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50話 面倒な説明

 エルマンドに声を掛けられ仕方なく事情をある程度伝えるために足を動かして近くまで行く。


「お主は最近噂の人か……」

「これはまた……」


 近づいていくと先ほどまでエルマンドに報告していた二人がアカムを見て呟き、彼らのパーティメンバーであろう冒険者も軽く目を見開きながらアカムに注目していた。


「その様子だとなにか知ってそうだな」

「まあな。とりあえず騒ぎ立てることでもないとだけ言っておこう。詳しくは騒ぎにしたくないから続きは奥で頼む」

「そうか……またお前か……分かった。奥の部屋に行こう」


 アカムの表情からどうやら何かしらの情報を持っていると確信したエルマンドに、アカムはとりあえず問題がないことだけ伝え、場所を移そうとする。

 エルマンドはその様子に察したようで呆れた表情でアカムを見ながら、その意見を受け入れて奥の部屋へと向かう。


 後から来たアカムが勝手に話を進めてしまったが先に来ていた冒険者たちはどう思っているのかといえば特に不満を抱くでもなく、それどころかさっさとその情報を聞くために我先にとエルマンドを追い越して部屋まで向かっていた。


 先に入ったところでアカムが行くまで結局情報は得られないのだがよほど迷宮での揺れに不安を感じていたのかそのことにも気づいていないらしい。


「まったくこれだから冒険者ってやつは」

「あんた一応その冒険者のトップだろうが」


 追い越す際に思いっきり壁に押されたエルマンドが眉を顰めて文句を言うが、アカムは苦笑しながらも突っ込みを入れる。

 それからアカムは奥の部屋に行く前に窓口にいたイルミアを見ると声を掛ける。


「イルミアも来てくれ。ああ、魔石の鑑定機も持ってきてほしい」

「鑑定機を? 分かったわ」


 アカムの呼びかけに首を傾げるがエルマンドが頷いているのを見て疑問は横に置き、イルミアは鑑定機を持ってアカムのところまで向かう。


「……あんたがやったの?」

「ま、そういうことだな」


 アカムの近くまで来て周囲に聞こえないようにイルミアが小声で聞けば肩を竦めつつもそれを肯定する。

 イルミアはそれを聞いて呆れると共になんだかおかしくなって楽しそうに小さく笑みを浮かべていた。


 それからアカムが奥の部屋へと入ればすでに先の冒険者たちはそれぞれ席に着いていて、早く教えろとでもいうような真剣な目で見てくる。

 教えるのはいいが納得させられるだろうかと思いつつもとりあえずアカムは口を開く。


「まず初めに言っておく。今回の揺れに関しては別に迷宮で異常があったというわけじゃない」


 なんにしてもまずは問題がないことを伝えなければとアカムがそう言えば、その言葉を全て信じたわけではないにせよ多少は安心できたのか冒険者たちの雰囲気が少し緩む。

 こういう未知の何かに迫られた時、他人にハッキリと断言されると人は案外安心してしまうものだ。


「それで、揺れの原因だが……まあ信じられないだろうが、俺だ」

「お主が?」

「どういうことよ」


 続くアカムの言葉はさすがに信じられなかったのか先ほどもエルマンドに話していた二人が疑問を口に出す。

 それは彼らのパーティメンバーも同じのようで小さく頷きながらアカムを見ていた。


「どう説明したものか……とりあえずイルミア、この魔石を鑑定してくれないか」

「そのぐらいお安い御用よ」


 少し考えてからアカムは魔石を取り出してイルミアに渡す。

 冒険者ギルドにある魔石鑑定機は、その魔石がどの魔物の物なのかを判別できる。

 アカムは説明の際にとりあえず何と戦っていたのかを分かりやすく証明するために鑑定を頼んだのである。

 そしてアカムが渡した魔石はもちろんキリングアイズの物であり、それを鑑定機によって確認したイルミアは目を見開いて固まる。


 その様子にアカムはしまったと思った。

 イルミアは見た目こそまだ変わらないがそのお腹の中には新しい生命が育まれている。

 そんなイルミアにわざわざ精神的なショックを与えるような真似をしたのは失態であった。


 どの道伝えていたことではあったが、不意打ち気味に見せる必要はない。

 そう後悔していたアカムだったがイルミアが固まっていたのはほんの数秒のことですぐに呆れた目でアカムを見てくる。


「……キリングアイズ。よくもまあ生き残ったばかりか倒せたわね」

「「「っ!?」」」


 呆れた声で鑑定結果を告げて、無事戻ってきたことを祝福するイルミア。

 無理に動揺を隠しているでもなくただただ呆れていると言った様子のイルミアに、アカムはなんとなく大丈夫だと思った。


 そんな二人を置いて、鑑定結果を聞いた他の面々は一様に驚愕の表情で固まっていた。

 キリングアイズ。

