47話 魔力収束砲
キリングアイズをどう倒すか悩んでいるときに、アイシスが自信満々にとっておきがあると告げ、アカムはそれを早く教えろと急かす。
「まずは現状をまとめましょう。相手は当たれば致命傷間違いなしの光線を回避不可能な密度で撃つことができます。そのために遠距離戦は不利です」
「かといって接近戦も厳しいな。あいつの拳を振る速度は思いのほか早いし、その間も光線は防がないといかんからな……」
「はい、その通りです。それに先ほどの攻撃でも表面に傷が入った程度となるとそれは機械因子の力に耐えることができると言うこと。そうなると接近戦に持ち込む意味がありません」
結局、遠距離も接近戦も駄目なら打つ手がない。
現状を把握するごとにそう感じてしまうが、それでもアイシスは無駄な希望を与えるようなことは言わないことはこれまでの経験から分かっていたために、アカムも否定的になることもなくアイシスの言葉を待つ。
「というわけでやはり遠距離からの攻撃でアレを倒しましょう……っと、魔力障壁展開」
「う……遠距離からと言ってもその手段が無いんだが」
「ええ、マスターが現時点で知っている範囲ではないでしょう。精々石などを投げる程度ですか」
話の途中であってもキリングアイズは悠長にそれを待っているわけではなく、再び光線を放つがそれは魔力障壁により全て防がれる。
魔力障壁による防御力とそれを展開するアイシスに対しては絶大な信頼を置いているために、チラリとキリングアイズを見るだけで後はほとんど意にも介さず、障壁を展開する際の魔力枯渇にも少し顔を顰めるだけで平然としながらもアカムは会話を続けた。
すでに魔力枯渇にも前ほどの反応を見せなくなってきているアカムの様子をアイシスはこっそりと伺い、満足そうに小さく笑みを浮かべる。
「現時点で俺が知っている範囲ではない……ね。で、その方法は?」
「さすがマスター。察しが良いですね」
「茶化すな……で?」
誰にでも分かることでわざとらしく褒めるアイシスに苦言を零しつつ、アカムは詳細を尋ねる。
それを受けてアイシスも直前までの少しふざけたような様子から一転して真剣な表情を作り、方法について話しはじめる。
「では、その方法を……話す前にまず、そのとっておきの機能を今まで伝えてこなかった理由について知っておいてもらいます」
「理由?」
「はい。今まで伝えてこなかったことの理由ですが……簡単に言えば危険だからです。その機能の使用時には負荷が大きすぎて、マスターの肉体に多大なダメージを残す可能性があります」
「なるほど……いや、補完は?」
これまでにないほど真剣な様子で今まで機能について知らせなかった理由を話すアイシス。
その言葉にアカムも一応納得するのだが、その負荷に耐えるために機械因子を導入したときに補完されたはずではなかったかと疑問を感じる。
「耐久力を向上させると言ってもいくらでも向上させられるわけではありません。複数の機械因子を使用すればその分だけ耐久性も向上しますが」
「まあ、それもそうか」
その疑問も当然来るだろうと予測していたのか間をおかずにすぐにその答えを説明され今度こそ納得したように頷く。
なぜ限度があるのか。
それは機械因子には一つ一つに収納用の異空間が備わっており、変形や補完はその異空間に入っている材料を使って行っているためだ。
またこの異空間は初期導入の際しか開くことはできず、導入後は消滅するようになっているので物を収納するために使うといったことはできない。
正確に伝えるならばその辺りも説明するべきかもしれないが、知ったところで何かが変わるわけでもなく、そうであるなら説明する必要はないとアイシスはその辺りを省いて説明した。
「さて、その機能ですがその名を『魔力収束砲』といいます。その名の通り魔力を集めて収束したものを撃ち出すというものです」
「……なんとなく魔力障壁の事を思い浮かんだんだが」
「お察しの通り、同じように魔力を大量消費する攻撃です。それに攻撃可能になるまでチャージが必要でマスターの魔力出力でも少し時間がかかりその間は動くこともできなければ魔力障壁も展開できません。また、撃つときの反動などは本来なら機械因子四つ分耐久力を向上させた状態で何とか耐えられるかといった問題だらけの攻撃手段です」
アイシスから告げられたとっておきの機能の詳細にアカムは眉をよせ難しい顔をする。
魔力が枯渇するとことについては我慢すればいいが、攻撃までに時間がかかりその間は無防備でしかも撃てば反動で自分の身が危ないというのだからその手段を取るのことのリスクがあまりにも大きい。
「無防備な間にキリングアイズの攻撃のほうが先に来る可能性はあるよな?」
「はい。ですがこれまでの間隔から考えると十分攻撃前にチャージすることができる計算です」
「なるほど……反動については?」
