子で言葉を返してくる。


 アカムは少し驚いた様子を見せ、イルミアはそんなアカムの様子にクスっと笑う。


「普段のあんたならその日に説明なり相談なりしてくるでしょうけど昨日は珍しく疲れ切ってたようだったからね。あんたが話そうとしてもそれを聞かずに休ませて、今日聞くつもりで休む許可を貰っておいたのよ」

「それはなんというか……ありがとうな」

「お礼なんていいわよ。で、両足分を手に入れたことになると思うけどどうするの?」


 イルミアの言い分に頭が上がらない想いで苦笑してしまうアカム。

 そんなアカムの礼も軽く流してイルミアは早速本題を切り出した。


「まあ、そうだなあ。使いたいってのが本音だな。キリングアイズも少し危なかったしな」

「ほんと災厄なんて言われる存在をよく倒せたわね」

「お蔭で大鉈と前に買ったブーツ以外ボロボロでダメにしちまったからな」


 それに対し、アカムは理由と共に使いたいと意思を伝えれば、イルミアはどこ呆れた様子で言葉を返す。

 アカムも苦笑して、装備がボロボロになったことを話した。


「……ま、別に使うことは文句ないわよ。あんたが別人になるわけじゃないんだし。でもこのままだとあなた、身体全部が金属の身体になっちゃうんじゃない?」

「まあな……もはやここ最近宝箱からは機械因子オートファクターしか出てない現状を考えると何かしらの運命どころか作為すら感じるからな」

「作為ねえ……まあ、もし本当にそんな作為が存在するならそれは神様によるものなのかしらね」


 そう言いながらも実際は全く信じていない様子のイルミアに苦笑する。

 アカムも神の仕業などとはほとんど思っていなかったのでイルミアの言ったことはまずないだろうと思っていた。

 だが、ほんの少しもしかしたらという思いと共に、なぜか一人の男の姿を思い出す。


 アイシスが最初から絶対に勝てないとまで言い切った宝箱の中から出てきた男。

 なぜ今、その男の事を思い出したのかアカム自身戸惑った様子で少し沈黙していた。


「どしたの?」

「あ、いや。まさか本当に神様の計らいなのかって少し考えてただけだ」

「まあ、無いとは思うけどあんたなら仮にそうだったとしても不思議はないわね」


 突然黙り込んだアカムに心配そうにイルミアが声を掛ければ、アカムはハッとして適当に弁解する。

 その答えにイルミアは苦笑して、アカムも釣られて笑ってしまう。


「さて、もうここで使うの?」

「いや。ギルドでもチラッと言ったけけど導入時に無事な手足がそのままボトッっと落ちるんだよ。痛みはそれほどじゃないんだけどさすがに家を汚すのはな……」

「別に落とさずに生身の肉体を変換というか、分解しながら機械化することもできますよ」


 それから機械因子オートファクターをもう使うのかと聞かれ、アカムがそれを否定して、理由を述べる。

 そのアカムの言葉にいつのまにやら目を覚ましたアイシスが注釈を入れてきた。


「……じゃあなんで左腕の導入時には腕が落ちたんだ?」

「その方が手っ取り早いですし、結果に変わりはありませんから」


 アカムが目を細めてそれならなぜと聞けばしれっとした様子でアイシスは答える。

 その言葉に思うところはあったが、実際手足を持ち帰るわけでもないのだからどちらにせよ肉体が無くなることは間違いないのだから反論することもできず、やがて黙ってしばらくアイシスを睨んでいたアカムの方が折れてため息を吐いた。


