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49話 諦観

 キリングアイズを倒し、四つ目の機械因子オートファクターも手に入れたアカムはさすがに疲労が激しいために地上へと戻ることにした。

 とりあえずアイシスに石版を探してもらえばキリングアイズの攻撃を魔力障壁で防ぎ続けた場所から右側に50mほど離れた位置に石版があると伝えられる。


「十分逃げられたな」

「教えていたとしてもどうせ逃げなかったくせによく言いますね」

「魔力収束砲の事を教えられてなければさすがに逃げてたぞ」


 それを聞いて思わず口から出た言葉に呆れながらアイシスが突っ込みを入れる。

 だがそれはキリングアイズに対する対抗策があることをアイシスが伝えたからであって、あのまま打つ手なしと判断したらアカムは全力で逃げるつもりであった。


 強敵との戦い自体は嫌いではないが絶対に勝てない相手に命失うまで戦い続ける気はさらさらない。

 状況的に逃げられないと言うのであれば最後まで抗うが、逃げることが可能であれば生き残るべく全力で逃げることもアカムは厭わない。


 その為アカムはジッとアイシスを睨めば、アイシスはスッと視線を逸らした。


「ま、まあ結果的には無事に倒せたわけですし?」

「まあ、そうだな……そもそも最終的に決めたのは俺だしな。だが次の機会があってもその時は逃げるぞ。魔力収束砲で倒すことはできるが次も耐えられるか分からん」


 アイシスは言い訳にもなってないことを呟き、アカムも睨むのをやめて水に流し少し話を変え、もしも次があったらどうするか意見を述べる。

 その意見はかなり消極的にも思えるが、意識を失う直前に感じた魔力収束砲の反動はそれだけ強力なものだったのだ。


 結果的には軽傷程度に抑えられたが、反動を感じた瞬間アカムは自分の身体が粉々になったのではと錯覚していた。

 その感覚はアカムに深く印象付けられて、そのためにしばらく使おうとも思わなかった。


 アイシスもまたその意見には賛成であった。

 というよりも魔力収束砲を使わないことに賛成だった。

 肉体的にも精神的にも負荷の大きい代物であることは間違いないからだ。


 実のところ魔力収束砲について実際に使われたというデータは存在していなかった。

 アイシスの知識の元は機械因子オートファクターに搭載されているものだが、その中に機能の説明と計算上のデータはあっても実測値は無く、今回もあくまで計算上の数値を元に耐えられると判断したのだ。