アカムが懸念すべきことを聞けば相手の攻撃が来るよりも先にチャージは完了できるらしい。
当然、計算よりもキリングアイズが早く光線を放ってくる可能性もあり、その可能性も頭に入れつつ頷き、もう一つの懸念について尋ねる。
「正直なところ無事でいられる保証はありません。チャージ完了後には魔力が使えるようになるのでできる限りの身体強化をすれば五分といったところでしょうか……私としましてはそんな賭けに出るよりも逃げるべきだと思いますが」
「なら、なぜそれを教えた?」
無事に済むかは半々。
アイシスはそれを伝えるとともに逃げるべきだと提言してきて、何を今更とアカムは怪訝な目を向ける。
対抗手段があると教えられなければアカムはそのまま逃げていただろうからだ。
「逃げるのはマスターらしくないでしょう。……それに機械因子があの程度の相手も倒せないと思われては屈辱ですからね!」
アカムの問いにアイシスは静かに呟いて少し沈黙し、まるでふざけるように胸を張ってもう一つの理由を言う。
その態度は確かにふざけているように見えたが、キリングアイズを睨むアイシスの目は真剣そのもので、その言葉が真実そのものであることを感じさせた。
そんなアイシスの言葉にアカムは一瞬ポカーンとして、すぐに大笑いする。
「クク……そうか、屈辱か。俺も逃げるなんでできればしたくない……その賭けに乗ろう」
「その選択はイルミア様を泣かせるかもしれませんよ?」
「うっ……無事に切り抜ければ問題なし!」
しばらく笑ってからアカムはその賭けに乗ることにした。
アイシスに、イルミアの名前を出されれば少し怯むが、それでもキリングアイズを正面から倒したい想いが勝ったようで意見を変えることはしない。
「そうですか……では大鉈を手放した状態で右腕をキリングアイズに向けてください」
「おう」
アイシスの指示にアカムは大鉈を放り、右腕を正面キリングアイズへと向けて伸ばす。
本来ならアカムが指示し、アイシスが応えて補助をする二人だが、この時ばかりは立場が逆転していた。
「魔力収束砲、起動。発射準備開始」
アイシスがそう呟くと共に、アカムの前腕部が傘のように開く。
それと同時に肘と肩が固定されて、アカムが動かそうとしてもピクリとも動かせなくなる。
「敵の攻撃を一度魔力障壁で受けてからチャージを開始します」
「いよいよ仰々しくなってきたな……」
「マスター、今のうちに覚悟を決めておいてください。魔力収束砲の反動は生半可なものではありませんので。とにかく自分なら耐えられるとそれだけを考えて気合いを入れてください」
後はキリングアイズが光線を撃ってくるのを待つのみといったところでアイシスがそんなことを言う。
気合いを入れれば何とかなるものなのかと少し疑問に思うが、他ならぬアイシスが無意味なことを言うわけがないとすぐにその疑念を振り払い力強く頷く。
「頑張ってくださいね……っ! 魔力障壁展開!」
「いよいよかっ」
そしてついにキリングアイズの光線が再び放たれ、それを防ぎ終ると同時に魔力障壁は解除され同時に魔力が全て右腕へと集められていく。
この段階でアカムの仕事は無く、尋常な量ではない魔力が集まっているのを感じるだけしかできない。
一秒ごとに集められていく魔力はその密度を増してバチバチと閃光が漏れる。
その魔力自体は自身の魔力だと言うのにあまりにも膨大な魔力を近くに感じてアカムは言い知れぬ不安を感じていたがそれに必死に耐える。
「エネルギーチャージ90%まで完了……」
「後少しか」
アカムが不安に感じていたことを察したからかどれだけチャージできたかをアイシスが知らせてくる。
その数字を聞いて後ほんの少しだとアカムも少しだけ安心する。
「チャージ完了まで後5秒……4……3……」
「チッ、目を開きやがった!」
そしてついにカウントダウンを開始しいよいよと思ったところでキリングアイズが目を開く。
元々それだけの間隔で十分だったのかそれとも集まる魔力を感じて慌ててなのかは分からないが、それは今までの間隔よりもずっと早い開眼で、アカムは思わず声を漏らす。
「チャージ完了……マスター」
「っ!! 撃てぇ!!」
だが、光線が放たれるよりも早く攻撃準備が整い、アカムの魔力も瞬時に満たされる。
アイシスの声を聞き、魔力が満ちたのを感じ取ったアカムは全力で身体強化をかけ、絶対に耐えられる、耐えてみせると意気込みながら叫ぶ。
それを引き金に極限まで集められた魔力は解放され、巨大な魔力の濁流がキリングアイズへと放たれた。
それと同時にキリングアイズも光線を放っていた。
それも今までのような雨のような光線ではなく、全ての光線を一つに束ねての巨大な光線だった。
その光線もまた膨大な魔力から作られていて全てを呑み込まんとする勢いでアカムへと突き進む。
そして一瞬後にはアカムたちの放った魔力収束砲とキリングアイズの放った巨大な光線は空中で衝突するのだった。