「じゃあ、このままやるか……」

「あ、流石に足が機械になっていくさまをまじまじと見たいとは思わないから向こうで本でも読んでるわ。終わったら呼んでね」

「へーい」


 とりあえず機械因子オートファクターを使う流れになったことを察したイルミアがそれならと今を後にした。

 完全にイルミアの姿が見えなくなった段階でアカムは前回手に入れ仕舞っていたものと昨日手に入れたものの二つの機械因子オートファクターを取り出す。


「で? これは同時に起動してもいいのか?」

「はい。それでも問題有りません」


 それを聞いて頷いたアカムは太ももを切ろうとする前にズボンを脱いで下はパンツ一枚の状態にした。


「なんか居間でパンツ姿って妙に恥ずかしいな……」

「マスターの顔で恥ずかしがられても気持ち悪いです」

「糞精霊がっ」

「アイシスです」


 毒舌を吐くアイシスに悪態を返しながら、アカムは腕を遠隔操作して大鉈を引き寄せると、先の尖った部分で太ももを斬って二つの機械因子オートファクターに血を付けていく。


『一定量の血液を確認……システムを起動します……マスターを登録……状態スキャン開始……他の因子の存在を確認……確認……確認しました。以降の制御を移譲します』

「なんか確認に手間取ってたか?」

「私が精霊になった影響でしょうね。まあ、無事移譲されましたので導入を始めます」


 起動時の動作が前回と少し違いがあったようだが、特に問題はなく以前と同じ手順で機械因子オートファクターがアカムの両足に沈んでいく。


機械因子オートファクター、分解モードで導入を開始。接続……完了。脚部の分解を開始すると共に変換します」

「っ……! 接続時はやっぱり少し痛いな」


 順調に機械因子オートファクターが導入され、接続時に感じた痛みに少しアカムは声をあげつつも己の両足の変化を見守っていると、変化は一瞬であった。

 なんと脚の皮膚や肉が付け根の部分を少し残して他は全部何か粒子のようなものになって消え去ったのである。

 そして後に残されたのはまるで骨がそのまま露出しているような形で存在する黒い何かであった。


「うげえ……左腕がボトッっと落ちてた時も酷かったが、これはこれで気持ち悪い……」

「マスターにも普通の人と同じ感覚が存在していたことに私は今とても驚いています」

「おい、糞精霊。そのどこかわざとらしい以前の喋り方はやめろ」

「アイシスです……っと変換完了しました」


 それを見て思わず呟いたアカムに、アイシスが気持ち平坦な声で毒を吐けばアカムは視線を足からアイシスへと向け、文句を飛ばす。

 その文句にいつものように受け答えしつつアイシスはササッと変換を終わらせたことを告げる。


「お前……」

「あ、そういうのはいいです。魔力炉接続」

「っ……お前も素直じゃないな」


 どうやらわざと意識を足の方から逸らしてくれたのだと気づいたアカムが何か言いたそうにアイシスを見るが、アイシスはそっけない反応だけ返しさっさと第二段階の魔力炉接続をする。

 それなりに魔力が強制的に吸われる感覚にも慣れたアカムだったが、二つの機械因子オートファクターから同時に吸われるとさすがに少し気持ち悪そうにするが、すぐにケロッとして、苦笑しながらアイシスに言葉をかける。


「精霊になったとしても最高の補助をするのが私ですから。……エネルギー、システム全て異常なし。どうぞ」

「おう」


 照れたようにして、そんな言葉を言いながらとりあえず動かせる状態になったことをアイシスが伝える。

 アカムはそれに軽く返事をして立ち上がり、屈伸したり軽くジャンプして動作を確かめた。

 その際腕と同じ感覚で膝辺りから分離できるのかと試しても見たのだが、分離することはできず、アカムは首を傾げる。


「脚を分離したら普通、転びますから、分離機能があるわけないでしょう。マスターは馬鹿なのですね」

「……うるせえ」


 その様子にアカムが何をしようとしていたのか察したアイシスに説明されれば、確かにと納得してしまったためアカムも大きく言い返すことはできなかった。


「というわけで、脚は腕とはまた少し違った特徴がありますので……知識のインストールを開始」

「ッ――――――!!」


 そしてアカムが何か言うよりも先にアイシスは必要な知識などのインストールを開始し、アカムは突然の頭痛に声も出せずに固まってしまう。

 そして大体三十秒で知識の埋め込みは終了した。


「……くそ……前回は無かったから油断してた……」

「おつかれさまです。まあ、最後に補完作業が残っているのですが、そちらはもう三回目ですからね。二つ分同時に補完するとはいってもそこまで苦痛ではないはずです」

「おう……じゃあ、さっさと頼む」


 ようやく痛みから解放されたアカムが、言葉を零しアイシスも労わった。

 それから最後の行程である耐久力を補うための補完をアカムの許可を得て開始する。


 アイシスが言っていた通り三回目に味わう補完行程は苦痛でもなく、どちらかと言えば内側からぽかぽかと暖まる感じでどこか気持ちいいものだった。

 それは既に二回補完が完了しているために補完すべき部分が少なくなっていたからである。


「これで機械因子オートファクターの全導入過程を終了しました」

「おう。アイシスもお疲れさん」

「別に疲れてはいませんけど……ありがとうございます」

「こっちもありがとな」


 そうしてアカムの両足も機械の足へと代わり、導入を全てやってくれたアイシスをアカムは労う。




 ついに両足も機械因子オートファクターとなったアカムの表情は非常に明るく、まるで新しい玩具にワクワクとした子供のようであった。


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