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48話 戦いの結末

 純粋な魔力の塊と巨大な光線が空中で衝突する。

 それらはどちらも巨大なエネルギーを秘めており、もしそれを見ているものがいれば、どちらも押し負けるとは考えず、ある程度均衡するのではと考えただろう。


 だが、実際はそうはならなかった。

 一応均衡した瞬間はあったが、それは巨大な魔力同士が衝突して一秒にも満たないほんの一瞬のことで、片方の巨大な魔力がもう片方を呑み込むとそのまま突き進んだのだ。


 そして巨大なエネルギーを秘めた光の弾はまるで全てを呑み込むが如く進み続け、やがて階層の天井へとぶつかったことでその魔力は一気に崩れた。

 崩れたソレは巨大な魔力の塊であり、秘めたエネルギーは尋常なものではなく、崩れたことにより周囲に溢れる魔力の濁流はそのまま大爆発を起こし、その衝撃は四十六階層全体を揺らすほどのもので、その時に四十六階層にいた数人の冒険者は突然の揺れに激しく動揺する。


「っ!? な、なんだ!? ……まさか、あの野郎か」


 その中には改めて迷宮へやってきていたウルグの姿もあり、最初こそその揺れに驚くもののすぐに常識外れの友人のことを思い出していた。

 両手が異形の腕になったその友人であればもしかしたら迷宮全体を揺らすこともあるかもしれない。

 根拠はなくともウルグはそう思えてならなかった。






 巨大な魔力同士がぶつかり合い、一瞬の間に決着のついたそこには二つの存在の姿があった。

 片方は全身をボロボロにして地面に仰向けに倒れている。

 もう片方はある意味立ってはいたが、身体の上半分がきれいさっぱりと消え去っていた。


 やがて、その立っているソレは徐々にその身体が消えていく。

 そして後に残ったのは一つの魔石と宝箱だ。


 キリングアイズの巨大な光線と、アカムとアイシスが放った魔力収束砲。

 空中で衝突し、一瞬で相手の攻撃を呑み込んで打ち勝ったのはアカム側の攻撃であった。


 両者の放った魔力量はキリングアイズの方が劣っていたのだが、それでもそのエネルギーはあっさりと呑み込まれるほど小さいものではなかった。

 それなのに魔力収束砲が一方的に打ち勝ったのはそれが何の属性も与えられていないただただ集めて放っただけの純粋な魔力の塊だったからだ。


 純粋な魔力であるがゆえに、魔力で構成されたエネルギーへの耐性は異常に高く、その結果魔力収束砲はキリングアイズの放った光線を取り込んだのである。

 光属性の巨大な魔力を取り込んだ魔力収束砲はより巨大な光の弾となってキリングアイズに襲い掛かり、身体の上半分の全てを消し去ったのだ。


 もっともそれは本来の魔力収束砲の力ではない。

 本来の力であっても結果は変わらず相手の攻撃を打ち破る威力はあるが、相手の魔力を取り込むような力は存在しなかった。

 だが、今回魔力収束砲に使われた魔力は異常な適応力を持つアカムの魔力である。

 そのアカムの魔力から作られた純粋な魔力の塊は純粋ではあるが性質は極めて異常な魔力であり、その結果本来は有り得ないほどの魔力に対する親和性を得て敵の攻撃を取り込むに至ったのである。


「まさかここまでとは思いませんでした……」


 アイシスもその結果を見て思わず唖然としていた。

 自身もまたその魔力から生まれた存在であるがゆえに異常な魔力であることは知っていたが、それでも敵の魔力を呑み込んでしまうとは予想外だった。


 それはつまり防御することが不可能であることを示唆している。

 魔力収束砲を防ぐのであれば強固な魔力による防護が必要不可欠になる。

 そんな強固な守りを作る方法があるのか怪しいところだが、仮に魔力収束砲を防げる結界があったとしてもその結界を構成する魔力が取り込まれるのだからどう防御しろというのか。

 むしろ防ごうとするほど取り込む魔力が増えるため威力が上がりかねない代物だ。


 何より恐ろしいのはその魔力収束砲に必要な魔力を数十秒で用意できてしまう己のマスターだろう、とアイシスは視線を魔石に変じたキリングアイズから、地面に倒れて意識を失っているアカムへと向ける。


「見た目こそ衝撃で吹っ飛んだからボロボロですけど全身に擦り傷がある程度。内側も筋肉を少し痛めただけで内臓なども正常に機能していますね……それが逆に異常極まりないですが」