 遭遇式エンカウントタイプのエリアで階層問わずに極々稀に現れるとされる凶悪な魔物。

 その強さはまさに桁違いであり冒険者の間ではキリングアイズに出会うことはほとんど死を意味していて恐れられている。


 大昔には倒されたこともあるという記録もあるが、ここ百年の間では倒されたという記録は一切ない。

 ある意味では伝説の魔物であり、そんな魔物の魔石があると言うことは疑いの余地なく倒したということで、そのことに皆一様に驚いていた。


「な……」

「キリングアイズを……?」

「そんなの……」


 驚いている者の中にはそれなりに付き合いも長いエルマンドの姿もあり、どうやら揺れの原因がアカムであることは察していたが、キリングアイズを倒したと言うのは予想外だったらしく小さく声を漏らしている。

 リーダー役を務めているであろう二人も信じられないといった様子で声を漏らしているが、何よりも確かな証拠があるために否定できず口をパクパクとしている。

 他の冒険者達に至っては完全に絶句してポカーンとしている。


「やっぱ大事かあ……」

「当然でしょう」


 そんなエルマンド達の反応に疲れたように呟くアカムに苦笑しながらイルミアが相槌を打つ。


 そんなアカムの様子に元冒険者とはいえギルド職員が平然としているのを見て驚愕に固まっていたことを恥ずかしく思ったのか固まっていた者たちはハッとして我に返る。


「それは本当であるか!? いや魔石がある以上疑えない……どのように倒したのだ!?」

「いくら最近、勢いがあると噂になってるからってキリングアイズを倒すなんて……それにあなたソロよね!?」


 我に返ったら我に返ったで今度は叫ぶようにアカムを問い詰める二人にため息を吐く。

 今日は既にかなり疲れているというのに本当に面倒だとアカムは感じていた。


「まあ、予想はつくだろうから言っておくが概ねこの腕のおかげってやつだ」

「そう言えば異形の腕が有名であったな……」

「それは明らかに異界迷宮からのアイテムね」


 それでも教えなければずっと面倒なままだろうとアカムはある程度話すことにした。

 その話を聞いて冒険者たちは先ほどまでの動揺した様子から一転して、物欲しそうな雰囲気を醸し出す。

 それも当然のことだろう。

 アカムの言葉を信じるのであればその腕は伝説の魔物をも倒せる力を秘めているのだから。


「あー期待しているようだけどな……かなりの魔力食うからなこれ。俺は体質上問題ないが、大魔法使いでもフルスペックで使ったら三十分で魔力切れだ。それにその程度の魔力じゃキリングアイズを撃破したときの攻撃は使えないしな」

「それほどの魔力消費にお主は耐えられると?」

「ああ、どういえばいいか……」


 その雰囲気に苦笑しつつアカムは機械因子オートファクターについての問題を告げる。

 それは機械因子オートファクターを独り占めしたい気持ちも少しはあったが、もし手に入れた時にどうするか判断するためにデメリットについて知っておいた方がいいだろうという判断からだった。


 だが、それが事実だと分かっているのはこの場ではアカムとイルミアだけであり、冒険者たちはいまいち納得できないようだった。

 そのためアカムは頭を掻いて少し考えると納得させられるかもしれない手段を思いつく。


 その思いついた手段をアカムは心の中でアイシスに頼むと、即座に頼んだ通りのことをしてくれる。


「何を!?」

「この魔力量は……」

「落ち着け。魔力を放出しているだけだ……で、今放出している量が機械因子オートファクターをフルスペックで扱い続けるのに必要な魔力の量だ。俺はこの量なら使う傍から魔力が回復できるから耐えられるってわけだ」


 アカムが頼んだのは機械因子オートファクターを機能なしにただフルスペックで扱う際に必要なだけの魔力を放出してもらうことだった。

 それは魔力障壁にこそならないが、どんなに魔力に対して鈍い感覚の持ち主であっても圧迫感を受けるほどの膨大な量の魔力であり、冒険者たちは一様に警戒心を高める。

 アカムはその様子に苦笑しつつ説明を続けた。


「も……もういい! 分かったからやめてほしいのである!」

「こんなの……」

「うぅ……」


 その魔力を感じ、説明を聞いても半信半疑だった冒険者たちだったが、アカムがその後もずっと放出をやめないのに全く堪えた様子を見せないことから信じざるを得なくなり、濃い魔力にあてられてか顔色を悪くして放出を止めてくるように頼み込む。


 それを受けアイシスも放出をやめるとアカムのほうに向きなおり、悪戯が成功した子供のように意地の悪い笑みを浮かべる。

 そんなアイシスにアカムと、それを横から見ていたイルミアは苦笑するのだった。

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