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40話 暴走?

 あれからアカムは大鉈で前方の草を刈りながら太陽目指して進んでいる。

 どうやらここら一帯にはサイクロプスしかいないらしく出会う魔物はサイクロプスばかりだった。


 最初は苦労したサイクロプスの光線も、よくよく考えればサイクロプスの視線に気を付ければ撃たれる場所など丸分かりで、予めその射線上に機械因子オートファクターや大鉈を置いておけば簡単に防げることに気付いてそれほど苦労することも無くなっていた。


 視線の先を間違えれば逆に不意を突かれかねないのだが、その辺りはアイシスが相手の視線の先を分析し、限りなく誤差をなくして教えてくれるため相手の攻撃を予測するのにも苦労は無くもはやサイクロプスは草同様に即座に魔石にされる憐れな魔物と化している。


「地面も溶けるほどの熱線らしいが、《不壊》の大鉈はともかく機械因子オートファクターも何ともないんだな。まあ、火山エリアで散々溶岩に触れてたし今更だけどさ」

「それは当然です。あの程度の熱量でどうにかなるほど軟な造りではありません」


 何度も光線を受けているのに何ともない機械因子オートファクターを見てアカムが感心したように言葉を零すが、その言葉にアイシスは自慢げにして肯定する。

 やはり元々機械因子オートファクターの補助人格であるためか、機械因子オートファクターに対しては並々ならぬ誇りのようなものを持っているらしい。


 アカムもこれまで何度も機械因子オートファクターに助けられ、今ではかなり信頼しているのでその気持ちは分かるために、どこかドヤ顔にも見えるアイシスをからかうことも笑うことも無く納得するように一つ頷くのみだった。


 それから少ししたところでアイシスが敵の存在を知らせる。


「サイクロプスではない敵性反応があちらから一体向かってきています。なかなか速いですね」

「見えないが……いや、あれか」


 アイシスの言葉に告げられた方向へ目を向けるが魔物の姿は全く見えなかった。

 もっとも草丈がアカムの胸ほどまである草原であるため、魔物の大きさ次第では隠れることは容易だ。

 そのため、魔物ではなく草のほうに注意してよく見てみればいくつかの草がものすごい勢いで揺らめいているのに気付く。


「やけに細長い……おそらく蛇型と思われます」

「四十二階層で蛇と言えば……ハイドサーペントか」


 ハイドサーペント。

 その名から隠れ、潜むことを得意とする魔物のように思えるが、意外にもハイドサーペントは待ち伏せをすることはない。

 敵を見つけたら音もなく高速で忍び寄って急襲する。

 それがハイドサーペントという魔物であった。


 実際草が幾つも倒れているにも関わらずどれだけ耳を澄ましてもアカムはその音を聞き取ることができなかった。

 揺らめく草の隙間から姿を見ようともしているが影も形も全く見えない。


「このままの速度ならあと10秒ほどで接敵します」

「……影も形も見えんが……っ!?」


 アイシスの言葉にすでにかなり近くまで来ていることを知るがそれでも魔物の姿は全く見えなかった。

 それを訝しむアカムだったが、アイシスが来ると告げた方向から草そのものがこちらへと襲い掛かってきたのを見てギョッとしながらも推進装置による回避で難を逃れる。


「草が迫ってきた!?」

「いえ、どうやら擬態して視認し辛くしているようですね」


 突然草が迫ってきたように見えて驚きの声をあげるアカムに、アイシスが冷静に何が起こったのかを説明する。

 その言葉に一瞬機械因子オートファクターのほうを見てその意味を理解する。


「じゃあ、さっき揺らめいているように見えた草はもしかしたら、蛇そのものだったのか!」

「かもしれません。……きます!」


 会話している間もハイドサーペントは当然動いていて、アイシスはずっとそちらを指さしていたのでアカムもそちらをずっと警戒していた。

 そしてアイシスの合図を聞くとすぐ右へと回避する。

 ただし今回は推進装置を使わずに最小限にである。


「ぬぅ!?」


 しかしどうやら回避が甘かったようで左腕が思いっきり噛みつかれ、そのまま引っ張られる感覚に声をあげる。

 もっともそれは推進装置による急加速ほどの物ではなく、腕も感覚があるとはいえ痛覚などはない機械因子オートファクターであるためにその声はただ驚いただけに過ぎない。 


「噛まれてる部分は肘から先ですので肘から分離すればいいかと」

「あいよ!」


 腕が引っ張られてる状態では、どう噛まれているのかをうまく確かめられないアカムに変わってアイシスがそう告げれば、アカムはすぐさま左腕を肘から分離させる。

 もちろんそれなりの速度で引っ張られていたために分離したところでアカムはそのまま慣性で宙を舞うが、そこは推進装置による回避法に慣れていたために即座に体勢を立て直し、無事地面に着地する。


