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5話 報告と説明

 アカムはとりあえず宝箱に罠が仕掛けられていたことから話しはじめた。

 宝箱自体は普段見つかるものと特に違いは見られなかったこと。

 仕掛けられていた罠は目に見えず、厳密に確認したわけではないが少なくともざっと見たところ、何も残っていなかったので物理的なものではなく、魔法的な罠だったと推測できることを伝えるとエルマンドは難しい顔をして悩んでいるようだった。


「宝箱に罠……それも魔法的なものか……他に報告は上がってないがお前が嘘を言うとも思えんからな。他の連中にはギルドから注意勧告を出しておこう。にしてもよくそんな罠を回避できたな」


 ぶつぶつと考えを口に出して悩んでいたエルマンドだったが、最後にはアカムの言葉を信じて注意を呼びかけることを約束し、アカムの無事を称える。

 だが、その言葉にアカムは気まずそうにして苦笑いを浮かべるのだった。


「どうしたの? 何かあったの?」

「いやな……回避できたわけじゃねえんだ」

「え? だって……ッ!?」

「っ!?」


 そんなアカムを心配してかイルミラが声をかけてきたのでアカムは正直なところを話すことにした。もちろんそれを話せば余計に心配をかけることになるだろうが、それよりもイルミアに隠しておきたくはないという想いの方が強かった。

 そして言葉だけでは信じてもらえないことは分かっていたので義手の擬態機能を解除して見せると、イルミアも驚いたように両手で口元を抑える。

 エルマンドも目を見開いて驚いていた。


「それは……金属の腕?」

「ああ、罠で右腕を失くしてな……で、その宝箱に入ってたのがこれだ」

「……それはどうなの? 不便? 冒険者としてはやっていけないとか?」

「い、いや、見てくれはこれだが……この通り自由に動かせるし違和感もほとんどないからな。明日ウルグの奴と一緒に迷宮で慣らす程度に戦ってみるが多分大丈夫だとは思うぞ」


 驚いていたイルミアはすぐに気を取り直し、義手になったことで何か不便なことはないのかと悲観な様子を一切見せずただ真剣に聞いてきて、そんなイルミアの反応にアカムはやや気圧されながらも義手は思い通りに動かすことができ、おそらく戦うこともできるだろうと伝えればイルミアはなるほどとしきりに頷く。


「ならよかったじゃない。まったく変な顔するから無駄に心配したじゃないの」

「へ? それだけか?」

「なに? 腕失くしてどうすんのよ! とか言うとでも思ったの? なんでそんな追い打ちかけるようなこと言わないといけないのよ。冒険者に怪我は付き物でしょうが。命あったら問題なし。おまけに代わりの腕も見つかったって言うのなら万々歳ね」


 そしてニッっと笑って何も気にしていない様子でそういった。

 その答えはアカムも予想だにしていないもので口を開けて固まっていて、そんな様子がおかしかったのかアカムの腕を見て何も言えずにいたエルマンドが押し殺したような笑い声をあげる。


「クク……さすがは『剛剣』と呼ばれた女剣士だな。お前も大変だな、奥さんがこんなに強いと」

「え、……ああ、いや全然大変なんかじゃない。こうしていつも俺を支えてくれる最高の嫁だぜ」


 エルマンドの言葉にどこかへ飛び去っていた思考が戻り、嬉しそうに笑いながらアカムは惚気る。


「ええ、感謝しなさい。こんないい女、滅多にいないんだから」

「ああ、感謝してるよ。いつもな」


 そんなアカムの言葉にイルミアが胸を張ればアカムは苦笑しながらも歯の浮くような台詞を立て続けに吐き出した。

 それを目の前で見せられたエルマンドは気持ち悪いものでも見るかのように目を細めていたのだが二人がそれに気づくことは無かった。

 一方、その空気を作る要因の一つにエルマンドの言葉もあったことに彼も気づいていない。


「それにしても金属の腕っていったいどういうものなの?」

「んーこいつが言うにはオートファクターって呼ばれるものらしいけどよくわからん。できることできないことは明日確かめるつもりだ」

「こいつ……?」

『基本的にはマスターの意思のままに動く機械の腕であり、それこそ腕が機械化しただけと考えていただければおおよそ間違いではありません。実際には様々な機能がありますがそちらも非常に有用なものであることは保証します』

「? 誰?」

「だ、誰だ!? どこから!?」


 二人だけの世界から帰ってきたイルミアは金属の腕がどういうものなのか気になるようで質問するのだが、アカムも未だ与えられた知識を完全に理解しておらず大雑把にしか答えられない。

 その時アイシスについても少し触れたのだがAIシステムを知らないイルミアにしてみればなんのことかさっぱりで首を傾げるのだが、続いて聞こえてきた平坦な声にイルミアも辺りを見渡し首を傾げる。エルマンドは突然聞こえてきた声に即座に立ち上がり戦闘態勢を取っている。