 意識こそ失っているが怪我は全身に擦り傷があり筋肉を多少痛めた程度。

 これもアイシスが機械因子オートファクターの機能を使って治癒能力を高めることですでに治り始めている。

 意識を失っているのも頭を打ったわけでもなくあまりにも長い魔力枯渇からの一時的なものだ。

 さすがのアカムでも、何度も魔力障壁を使っての枯渇と満タン状態を連続で繰り返し、数十秒に渡る魔力枯渇状態による負荷が合わされば意識を保っていられなかった。


 それでもアカムが五体満足で酷い怪我がなかったのは意識が無くなるその時まで、馬鹿正直に自分は耐えられる、耐えてみせると念じながら身体強化をかけていたからだ。

 その思いにアカム自身の異常な魔力が奇跡的に呼応して普段の限界以上、ほとんど全ての魔力を使っての身体強化を可能にしたことで魔力収束砲の反動に耐え切ることができたのである。


「うぅ……」

「おはようございます。一分程の睡眠、よく眠れましたか」


 アイシスが魔力収束砲の反動を最低限必要な補完をしてないのにも関わらず軽傷程度まで耐えたアカムを見て呆れていると、どうやら意識が戻ったらしくうめき声をあげる。

 目を開けてキョロキョロとするアカムにとりあえずは目覚めの挨拶を冗談交じりに告げる。


「あー……節々が痛い」

「ご安心ください。マスターは見事反動に耐え切りましたので重傷も無ければ後遺症もありません。今残っている痛みもすぐに治まるでしょう」


 その声にアカムは起き上がろうとするがジンジンと痺れるような痛みを節々に感じてそれを顔を顰め呟く。

 その程度で済んでいるのは驚きなのだがと思いつつも問題がないことをアイシスが伝えれば安心したように地面に身体を預け深く深呼吸する。


「こうして無事ってことは……倒せたんだよな?」

「当然です。すでに魔石に変化しています。それとなぜか宝箱も出てきました」

「宝箱が? ……まあ、キリングアイズは階層を限定しない災厄みたいなもんだからそういうこともあるのか」


 落ち着いた様子を見せるアカムが事の成り行きを尋ねればアイシスは頷きつつ宝箱が出てきたことを伝える。

 それを聞いて少し考えるように眉を寄せるが、面倒になったのか考えるのもやめにして適当な予想だけ立ててボーっと空を模した迷宮の天井を見る。

 それからおもむろに小袋から何かを取り出そうとするがそれは叶わない。


「……ああ、これだけボロボロなら革袋もボロボロか……魔石用の袋は発見っと」

「あちらに非常食用の袋もありますが……中身は散らばってますね」


 望みの物を取れなかったことに首を傾げて起き上がり、自分の様相をみて納得する。

 それから周囲を見れば魔石を零しつつもギリギリ使えるかとった具合の袋を見つけ、アイシスもその様子から探しているものを察して非常食……超高濃度高圧縮栄養剤ハイレーションの入っていた袋を見つけそれをアカムに伝える。


 アカムは伝えられた情報に視線を移すと、アイシスが言ったとおりにボロボロの革袋と地面に散らばったハイレーションが目に入る。

 それを見てアカムは立ち上がりそこまで行くと十個ほど拾って《クリーン》を使って汚れを落とす。


「食べるのですか?」

「無性に腹が減ってな」


 アイシスの問いは落ちていたものを食べるのかというのもあるが、味をすでに知っているためにそんな不味いものをわざわざ食べようと思うのかという意味も含んでいて、少し顔も歪めていた。

 アカムはそんな様子に気付くことも無くまとめて口に放り、バリバリと噛み砕く。


 味はともかく効果は絶大のハイレーションを十個食べたことでとりあえずの空腹感は無くなり、《ウォーター》で水を作ってがぶ飲みしたアカムは先ほどよりも幾分活力を取り戻していた。


「よし、じゃあ魔石の回収と宝箱の中身を確認するか」

「一体何が入っているのでしょうか」

「まあ、大体予想はつくがな」


 アイシスは好奇心に駆られているようだがアカムはなんとなく中に入っているものが何かすでに予想できているようだった。

 そんなアカムの様子にアイシスもまたそれを察して、もしそうであれば運命は何をさせようとしているのかと首を振る。


 そうして宝箱まで近づき、ある程度離れたところから宝箱を開けるが、何かが飛び出してくることはなかった。

 今回も罠はなかったが、そもそもキリングアイズとの遭遇自体が最大級の罠とも言っていいものであるためその結果は当然かもしれない。


 とりあえず一応の安全を確認したアカムはゆっくりと近づいて宝箱の中を覗き、中に入っていた物を取り出す。

 その表情に驚きはなくやっぱりかというように呆れた表情を浮かべていた。


「識別……間違いなく機械因子オートファクターですね。四つ目の獲得おめでとうございます」

「やれやれ……ただでさえこのボロボロの姿をイルミアにどう説明したらいいか悩ましいところなのにな……」


 手にした黒い球を見てアイシスが間違いないと頷き、アカムは嬉しくないわけではないが別のタイミングにしてほしかったと疲れたようにため息を吐いた。


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