「腕は……あーなんか温かいっていうか液体に触れた感覚があるっていうか……食われたなこれ」

「……マスター。早くあの糞蛇をぶち殺してください」


 アカムの腕は例え分離して離した状態であっても感覚があり、機械の腕だとしても温度や触感なども感じることができる。

 その為腕を通して感じてしまった暖かくどこか柔らかい触り心地と何か液体のようなもに浸かるような感覚から腕がどうなったのかを理解して、それをアカムが軽い口調で言えば、アイシスが無表情で目をどこか暗くして即座に倒せと提言してきた。


「お前……今まで手刀で魔物の体内に突っ込んだこともあったと思うが」

「それとこれとは別です」


 どうやら己の誇りでもある機械因子オートファクターが食べられたということに我慢ならないらしく、アカムの言葉を強く否定する。

 これは頼みをさっさと聞いてあげた方がよさそうだと、アカムは首を振って左腕で思いっきりアッパーを繰り出す。

 当然、左腕は肘から先はハイドサーペントの腹の中にあるが、機械因子オートファクターは遠隔でも自由に扱うことができる。

 その為、体内にあった機械因子オートファクターはアカムの意思通りにアッパーを繰り出し、内側から蛇を打ち上げた。


「シャーーーーー!?」


 少し離れた場所で細長くとも巨大な姿が空に打ち上がり、驚いたかのような蛇の声が聞こえた。

 空に打ち上げられたことでハイドサーペントの姿をハッキリと見ることができたので、アカムは少し観察する。

 

 体長は10m程で、太さも2mはあるが、全体からみると細長い姿だ。

 体表はやはり草模様になっていて草むらに隠れられるとなかなか見つけづらいと感じさせ、あの模様が擬態の正体なのだろうとアカムは納得する。

 そんなハイドサーペントの身体のちょうど中心あたりだけが極端に天に伸びるようになっていることからどうやらかなり柔軟な体をしているようで、宙にぶら下がったままで何もできない状況に戸惑ってこそいるが、大したダメージはないようだ。


「やっておいて言うのもなんだけど、あの巨体を軽々宙に持ち上げられるってすごいな」

機械因子オートファクターの力があればその程度……ってそれよりも早くあの蛇をぶち殺してください!」


 アカムの呟きに、アイシスが自慢げに語りだすが、すぐに声を荒げて文句を言ってくる。

 今度は今、左腕の拳が接触している部分をガシッと掴んで今度は下へと思いっきり引っ張る。

 するとハイドサーペントは地面に思いっきり叩き伏せられる……かと思えば音もなく着地してこちらを襲おうとしてきた。

 だが、その場からハイドサーペントが動くことはなかった。

 いや、できなかった。


「地面を進む力はなかなからしい。それなりに力を込めんと止められん」


 それは当然アカムが掴んだ左腕でその場に固定しようとしていたからだ。


 機械の腕なのに力を込めるというのもおかしな話だが、機械因子オートファクターには力加減ができるようにその辺りの感覚もはっきりと感じられるようになっている。

 その為、段階的に力を込めるように意識することで引き出す力を調整できる。

 この感覚はただ、力を調整するためのものでもなく、違和感を抑えるための機能でもあった。

 もし力を込める感覚がなければ自分の腕ではない別の何かが勝手に動いているだけのように感じてしまい、それによって生じる違和感が操作精度にも影響を与えてしまうための処置なのだ。


 アカムはその感覚を通してハイドサーペントの力を感じ、それを止める程度の力でハイドサーペントをその場に抑えていた。

 ハイドサーペントは体の内側から引っ張られて動けないことに困惑しているようで何とか逃れようと体を捻ったり暴れたりするが、自分の体内にある物をどうこうすることはできない。

 その状態で他にもいろいろとアカムが試そうとした時に突然と左腕を操ることができなくなった。


「マスターの機械因子オートファクターの操作権限を一時的に掌握。右腕分離、高速回転開始――――消し飛びなさい」

「おい、それっ……うっ!?」


 アイシスが突然、静かな声で話しながら右腕を操作していく。

 おまけにアカムの周囲には魔力障壁まで生成され、アカムは突然のアイシスの行動に文句をいう間もなく、強烈な気持ち悪さに耐えるしかなかった。


 そしてアイシスの操作により、異常な速度で回転して衝撃波で周囲を激しく破壊するソレはハイドサーペントへと射出され、その体を木端微塵に吹き飛ばすのだった。

遅くなりました。

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