『急に声を出すな馬鹿』

『馬鹿ではありません。アイシスです。こういうのは実際に見て聞いた方が早いでしょう。二人にはある程度、正確な情報を知っておいてもらう必要があるものと判断します』

『まあ、確かに』


 そんな二人の様子に、まあそれも当然の反応かと思いつつも、アカムは心の中で急に声を出すなとアイシスに文句を飛ばす。

 それに対してアイシスは一応の考えがあったということを頭の中に直接響くような声で告げ、その考えにアカムも一応納得する。

 そしてなんとなくできるだろうと思って心の中で言った言葉に反応が返ってきたことから心も読まれるのかと憂鬱になるアカムだった。

 なお、アカムがなんとなくできるだろうと感じたのは既にそういった知識が植え込まれているからで、イルミアたちに悟らせずにアイシスに注意したいという思い、無意識でその知識を引き出した結果であった。

 そしてこれはアカムが伝えようと思わない限りアイシスに伝わることは無いのでアカムの心配は無用のものであったりする。


『マスター、手の平を上に向けて開いてもらえませんか?』

「ん、こうか?」


 それからアイシスは周囲にも聞こえるようにアカムにお願い事をする。

 その言葉に疑いなくアカムは手を少し前に出して手のひらを開く。

 すると手のひらには水晶のようなものがあり、それが光を発したかと思えば手のひらの上にイルミアをそのまま小さくしてメイド服を着せたような姿のアイシスが現れた。


「は?」

「なっ!?」

「えっ? なに……私?」


 それを見た三人、アカムも含めてその場にいた全員が驚いてそれぞれの反応を見せる。

 アカムはなんだこの機能と呆れたように声を漏らし、エルマンドは突然現れた小人の姿に敵に忍び込まれたと思い込んで声をあげ、イルミアは自らの姿に酷似していることに困惑する。


『イルミア様、エルマンド様。初めまして。私はマスターが機械因子オートファクターを扱う上での補助の役目を担っている擬似人格、アイシスと申します。以後お見知りおきを』

「あ、うん。よろしく?」

「いや、なんだそいつは!? 敵か!? 一体どっから現れやがった!?」

「めんどくせえ……」


 スカートの端を両手軽く摘み上げるようにして挨拶をするアイシスに、イルミアは困惑したまま挨拶を交わし、エルマンドは混乱するばかり。

 そんな状況にアカムは右腕を動かさないようにしながらも、背を深くもたれながら天を仰ぎ左手で目元を覆いながらため息を吐く。

 とはいえこの状況をほったらかしにはできず少なくともエルマンドは落ち着かせなければならない。

 そう思いアカムはなぜか重くなった気がする口を開いた。


「あーエルマンド、とりあえず落ち着けって。害はねえからさ」

「いや、害はねえって……ああ、いやそうだな。とりあえず落ち着かんとな……すまない」

「まあ、俺もっていうかなんていうか……すまん」


 アカムの言葉にも反射的に否定の言葉が口からでそうになったのを呑み込んでゆっくりと構えを解いてソファへと座りなおすエルマンド。

 その姿は老人が羽目を外して体力を消耗したかのようだった。

 実際のところエルマンドは三百歳を超えているがそれは巨人種タイタンとしてはまだまだ若いと言えるぐらいで人間種ベーシスに換算すればおおよそアカムより少し歳を取っているかといった程度であるため、エルマンドのその疲れたような様子は精神的なものだ。

 そんなエルマンドの姿にアカムも少し申し訳ない気持ちになった。


「で、なんで私の姿をしてるわけ?」

『紆余曲折ありまして私はマスターの記憶を一部読み取っています。その中には何よりも重要な記憶としてイルミア様の姿がありましたので便宜的にお姿を借りさせていただきました』


 そんな二人をチラッと見ただけで無視したイルミアが、なぜその姿なのかをアイシスに問いただし、アイシスは大雑把にその理由を説明する。


「そう……まあ、いいか。とりあえずあなたはアカムの力になってくれる存在ってことでいい?」

『はい。その点は間違いありません。私の存在理由にかけて、マスターの力となり、マスターを守らせていただきます』

「なるほど。分かったわ。この馬鹿にはちょうどいいパートナーかもね。私の代わりに守ってやって」

『了解しました』


 理由を聞いたイルミアは少し考え、すぐに気にすることではないと考えるのをやめて、アイシスに確認を取る。

 それに対してアイシスははっきりとした答えを宣言すればイルミアは満足したように笑ってアカムのことを頼むと当人の前で言ってのける。

 アイシスはまるでそれが絶対の命令であるかのように返事をして、心なしか背筋を伸ばして直立していた。


 なぜかあっさりと受け入れたばかりか仲が良くなっている気がする二人にアカムは首を傾げるが仲良くなることに問題はないだろうと深くは考えないようにした。


「じゃあ、伝えることは伝えたからな、罠の件は頼むぜ」

「あ、勤務時間もう終わってるから一緒に帰りましょ。ちょっと待ってて」

『エルマンド様、私が言うのもなんですがおつかれさまです』


 疲れ切ってソファから動かないエルマンドを他所にアカムは立ち上がり伝えることは伝えたとして帰ろうとする。それを見てイルミアもすでに自分が働く時間は過ぎていることを確認してアカムと共に帰るための支度をするため部屋から出ていった。

 最後に自分のことを労わってくれたのが、どっと疲れた元凶であるアイシスだけだったことにエルマンドはわけもわからず悲しくなって大きくため息を吐くのだった。

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