 その結果、アカムは耐えきったが決して負荷が無いでもなかった。

 そして魔力収束砲も威力が高すぎて扱いに困ることが判明したためアイシスもこれは使わない方がいいということで頷いていた。


 それからアカムは大鉈を拾ってから石版のところへと向かう。

 その短い間に魔物に出会うこともなく無事辿りつき、地上へと帰っていった。






 地上へと帰ってきたアカムは大鉈を鞘にしまい背負うと転移部屋の扉を開けて外へ出ようとする。

 が、ふと気になったことがあり自分の姿を確認して顔を顰める。


「どうしました?」

「いや、こんだけボロボロだと目立つかとな」


 着ていた革鎧はボロボロで当然その下の服もボロボロで所々肌が露出している。

 露出していると言っても腹や胸の一部であり、大事な部分が露出しているわけではないから問題がないと言えば問題はない。

 実際、異界迷宮にいる冒険者の中には常に上半身裸で筋肉を見せつける暑苦しい輩もいるのだから。


 だからアカムが気にしているのは服や装備は大鉈とワイバーンの革ブーツ以外はボロボロなのにその露出した肌には特に傷が見当たらないと言う点だ。

 目が覚めた時はまだ多少傷はあり、血で汚れてもいたがアイシスが治癒能力を高めてくれていたこともあって転移する頃には傷も完治していた。

 汚れ自体もある程度落ち着いたところで日頃の癖から《クリーン》をかけ始めたためきれいさっぱりと落ちている。


 そうなると今のアカムはやたら小奇麗で、怪我もないわりにボロボロの装備を身に着けている状態で、それは周囲の人に違和感を与えることになる。

 しかも今はキリングアイズという想定外の魔物との遭遇からかなり早い時間に地上へと帰還してきているため、人通りも多い。

 そうなると自らの姿がまた別の変な噂に繋がるかもしれないとアカムは危惧しているのだった。


「替えの服があるわけでもないのですから、ここで躊躇したところでどうしようもありませんよ」

「……分かってるよ」


 アイシスの言葉に少しムスッとしながらも、実際アイシスの言う通りであるためアカムはため息を一つ吐いて、諦めて転移部屋の扉を開いた。

 やはり、こんな早くに迷宮から、それも直通部屋から出てくる冒険者がいるのは珍しいことなのだろう、丁度周辺にいた人の視線がアカムに集まり、その様相に驚いた顔をする。


「おい、アカム! なんだその様は」

「ウルグか」


 その人々の反応を面倒に感じつつもいざギルドへと一歩踏み出したところで横から声がかかる。

 声のした方向を向けば、そこには見知った顔であるウルグが、眉を顰めながら立っていた。


「怪我は……ないみたいだな」

「あったけど擦り傷程度だったからな」

「それでも痕ぐらいは……まあお前の異常性は今更か」


 ウルグが心配したようにアカムの身体を見て、再び眉を顰める。

 アカムの説明にも怪訝な目を向けるが急に表情を緩めると失礼なことを言う。

 アカムも失礼なとは思ったが否定しきれないとも思ってしまったため何も言い返さなかった。


「で、何か用か?」

「いや、ちょっと前の揺れってお前の仕業じゃねえかなって。で、実際どうなんだ?」

「揺れ?」


 ウルグは迷宮で大きく揺れたのはアカムの仕業と疑っていてそれを確かめるためにいつ出てくるかも分からないアカムを待っていたのだ。

 とはいえウルグは獣人種ビーストであり、種族的に直感力が強くすぐに来るだろうとなんとなく感じていたからこその選択で、ウルグの行動は正しかったと言える。


 そんなウルグから問い詰められるアカムだったが、揺れについては何も知らない。

 その揺れの原因である魔力収束砲が着弾したときアカムは意識を失っていたのだから。

 だが、少し考えるとその原因について推測することはできた。


「アイシス」

「マスターが考えている通りです」

「っ……突然現れるなよな」


 それを確認すべくアイシスの名を呼べばすぐに答えが返ってきて、その際はウルグにも聞こえるようにアイシスも姿を現したのでウルグは一瞬驚いて文句を飛ばす。

 そんなウルグのことなどスルーしてアカムはまた問題が増えたと肩を落としてため息を吐いた。


「まあ、その揺れとやらは俺の仕業らしいな」

「らしい?」

「ああ、その瞬間は意識失っていたからな」


 首を振りつつ先ほどのウルグの問いに答えたアカムは呆れるように苦笑を浮かべていた。

 それと同時に告げられた言葉に大丈夫なのかと一瞬考えるウルグだったが今目の前に無事にいるのだからそれは今問うことでもないと首を振り、与えられた情報にやはりと納得する。


「まあ詳しく説明するとだな……いや、気になるならギルドに来てくれ」

「え? ……ああ、確かにここで話すことでもなかったな」


 とりあえず詳細を語ろうとしたアカムだったが、周囲を見てそれを止める。

 ウルグも釣られて周囲を見てやたらと注目されていることに気付きその理由に思い当たり苦笑する。


「じゃあギルドにいくか?」

「いや、別にいい。とりあえず迷宮で感じた揺れの原因が分かったからな。また迷宮に潜るとする……なんでもかんでも聞いて悪かった」

「気にすることないんだがな」


 俺が気にするんだと苦笑してウルグはそのまま自分の転移部屋へと向かって歩き出した。

 お人好しだなと思いつつその背中を見送ったアカムは一度身体を伸ばしてギルドへと足を向ける。

 道中、あまりにも視線が集まって気になるため途中で服を売っている店に入るとボロボロの革鎧や服を処分し、適当に服を買って着替えた。

 そのおかげか先ほどまでのように奇異の目で見られることは無くなりアカムはそのことにホッとしつつもギルドへと辿りついた。


 そしてギルドの扉を開け中へ入ると何やら数人の冒険者が押し寄せて騒がしくなっていた。


「本当に! 本当に我らが迷宮で歩いていたら突然地震が起きたのである!」

「私たちも魔物を倒し終わったと思ったら大きな揺れを感じたわ! こんなの異常よ!?」


 どうやら二組のパーティのリーダーが慌てた様子でギルドマスターのエルマンドに何があったかを報告しているようだった。

 そしてその内容を聞いてアカムはうわっとでも言いたそうに顔を歪める。


「おい、アカム! お前も昨日時点で45階層まで辿りついてたな……もしかして今日は46階層にお前もいたんじゃないか? それなら何でもいいから46階層で起きた謎の地震について何か気づいたことがあれば教えてくれ」


 アカムがギルドにやってきたことに気付いたのかエルマンドが大声で叫ぶ。

 何か咎める様子でもなく純粋に原因を調べるために聞いただけのようだが、アカムはそれを聞いて一層顔を顰めた。


「ああ、面倒なことになった」


 そんなことを小さくぼやきながらもアカムは諦めることにした。

 とりあえずこれ以上大きな騒ぎにはならないことを祈りつつ、大きくため息を吐いてからアカムはエルマンドのところまで歩き出す。


 そんなアカムを受付から見ていたイルミアはその様子に色々と察してしまい、頭に手を当てて、こちらも小さくため息を吐いていた。


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